2022/2/25
【最新】なぜ、証券パーソンは“独立”を選ぶのか
NewsPicks Brand Design Senior Editor
証券会社の優秀な営業パーソンが、またひとり退職した──。
終身雇用が崩壊した現代においては、さして珍しい話ではない。優秀な人材が、よりよい待遇や環境を求め、業界内で転職を重ねる行為は日常茶飯事になっている。
しかし、今、金融業界で起こっている新しい人の流れは、これまでと少し違っている。
金融機関から独立し、「IFA(Independent Financial Advisor)」という生き方を選ぶ人が増えているのだ。安定した勤務先を手放してまで挑むIFAとは、いったい何なのか。
今回は、元証券パーソンであり、IFAという存在に金融業界の未来を見る3者が集結。IFAの魅力と、その存在が膠着した業界自体を変える可能性について語り合ってもらった。
なぜ、金融パーソンは「独立」を選ぶのか
──近年、証券会社や銀行から独立や転職をする方が多いと聞きます。どんなチャレンジをされているのでしょうか。
牧野 とくに目立つのが、IFAとM&A仲介会社への転職です。なかでも、私がマッチングサービスを手がける「IFA」は、今、人気の高い選択肢です。
IFAという職業については、まだまだ聞き慣れない方も多いかもしれません。
“Independent Financial Advisor”の略称で、日本語では「独立系ファイナンシャルアドバイザー」。個人投資家のサポートや資産形成のアドバイスをする専門家です。
その言葉通り、特定の金融機関には所属せず、“独立した”立場でお客様ごとに最も適した金融商品や資産運用を提案する役割になります。
株式や投資信託、保険、不動産など、IFAが取り扱う商品は多岐にわたりますが、お客様に商品を提案するという点では、既存の金融機関での業務とさほど違いはありません。
しかし、既存の金融機関では“会社都合”や“ノルマ”を加味した商品を提案せざるを得ないケースが少なくないのに対し、IFAには親会社やグループ会社などのしがらみが一切ないため、お客様にとって常に最適な提案ができる。ここが最も大きな違いです。
近年はメディアで取り上げられることも増え、この新しい働き方を選ぶ人が増えています。
馬場 お客様にとってベストな提案ができる点に加え、IFAの自由な働き方に魅力を感じ、転身を決める方も少なくありません。
証券会社は出社時間や勤務時間にあまり自由が利きませんし、支店ごとに担当エリアが決まっていてエリア外の顧客にはタッチできません。転勤もあります。
私も大手証券会社出身ですが、たとえば、当時はお客様から食事に誘われても、申請を出し会社から許可を受けないと応じられませんでした。
「そんな、ささいなことを」と思われるかもしれませんが、お客様と向き合うなかで融通が利かない場面が多くあることを窮屈に感じていました。
しかし、業務委託のIFAであれば、そもそも定時という考え方がありませんし、「IFA法人」として多くのIFAに正社員として所属いただく弊社の場合、働き方はフルフレックス。時間で縛ることは一切なく、自由に働いてもらっています。
居城 まさに働き方の自由度は大きく変わりますね。
個人的な話ですが、我が家では子どもが1歳の頃に妻が単身赴任しており、私がワンオペで家事・育児のすべてを担っていた時期がありました。
毎日、朝から夜遅くまで働いていた証券会社時代では、この状況には絶対に対応できなかったと思います。
IFA法人である当社にも、子育て世代のパパ・ママが多く在籍していますが、幼いお子さんがいるとなにかと平日に対応すべき事象が起こりますし、病気になると1日の休みでは済まないことも多いでしょう。
時間や場所の制約が少なく、自由に働くことができるIFAであれば、子どもがいることはまったくハンデにならないと私自身も実感しています。
顧客獲得は “どぶ板営業”がすべてではない
牧野 「自由」という視点では、顧客開拓の面でも従来の金融機関とはまったく違うアプローチが可能です。
私も前職は証券会社でしたが、見込み顧客に足しげく通ったり、電話をかけて新規開拓したりするのがすごく苦手で……(苦笑)。
そういった、これまで金融業界で鉄板とされてきた“どぶ板営業”に馴染めない方でも、自身の得意分野に合った多彩な方法で集客できるのが、IFAのおもしろい点です。
たとえば、SNSを駆使して動画配信をしたり、自主セミナーを開催したり。もちろん金融を扱う分野であるため表現などの規制はありますが、その範囲内であれば、お客様との出会い方は無限です。
居城 我々も、マーケティングに力を入れています。
「証券会社の看板を失って、新しいお客様と出会えるのか」という不安はよく聞きますが、当社ではセミナーによる集客や提携先からの紹介のほか、自社Webサイト等からの直接の新規お問い合わせを月に100件程度いただいています。
また、ゴルフの会員権を買って、月例会に出て顧客基盤を拡大しているとおっしゃるIFAにもお会いしたことがあります。
証券会社の社員だと平日の月例会なんてまず出られませんが、IFAはアイデア次第でいくらでもビジネスを広げられるな、と改めて思いました。
馬場 弊社でも、ウェビナーを積極的に開催し、多くのお客様との出会いの場になっています。
一方で、新規開拓が得意だ、という方にも、IFAは向いていると思います。
私の場合、証券会社の年功序列の報酬体系に不満を抱いたことも、IFAへの転身の理由のひとつでした。
証券会社では、インセンティブとして営業成績がある程度給与に反映されますが、実際にあげている成果ほどの違いがありません。新規営業が得意な方は、IFAになればかなり成功できると思います。
工夫次第で高収入も可能。では「リスク」は?
──とはいえ、証券会社など金融機関に勤める方は、安定した環境とともに高収入を得ているイメージがあります。IFAの収入面も気になります。
牧野 もちろん働き方によってかなり差はありますが、10年ぐらい証券会社に勤務して転身し、フルタイムで働いている方の典型的なパターンだと、年収3000万から5000万円ほどになる方も少なくありません。
子育てのスキマ時間を活用した働き方でも前職と同程度の収入を得ている人もおり、工夫次第で効率的に稼げる仕事だと思います。
私の知っているなかで、IFAとしての働き方が上手くハマったなと感じたのは、20代女性の方です。家庭があるなかでも提案商品や営業方法を工夫することで、前職の何倍もの収入を得られていた。まさに、時間の使い方と提案商品が自由であるIFAの良さが発揮された事例だと思います。
居城 良いロールモデルですね。当社でも、IFAになって前職の収入を下回っているという方はいないですね。
──自由な環境で、かつ稼ぎも上げられる。すごく夢のあるお話だと思う一方、IFAの需要はどこにあるのでしょうか。今の時代、大手のネット証券に口座開設さえすれば、個人でもさまざまな金融商品を自由に買うことができます。
居城 アドバイスを必要としない層が、安い手数料で幅広い商品に投資できるのがネット証券のメリットです。
ただ、選択肢が多すぎて何を買えばよいのかわからなくなる方や、だれにも相談できないことに孤独や不便を感じる方は意外と多くいらっしゃいます。
また、ネット証券では、預ける資産が増えても扱いはほとんど変わりませんし、コールセンターに電話しても込み合っていると長く待たされるのが一般的です。
こうしたところでつまずく方も多く、困ったとき迷ったときにすぐにつながるアドバイザーがいてほしいというニーズは少なくないんです。
実は今、ネット証券もIFAビジネスに力を入れています。IFAの独立性・中立性を尊重した上で、自社の顧客のサポートをしてほしい、と。
背景には、オンラインだけではカバーできないお客様のニーズに応えてほしいという思惑があるようです。
──なるほど。今後、資産運用の裾野が広がれば、IFAが求められる場面はさらに増えそうですね。ただ、良い話ばかりをうかがってきましたが金融機関からの転職には、デメリットもあると思います。
居城 もちろん、リスクは決して小さくありません。現在、IFAには高収入の方が多いのですが、それには近年の株式市場が好調だったことも影響しているでしょう。
万が一、リーマンショック級の金融危機がやってきたときに、同じような収入が得られる保証はありません。
馬場 また、社会的な認知度がまだ高くないIFAより、金融機関に勤めているほうが聞こえがいいのも事実です。独立したことで、住宅ローンの審査が厳しくなったという話を聞くことも。
居城 でも、これは笑い話ではないのですが、転勤が多いのでマイホームには興味がなかったという金融パーソンが、IFAになることで「プライベートの時間が充実し、家がほしくなった」という声はよく聞きます。
IFAとして3年ぐらい安定した売上を上げ続けていれば、住宅ローンの審査も通りやすくなる印象です。
馬場 ここは業界の課題ですね。もっとIFAという働き方を知ってもらうことで、社会的な評価も得やすい環境にしていきたいと考えています。
IFAになりたいと思ったら
──リスクも理解した上で「IFAとして働きたい」と考えた場合、どうすればいいのでしょうか。
牧野 働き方のパターンは、主に2通りあります。
IFA法人に正社員として所属する場合と、IFA法人と業務委託契約を結び手数料収入を分け合う個人事業主。なかには、馬場さんや居城さんのように、自らIFA法人を立ち上げる方もいます。
IFA法人も多種多様ですが、当社の「IFA PASS」では、正社員の給与水準、業務委託に対する手数料バック率、提携先の証券会社やその品ぞろえ、集客基盤など、当社が定める要件を満たした“優良IFA法人”に絞ってご紹介をしています。
さらに、キャリアアドバイザーは2年以上の活動歴を持つ「現役IFA」のみです。実際に独立したらどうなるのか……という不安に対しても、先輩の目線からさまざまな相談に応じられるのが強みです。
もちろん、転職希望者の方はすべてのサービスを無料でご利用できます。
──自分に合ったIFA法人を見極めるポイントを教えてください。
牧野 その法人がどのような発信をしているかをチェックしましょう。
たとえば、提携証券会社のセミナーで講師を務める法人は金融機関の信頼も厚いと考えられますし、露出が多いのは体制に自信がある証拠であり、集客力も高くなります。
また、手数料収入のうち、どの程度を報酬として受け取れるかを示す報酬体系とバック率も重要なポイントになるでしょう。
馬場 一匹狼的に自らの腕一本で稼ぎたい自信のある方は、業務委託として高バック率の法人を選ぶといいですね。
一方で、横のつながりや集客支援、情報収集力などを大切にしたいならサポート環境を重視するのがおすすめです。
また、IFAはフルリモートも可能ですが、やはり自宅近くに拠点がある法人のほうがなにかと便利です。
ちなみに、当社は全国に5か所の拠点を持っており、マーケティングや集客にはかなり投資しています。正社員雇用・業務委託の双方に対応しており、希望に応じて選んでもらっています。
居城 当社では、それぞれのアドバイザーがやりたいことに挑戦でき、困ったときにカバーし合える体制づくりを大切にしています。
すべての業務を自宅で完結できる環境や、子どもの病気などで急に休む場合のフォロー体制、司法書士や税理士などとのネットワークを重視しています。
牧野 両社のように、IFA法人は各社ビジョンや個性が異なっており、単純には比較できません。
IFA PASSでは、転職希望者の希望をうかがって、その人に合った法人をピックアップ可能です。
また、出身業界によって保険や不動産、M&Aなど金融商品以外に得意分野を持つ方も多いので、それぞれの強みに応じた法人をご紹介しています。
真に「顧客目線」の提案ができる環境か
居城 私は、IFAと金融機関の最も大きな違いは“クライアント”だと思っているんです。
建前はともかく、金融機関の社員が最も重視するクライアントは結局、勤務先になる。
なぜなら、目の前のお客様がどんなに喜んでくれても、所属企業が望まない結果になれば、評価を得ることができないからです。
一方、IFAは、転勤もなくずっと同じ顧客に向き合い続けるので、顧客からの評価が直接自分に反映されます。
金融機関では顧客本位の提案が難しいと感じている方には、ぜひチャレンジしてほしいですね。
馬場 現在、大手証券会社は富裕層に対するサービスを重視する一方で、ネット証券はアドバイスを必要としない層のニーズにしか応えられていません。
この両者の間に存在する、最もボリュームの大きい層がIFAの潜在顧客であり、ニーズはまだまだあります。
日本の金融機関に勤めるすべての人とそのお客様に「IFAという新しい選択肢」を与えたい。その思いで、私たちは日々努力を続けています。
もちろん、IFAが最も優れた存在だとは考えていません。でも、働き方の選択肢が増えることで、お客様への提案もより良いものにできると信じているんです。
牧野 私も、すべての金融パーソンがIFAになるべきとは考えていません。残念ですが、自身の利益だけを考え、顧客目線を失った提案をするIFAがいないとも言い切れません。
しかし、今後、IFAが増えていけば顧客本位の姿勢に乏しい個人や法人は淘汰され、それぞれの個性がより明確に際立つ状況が生まれてくると思います。
IFAは、資産運用を通してあらゆる人が豊かになれる社会を実現させる可能性を持っており、日本の資産運用を大きく変えていく存在だと私は信じています。
割合的には証券会社出身の方からのお問い合わせが多いのですが、最近では銀行や保険会社の方からもご相談が増えています。興味を持たれた方はぜひ、IFA PASSにご相談ください。
執筆:森田悦子
写真:岡村大輔
デザイン:Seisakujo inc.
編集:樫本倫子