2022/2/25

【新潟】残業ゼロ・男性育休100%、“脱属人化”でやりきる

にいがた経済新聞 記者
「超」がつくホワイト企業として、注目を集める中小企業があります。
新潟県長岡市の金具メーカー「サカタ製作所」。
「残業ゼロ」「男性育休100%」をほぼ達成、今は「業務のリモート化」で、さらなる高みを目指しています。
ここに至るまでの道のりを、社長の坂田匠さんが振り返ります。
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INDEX
  • いきなりの「残業ゼロ」宣言
  • 繁忙部署のサポートで脱・業務の属人化
  • 「環境さえ整えば子どもは生まれてくる」
  • 次は「世界のどこにいても働ける環境」
サカタ製作所は、金属屋根部品の分野で国内販売のトップシェア。従業員約150人が働いています。
以前から労働環境の改善に取り組んできましたが、太陽光発電の普及とともに関連部品の製造事業などが忙しくなり、2014年ごろはどの部署も残業が常態化していました。
全社の月平均残業時間は17時間。「36協定(労働基準法36条に基づく労使協定)違反すれすれの状況」(坂田さん)だったといいます。

いきなりの「残業ゼロ」宣言

転機となったのは、2014年秋。
従業員向けの講演会の講師として、組織人事のコンサルティング企業「ワーク・ライフバランス」の小室淑恵代表を招くことになったのです。
「仕事と家庭」がテーマの講演で、小室さんは残業が多い企業は生産性が下がる、という点を強調。同社の現状にも、辛口の評価を述べたそうです。
「ワーク・ライフバランス」の小室淑恵代表=同社提供
講演が終わった直後、坂田さんはその場で「2015年から残業をゼロにする」と宣言しました。
坂田さん:ここで宣言しないと、「いい話を聞けてよかった」で終わってしまう。講演を聞き終わったばかりなので社員の意識も残業ゼロのメリットのほうにある。今、宣言すれば、私の発言の背景も理解してもらえるだろう、千載一遇のチャンスだ、と思ったんです。
Portra/iStock
「宣言」を受け、社内約20の業務改善チームが、「残業ゼロ」を目指し始めました。
「残業ゼロ」を目指すとはいえ、これまでの仕事はおろそかにできません。かといって、改善活動のために残業したら本末転倒です。
いきなりの「宣言」に、社員からは戸惑いや不安の声も出ました。
「売り上げが落ちないか」「納期が間に合わない」「利益がなくなってもいいんですか」「短納期に対応できないと競合他社に顧客を奪われてしまう」「顧客の信用を失ってしまう」…。
坂田さんは、方針を変えませんでした。社員の声に「それでもいい」と言い続けるうち、社員の考えも変わっていったそうです。
坂田さん:うちの社員たちは、責任感の塊です。ただ、以前は遅くまで仕事して納期を間に合わせるという責任感だったのが、なんとか工夫をすることで納期を間に合わせようという責任感に、ベクトルが変わっていったのです。
坂田匠さん

繁忙部署のサポートで脱・業務の属人化

全社で残業ゼロに取り組むなかで、もっとも力を入れたのが「業務の属人化」の解消です。
「業務の属人化」とはすなわち、「この人がいないと仕事が回らなくなる」状態を指す。業務の進め方や進み具合を、特定の担当者しか把握していないために起きます。
そのため担当者も「この仕事は自分にしかできない」「この会社は自分がいないと回らない」と、ますます仕事を抱え込むようになり、長時間労働にもつながりやすくなります。
そこで同社では、他部署のメンバーが忙しい部門をサポートする仕組みを取り入れました。
坂田さん:年単位、月単位で見ると繁忙期と閑散期の波があるんですね。波のサイクルは部署ごとに違います。そこで忙しい部署に、そうでない部署のメンバーがサポートに行くことにしました。急な受注などが入り、組立の仕事が立て込んでいる場合、生産管理や経理のメンバー、経営者たちがその仕事を手伝うといった具合です。普段は携わらない第三者の視点が入ることで、業務の無駄も見えてくる。そこを改善してさらに生産性が向上していきました。
こうして属人化から平準化への流れができ、誰かがいないとその仕事が回らなくなることが「一つもなくなった」(坂田さん)といいます。
「残業ゼロ」宣言から1年後の2015年、従業員1人当たりの1カ月平均残業は17時間から5時間余に減りました。2年目の2016年にはさらに減って1.1時間。出社1日当たりに換算すると約3分。そこからおおむね1時間前後を推移してきました。
結果、残業代も3500万円ほど減りました。その分賞与や給与に還元し、残業がなくなっても、全体の給与水準を維持しているといいます。
「脱・業務の属人化」をはじめとする仕事の見直しが功を奏し、生産性が上がり、業績も好調だそうです。
「2020年12月期は業績が落ちましたが、それまでは増収増益を維持していました。2021年12月期は回復して増収増益の見込みです」と坂田さん。

「環境さえ整えば子どもは生まれてくる」

Yuji_Karaki/iStock
同社が残業ゼロを目指し始めた2014年まで、男性育休の取得者はゼロでした。坂田さんも男性も育休が取れるとは知らなかったといいます。
翌2015年は会社の要請でとった社員を入れて2人、16年はゼロに戻ってしまいました。
同社は2017年夏から男性社員の育休取得100%に本腰を入れはじめます。子どもが生まれた社員には、坂田さん自ら本人のもとに出向き、取るように勧めました。
坂田さん:ある時、子どもが生まれた男性従業員に「おめでとう、育休は取るんだよね」と聞いたんです。でも「仕事が忙しくて取れない」という返事で。そこで、上司やまわりの社員に「取れないほど仕事が多いのか」と聞いたら「そんなことはない」と。だから取ってもらいました。実際は取りづらい雰囲気があったんです。
2017年の育休取得率は50%でしたが、2018年に入ると子どもが生まれた男性社員全員が育休を取るようになりました。その後も100%を維持。取得日数も延び、直近2年の平均では1人約24日取っているといいます。
坂田社長は出生率も上がる可能性を感じているそうです。
坂田さん:環境が大事なんだ、と思います。環境さえ整えば、子どもは生まれてくるんだと。

次は「世界のどこにいても働ける環境」

新潟県長岡市の本社
残業ゼロ、男性育休100%ときて、コロナが流行する前の2019年11月から取り組んでいるのがテレワークです。
本社では、総務部を2グループに分け、交代でテレワークを行うなど、事務系職種のうち約3分の1がテレワークで働いています。
東京支店、大阪営業所も、計約20人のうち、職場に出勤しているのは2人。通勤には社用車を提供しているそうです。
また現在も、子育てを含む家庭と仕事の両立や、親の介護などを視野に、さらにテレワークの環境を整備しようと、サテライトオフィスの整備に向けたいくつかの実験を行っています。
例えば、完全に家と職場が同じだと業務に集中できない可能性があるため、従業員の自宅の一室を会社が借り、オフィスにしてもらっています。
坂田さん:自宅の部屋にゆとりがない場合は、近くのコーヒーショップと会社が契約し、テレワークスペースとして借りることも検討しています。こうした実験を通じて、部屋や、コーヒーショップなどでテレワークをするためのルールを作っていく予定です。
製造現場でも、無人化や設備の遠隔操作などを整えて、テレワークを実現しようと取り組みを進めています。
坂田さん:これまでは家の近くだから、この会社に勤務するという選択が多かったですが、これからは、世界のどこにいてもサカタ製作所で働ける環境を整備していきたいですね。
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