141022_マネジメントシフト

第3回:風間八宏・川崎フロンターレ監督(全3話)

伸びる選手が持っている、根本的な「素直さ」

2014/10/22
日本では、マネジメントの価値が十分に認識されていない。本連載では、マネジメントの価値を再発見し、「マネジメント・シフト」を起こすことを目標とする。中竹竜二・日本ラグビーフットボール協会コーチングディレクターが、一流と言われるスポーツチームのマネージャー(主に監督)と対談。ビジネス組織のマネジメントにも応用できる、マネジメントの本質を追求していく。
第1回 組織の中に隠れたら終わり。まずは「個」を打ち出せ
第2回 スポーツは、1番うまい人のためにある

選手に細かい指示はしない

中竹:風間さんは練習やミーティングを行うにあたり、どれくらい準備していますか?

風間:しないですね(笑)。普段から「こうしたらおもしろいかな」「こうすれば、もっとこの人は個性が出るかな」「こういうプレーをしたら、お客さんは喜ぶだろうな」とつねに考えてやっています。ご飯を食べていても、ずっと考えている。でも、何か形につくって、みんなを集めて話すということはやらないです。

中竹:ほとんどをグラウンド上でやる?

風間:ミーティングはグラウンド上ですね。自分が選手のとき、席に着いてのミーティングが嫌いだったので(笑)。

中竹:だいたい、聞いてないですもんね。

風間:ええ。僕も「早く終われよ」と思っていたから。練習でも「好きにやってくれ」と言っています。「俺は信用しているから」って。足りないと思ったことを言うくらいで。選手は大変かもしれないですね。言ってくれたほうが楽だから。

中竹:自分で考えるのはきついですからね。今回の対談の前に練習を見ていて印象的だったのが、風間さんが選手を止めて話す機会がすごく少なかったことです。5回なかったと思う。

風間:ないですね。

中竹:選手が練習の中で「よかった。OK」「いまのはなんで獲れなかったの?」と話していて。普通はコーチが言うことを、ひとりひとりの選手が言っていた感じがしました。

風間:いまはそうなってきましたね。僕は何か目についたときに言うだけで。「ミスしたな」とか、わざわざ言う必要はありません。なんでそんなミスをしたのか、教えることはありますよ。でも、こまめに指摘しないほうが、選手は次の試合に気持ちよく臨めるんじゃないかな。なぜかと言うと、彼らはミスした理由をわかっていると思うんですよ。もちろん裏切られることもあるけど、これはしょうがないことなので。

風間さん

風間八宏(かざま・やひろ)●1961年静岡県生まれ。筑波大学在学中に日本代表に選ばれ、卒業後は5年間にわたってドイツのクラブでプレー。帰国後、マツダSCに入部。1992年からはJリーグのサンフレッチェ広島でプレー。現役引退後、解説者として活動する傍ら、桐蔭横浜大学サッカー部監督、筑波大学蹴球部監督を歴任。2012年に川崎フロンターレ監督に就任、2013年にリーグ3位に輝いた。

きつい練習を、楽しみながらやる

中竹:コミュニケーションをとるのにも、ちゃんと目的があるということですね。

風間:そうですね。選手たちがやりながら、チームで目指している形になっていくしかありません。試合でグラウンドに入ったら、僕らの声なんかどうでもいいことだから。それと、うちがほかのチームとひとつ違うのは、練習時間が短いこと。理由は、全体練習の後に自主練習をできるためです。

中竹:今日もしていましたね、皆さん。

風間:強制ではないですよ。海外では自主練をさせませんが、日本人は自主練をしたほうがいいと思います。なぜなら、自分の頭で考える力がすごくあるからです。試合でイメージして、その後の練習で、自分でやることがいくらでもある。そうやって考えることで、自分のものをつくっていける。だから、全体練習は2時間もやれないですよ。

中竹:今日もすごくコンパクトでした。相当、強度が高いですよね?

風間:高いですね。うちのトレーナーは、目指すサッカーを現実にするために、どういう体のテクニックが必要かとやってくれているわけです。だから、一般メニューみたいなのはやらない。ほとんど試合でやる動作ばかりなので、体がどんどん強くなっている。毎年、ケガ人が減っています。

中竹:試合よりも高い強度で練習するのですか?

風間:試合でやらない動きは、うちの練習にはありません。たとえば300メートルダッシュを何本やっても、サッカーではそんな動きはないじゃないですか。やっぱり、ボールありきなんですよ。自分たちがボールを持っていれば、自分たちの意思でサッカーをできる。自分たちのテンポでできるから、体にも負担はないはずなんです。とことんうまくならないと、そういうサッカーはできませんよ。まだまだですけど、選手たちは楽しみになってきたと思っています。

伸びる選手はどこが違うか

中竹:選手が伸びるには、何が必要だと考えていますか?

風間:考えられることですね。特にスポーツ選手は、発想が柔らかくないといけないと思います。よく「素直であれ」と言われるけど、それは単に監督の話を聞くことではない。監督の話を聞いて、疑ってもいいんですよ。でも、それをうまくやろうとするのが素直さですよね。

「頭の中に技術がある」という言い方をしましたが、使っていないものにどれだけ気づけるかも頭のよさだと思います。「話を聞いていないはずなのに」と思う選手でも、自分で気づける選手は放っておいてもどんどん伸びていく。そうすると、「実はちゃんと聞いているんだ」ってわかりますね。逆に「ふーん」と言っていても、全然変わらない選手もいるんですよ。

中竹:僕はいま、コーチたちに対して教え方を指導しているのですが、若いコーチに「騙されるなよ」と話しています。「はい、はい」と聞いているヤツは絶対に聞いていなくて、コーチが言ったことに対して反抗的に「いや、あれは違うんですよ」と言っている選手のほうが、意外に聞いていたりする。

風間:そういうものですよね。

中竹:選手が考えられるか、どうかを見極めるのは、コーチにとってすごく難しいと思います。

風間:難しいですよね。明らかな選手はわかりますよ。僕、中学の頃にブラジルのチームに誘われたことがあるんです。向こうのプロ選手がサッカー教室をやってくれて、「こういうフェイントで抜いて、シュートを打ちなさい」と言われたけど、「こんなのおもしろくねえな」と思って、ひとつも同じフェイントをしないで全部ゴールを入れたら、そのチームの会長と監督に「俺たちが責任を持つから、ブラジルに来い」って誘われました。「高校選手権に出たいので、行きません」と言って帰ってきましたけどね。

中竹:そうなんですね。

風間:でも、選手権には出られませんでしたけどね(苦笑)。その後にも同じようなことがありました。「なんでこんな練習をやるのかな」と思って、僕は違うことをしていた。

そんな話を新聞に書かれたことがあるんですけど、ふたりの監督が僕のことを、「こんなにおもしろいヤツはいない」って言っていたんですよ。自分は「こんな練習おもしろくない」って反抗しているだけなのに、ちゃんと指導者には見えているんだなって。

中竹:日本語で言う「素直」の定義が、全然違いますよね。

風間:違いますね。

中竹:普通の「素直」は「はい、はい」と聞くほうです。でも、根本的な「素直」とは、「何をすれば勝てるかを素直に考える」こと。

風間:そう思います。「もっとうまい方法があるよ」と示すことが「素直」ですよね。

中竹:そうです。だから、コーチに度量がないと見抜けない。

風間:僕は選手のとき、監督にそうとう言っていました。ドイツのチームでも、一番言っていたくらい。「俺は監督なんてやりたくない」と考えていたのは、「俺みたいにバンバン言うヤツがいたら、面倒くさい」と思ったからです。

中竹:反面、そう考えている人間がチームにいると、監督は安心しますよね。

風間:そうなんです。逆に、信用してあげることができますよね。そういう人が、「周りの3倍勝ちたい」と思っているのもわかります。

だから、どんどん言ってくる人は大歓迎。彼らはそれだけのエネルギーを持っているし、チームのことを考えてくれています。もちろん意見が違うことはあるけど、それは問題ない。そういう意味で、うちには本当に秀でている選手が多いと感じています。

(構成:中島大輔、撮影:風間仁一郎)

※次回は、来週水曜日に掲載する予定です。全3回の対談に対するみなさんからのコメントを踏まえて、筆者が総括を行いますので、ご意見・ご質問などをお寄せください