2022/3/4

【サンリオ小巻×ユートラ岩崎】次世代に語る「女性リーダーのリアル」

NewsPicks Brand Design / Senior Editor
女性が当たり前に働く時代。さまざまなライフイベントに直面しながら、女性はどのようにキャリアを考えればいいのだろうか。

NewsPicksは、女性のキャリア形成に寄り添い、エンパワメントするコミュニティ型のプロジェクト「NewsPicks for WE」を始動。2021年12月18日に行われたローンチイベントでは、次世代のロールモデルや女性リーダー、専門家たちが、女性のキャリア形成について議論を繰り広げた。

本稿では、サンリオエンターテインメント取締役社長の小巻亜矢氏YOUTRUST代表取締役の岩崎由夏氏が、女性のライフイベントとキャリアについて語ったセッションの一部をレポートする。

キャリアに“モヤる”時間が自分を成長させてくれる

──「人生すごろく」は新入社員時代から始まります。当時の“やらかしエピソード”はありますか?
小巻 知りたいことだらけの仕事が楽しすぎて、こっそり休日出勤して上司に怒られたことがあります。
 ちゃんと休むようになってからも、競合他社の店舗を見て歩くなど、結局は仕事につながる行動をしていました(笑)。
──仕事好きならではのエピソードですね。すごろくの次の目は「転職」。小巻さんは、どんなタイミングでキャリアチェンジを考えましたか?
小巻 経験上は、時間の使い方に行き詰まったときですね。
 私は20代で結婚退職して、出産を経て30代後半で復職後、さまざまな仕事をしてきました。
 子育てと仕事のバランスについて周囲から理解を得られず、同性からのいじめといった人間関係の悩みにも発展してしまって……。
 40代で大きな病気をしたときも、仕事が気になってきちんと体を休めないままに復帰し、痛い目を見ました
岩崎 私は前職のディー・エヌ・エー時代に、出向先でさまざまなスタートアップ企業を見て、自分もスタートアップで働きたいと転職活動を始めました。その経験が、現在の転職市場での起業につながっています。
 起業前は、「やっぱり怖い」「今の生活も捨てがたい」と3カ月くらい迷いましたね。でもある日、「絶対に起業する!」とスイッチが入ったんです
モデレーターは、NewsPicks Studios シニアエディターの川口あいが務めた。
小巻 いても立ってもいられなくなる瞬間って、ありますよね。
 だから、悩んでいるうちは今の職場で踏ん張る方法を模索してもいい。モヤっている時間は、人を成長させてくれますから
 私も復職したときは、「このままで終わりたくない」という気持ちが抑えられませんでした。専業主婦時代は、自分が社会から取り残されているようで、もどかしさと焦燥感があったんです。
岩崎 アウトプットを変えたいなら、やり方も変える必要があるんですよね
 ラッキーなことに最近は、転職や社内異動のほかに、副業やプロボノ的な関わりなど、キャリアに幅を持たせられる選択肢が増えつつある。
 転職一択だった時代のように、それまでのキャリアを完全に断ち切る必要は、もうなくなっています。
──岩崎さんが20代のときは、ご自身のキャリアにどんな思いを抱いていましたか?
岩崎 振り返ると、何歳で結婚して、何歳で出産して……と意味のない逆算をしては、産休・育休後のキャリアに不安を覚えていました。まだ結婚もしていないのに(笑)。
 あれは本当に無駄でした。子どもを産んでみて、選択次第でキャリアは止まらないとわかったんですよ。
 「30歳までに別のスキルを身につけねば」と焦り、会社にかけあって異動もさせてもらったこともありました。でも今思えば、自分のキャリアにブレーキをかけていただけでしたね。
小巻 人生は想定外で思うようにいかないから、巡りくることから最大限学び取るしかない。
 逆を言えば、学びへの貪欲ささえあれば、未来を恐れることはないと思います。

「母親なのに仕事に没頭するなんて」はアンコンシャス・バイアス

──女性にとって、キャリアと子育ての両立はまだまだ課題です。お二人はどうやって2つのバランスを取ってきましたか?
小巻 そこは私自身もかなり苦労しましたね……。誰かに助けを求めることが苦手で、何でもかんでも背負いすぎた結果、精神的にも身体的にも、無理をしていた時期が長くて。
岩崎 私は今まさに子育て真っ最中ですが、小巻さんとは逆のタイプで、すべてを自分でやるべきだとは思ってないんですよね。だから、気楽に両立できています。
 家族や会社のメンバー、保育園、シッターさん、家事代行さん、自分と夫の両親、近所の友人など、頼れるものは総動員しています。
 自分の周囲を見ても、家事や育児のアウトソースは、以前よりも普通のことになってきているのかな、と。
 それに、育児との両立は、仕事にもいい影響があると感じます。
 子どもが仕事のスイッチをオフにしてくれるから、仕事だけにのめり込みすぎなくて済むんですよ。
 視野が狭まらないし、息子と一緒にお風呂に入っているときに、ふと新しいアイデアが浮かんできたり……。
小巻 素敵ですね! ありがちなのは、「母親だから、仕事に没頭してはダメなのではないか」という罪悪感です。
 この感覚にとらわれると、会社や子ども、サポートしてくれる人たちに謝ってばかり。精神的に縮こまり、仕事も子育ても楽しめなくなってしまう。
 でも、その罪悪感はアンコンシャス・バイアス(※)ですよね。「みんなで子育てを楽しむ機会を提供しているんだ」くらいの気持ちで、もっと仕事や学びへの欲望を解放してもいい気がします。
※ 誰もが持つ「無意識の思い込み」を指す。固定的な性別役割分担の意識や、性差に関する偏見・固定観念が、ジェンダーギャップの要因とされる
──キャリアの停滞が心配で、子どもをつくるか二の足を踏んでしまうという声もよく聞きます。
小巻 今までの女性は、苦しそうに仕事と家庭を両立するロールモデルがほとんどでしたから、たしかに心配になりますよね。
 でも、時代は確実に変化していて、ロールモデルは増えつつあり、学ぶ場もある。
 そもそも「止めない」という意思さえあれば、キャリアは止まりません
 だからこそ両立を考えてほしいし、周囲と相談しつつ期間限定の子育てを後悔しないように取り組んでもらえたらと思います。
岩崎 産休・育休は、大学受験における浪人時代のようなもの。人生から見たら短いし、そのときは不安になることもあるけれど振り返ると意味があると思える時間ではないでしょうか。
小巻 そうですね。人生100年時代、キャリアと向き合う時間も長くなります。
 そこを生き抜くうえで、横のつながりを作って助け合ったり情報交換したり、共に社会を変えたりできるのが、女性の強みになるはずです。

「私なんか…」と考える人こそ、マネージャー向き

──キャリアを積んだ先に視野に入るのが、マネージャークラスへの昇進です。チームを率いる立場としての、やりがいやハードシングスは?
岩崎 何事も自分次第で、自分の会社の未来を自分が握っているのは、「生きている」という実感があって楽しいです。
 立場が変わると、接点を持つ人が変わり、その人たちの目線を学べるようになる。
 よく「人は周囲5人でできている」といいますが、接する人からの影響を受けて、自分が成長していく感覚にも充実感があります。
小巻 会える人、見える世界が変わるのは刺激的ですよね。孤独も感じますが、「alone」というよりも自発的な「solitude」の感覚です。一人舞台みたいな感覚で、ちょっと楽しくないですか?
岩崎 わかります! 以前、私の師匠であるディー・エヌ・エーの南場智子会長から「社長ならば公人たれ」と教わったんです。
 自分のかける言葉一つでがんばれる人も、会社を見損なってしまう人も生む立場なのだから、たとえ社員と1対1で話しているときも自分を律さねばならない、と。
 誰にも本音を言えないしんどさを感じる日もありますが、一方で「社長の責務を全うできているな!」という感覚です。
小巻 プレッシャーに押しつぶされそうなときもありつつ、エイッとがんばると、確実に成長できる。そこが責任ある立場の醍醐味です。
 もし昇格を打診されている人がいたら、私は絶対に背中を押したいですね。
 「マネージャーは大変」というのも、一つのアンコンシャス・バイアスだと思うんですよね。
 そもそも人には得意・不得意があるもの。役職に就いたからといって、すべてを完璧にこなせる人なんて存在しません。
 前任者と同じことをする必要はないし、自分にできないことはできる人に助けてもらえばいい。今は、1人のスーパーカリスマリーダーよりも、チームの力が求められる時代ですから。
岩崎 女性は「自分なんかがマネージャーになっていいのかな」と自分の弱みに目が行きがちで、インポスター症候群(※)的な側面もあると思います。
※ 周囲に評価されても、自分自身の能力や実績を自らが認められない心理状態を指す
 ただ、弱みを直視している人は、どうすればそこを補完できるかもわかる。その意味ではリーダー向きだとも思うんです。
 自分に足りない部分を補える人をアサインして理想のチームを作るって楽しいですよ。

チームに必要なのは、反対意見を言う人

──チームを持つと、より幅広い人たちと仕事することになります。多様性のなかで働くとき、何に気をつけるべきでしょうか?
岩崎 私はチームづくりの段階から、多様性を重視しています。
 特に経営チームのCxOなどの重要なポジションに置くのは、過去に私へ建設的な反対意見を言ってくれた人と決めています。
 私と同じ意見は、私が言えば十分。あらゆる目線で一つの課題を見られるようにしたいから、チームメンバーにも独自の発想や意見、視点を持ち、発信してくれる人を選びます。
小巻 多様性のある環境だと、アイデアや議論が扇を開くように広がっていきます。それはイノベーションのもとになる一方で、バラバラに散らばってしまう恐れもある。
 だからこそ、“扇の要”として会社のミッションやビジョンを共有しておくことが、より重要になると考えています。
 個々の違いを否定しないために、リーダー自身が自己理解を深めることも大切ですね。
──お二人は日頃から、自分を知るための時間を取っていますか?
小巻 50代になって大学院で自己理解論を学び、日常的に自分の心の声に耳を傾けられるようになりました。
 モヤモヤしているときは、「母親としてはこうしたい」「社長としてはこうしたい」といった自分の中の異なる声を能動的に拾って、原因を探ります。
 そして、仲裁する自分をイメージして、「今はこっち優先しよう」と方向性を決めています。
岩崎 偶然にも、小巻さんと似たことを私もしています。悩んでいるときに自分の頭に湧いてくるワードを全部書き出しておいて、後で見返して自分の思考の傾向を理解するんです。
 あとは日頃からあえて他人と比較する。世の中と逆行するようですが、そうやって自分を理解するように心がけています。
 ちなみに小巻さんは心が折れそうになったとき、何がパワーの源になりますか? これまでの人生で大病をされたりと、困難もあったと思うのですが。
小巻 私の場合は、知りたい・学びたい欲求に火をつけると元気になれるんですよ。ゲーム好きな人がゲームし続けたいように、私は好奇心にストップをかけたくない。
 新入社員時代から持っていた「もっと知りたい」という好奇心が、私をここまで運んできてくれたんだと思います。
 何かを学ぶと出会う人が変わって、見える景色が変わる。そしてまた、次の景色を見たくなる。それは、人生もキャリアも同じなんですよね。