合格者13人の狭き門
欧州最先端のマネジメント・アカデミーで学んだこと
2014/10/26
ヨーロッパのサッカー界では、各国が少しでも他国を上回ろうとしのぎを削っている。特に中堅国の動きが活発だ。サッカー大国を出し抜くためにアイデアを練り、国をあげて強化に取り組んでいる。オーストリアは、そのひとつだ。他国に先駆けてクラブ経営者やスポーツディレクターを養成する『ブンデスリーガ・スポーツマネジメント・アカデミー』を設立。そして今年9月、日本人として初めてモラス雅輝が卒業した。ヨーロッパの最先端のアカデミーでは、どんな授業が行なわれているのか? 連載で授業を再現する。
アジア人初の卒業生に
2014年9月3日、オーストリアの首都ウィーン——。
オーストリア国土防衛スポーツ省にて、『ブンデスリーガ・スポーツマネジメント・アカデミー』の卒業式が行われた。
僕を含む計13名のアカデミー卒業生に、オーストリア・ブンデスリーガ協会のハンス・リンナー会長より卒業証書が授与された。約1年半に渡って行われたアカデミーの最終日。無事に卒業できて嬉しかった半面、多くのことを吸収できたアカデミーが終了してしまうことを残念に思っている自分がいたのを鮮明に覚えている。
このアカデミーには、様々な立場の生徒たちが顔をそろえていた。厳しい試験に合格したのは13人。次のようなメンバーだ。
・プロサッカークラブの副会長
・プロサッカークラブのGM
・名門バイエルン・ミュンヘンの元ドイツ代表選手(現在はオーストリアの名門クラブの育成部門マネージャー)
・育成部門の指導者
・大手携帯電話会社のスポンサー担当
・法律事務所の社長秘書
・ウィーンの大手不動産会社社長
・地元クラブの理事を務めている商業高校の教師
・ウィーン経済大学の大学院生
・オーストリア1部のアメリカンフットボールクラブのGM
すでにクラブ経営に携わっている人間がいただけでなく、スポンサー関係の人間、他スポーツの関係者、法律のプロがいたため、ちょっとした休み時間の会話が授業そのものだった。
これから卒業生は、それぞれの道を歩むことになる。おそらくほとんどがサッカーに携わっていくことになるだろう。実際、卒業前にブンデスリーガのクラブへの就職が決まった生徒もいれば、ブンデスリーガ協会への就職が決まった生徒もいた。また、『Play Fair Code』というスポーツ(特にサッカー)の健全性や高潔性を守る活動を行う組織に進んだ同僚もいる。
ちなみに本連載では、「ブンデスリーガ」と書いた場合、「オーストリア・ブンデスリーガ」を意味することとする。かつて宮本恒靖や三都主アレサンドロが、同リーグのレッドブル・ザルツブルクでプレーした。香川真司や内田篤人らがプレーするドイツのブンデスリーガとは別物である。
アカデミーの授業内容
僕はこれまで地元オーストリア・インスブルックのスカウトや育成に携わってきただけでなく、下部組織や女子チームで監督として指導し、レッドブル・ザルツブルクで日本人選手のサポート、Jリーグの浦和レッズでコーチを務めてきた。ドイツのブンデスリーガのハンブルガーSVに研修に行ったこともある。それでもこのアカデミーで学ぶことはとても多く、ヨーロッパの最先端のスポーツマネジメントに触れることができた。
詳しいことは次回以降に順を追って紹介するとして、まずは大雑把に授業内容に触れておこう。
『ブンデスリーガ・スポーツマネジメント・アカデミー』の受講期間は約1年半。僕の場合は、2013年1月から2014年の5月までだった。核となるのが、計7回の期間に渡って行われる集中講座。講座内容は大きく2つの分野に分けられる。
1つは経営。「マーケティング」、「経営戦略」、「法律」、「財務」、「プロジェクトマネージメント」、「組織作り」、「ブンデスリーガのライセンス制度」など。
もう1つはリーダー論。「人材マネジメント」、「コミュニケーション」、「プレゼンテーション」、「タイムマネジメント」、「自己分析に基づいたリーダーシップ」、「メディアトレーニング」、「交渉力」などだ。
このアカデミーで得た経験を、みなさんに伝えていければと思う。
【著者プロフィール】モラス 雅輝:1979年1月8日生まれ、東京都出身。オーストリア在住。東京横浜独逸学園に通学後、16歳でドイツへ単身留学。怪我の影響もあり18歳でサッカー選手から指導者に転身。ドイツ、オーストリア、日本の3か国にてサッカー監督・コーチとして活動、計17年間の指導歴を持つ。2009年より2年間、Jリーグの浦和レッズでコーチを務めた。プロ、アマチュア、ユース、ジュニアユース等各カテゴリーでの指導経験があり、欧州では女子チームも3年間率いた。3度のリーグ昇格経験を持つ。 現在はオーストリア・インスブルックにてスカウト及び育成部門統括ディレクターの職に就いている。 また、2001年に自ら創業したマーケティング会社の代表も務めている。
*本連載は毎週日曜日に掲載する予定です。また、基本的に無料公開ですが、3回に1回の割合で有料会員のみ閲覧できる有料コンテンツ扱いとなります。