慎重な人間には想像できないティールの投資先

2014/10/21

データ分析会社パランティーアを創設

ティールはまた、スタンフォード・ロースクールのルームメートであるアレックス・カープとともに、データ分析会社パランティーアを創設した。ティールがペイパルで開発した不正防止システムから発展したもので、コンピューターソフトと人間による分析を組み合わせることにより、金融の不正だけでなく、テロネットワークの特定にも応用できるとティールは考えた。
最初の主要な投資家は中央情報局(CIA)の投資ベンチャー会社In-Q-Telだった。パランティーアはオサマ・ビン・ラディンの追跡に重要な役割を果たし、銀行や麻薬取締関連の機関も利用したと伝えられている。ティールは自らの信念と、理論上は政府機関による個人情報のより正確な発掘を可能にするプログラムを提供することの間に矛盾はないとみる。
彼は、安全と市民の自由をめぐる議論は、この2つが両立しないように言われることが多いが、そうではないと考えている。
「私の考えは、そのまったく逆だ。リバタリアンとして、こうした技術の開発は不可欠だと信じている。そうしなければ、非常にローテクで、プライバシーを大きく侵害するものの、ほとんど価値のないものがその代替の選択肢になる。同時多発テロ後の米国はこうした状況だった。例えば、テロリストを特定する方法がなければ、飛行機に搭乗するたびに全員に靴を脱いでもらわねばならなくなる。機能不全に陥っている国家安全保障局(NSA)/産業複合体について考える際には、こうした視点が欠かせない。NSAは国民を監視するビッグ・ブラザーではなく、警官隊のドタバタ喜劇、キーストン・コップスのようなものなのだ」。
「エドワード・スノーデンのエピソードで興味深いのは、官僚が暴走し、世界中からデータをかき集めているにもかかわらず、彼らにはデータに何が含まれているのかまったく理解できていないという印象を受けることだ。私は、オバマ(大統領)はメルケル(ドイツ首相)の携帯電話を盗聴していることを知らなかったと思う。これにはさぞや驚いたことだろう。もしかしたらNSAの幹部も知らなかったかもしれない。パランティーアのような企業がなければ、テロ攻撃は増え、もっと容赦ない、非テクノロジー的な対応を招くことになるだろう」。
パランティーアはフェイスブックに次いで、ティールの投資先で2番目に大きい利益を上げている。同社の時価総額は90億ドルに達し、ティールは株式の12%を保有している。

どこからも資金を調達できないような事業に投資

ティールの投資先は、慎重な人間だったら、とんでもない、実現不可能だ、勝ち目がない賭けだと考えて敬遠するような事業であることが多い。彼は、「理想を言えば、我々が出資しなかったら日の目を見ないような事業、我々が資金を提供しなかったらほかのところからは決して資金を得られないような企業に投資したいと思っている」と語る。
ティールはソーシャルメディアの可能性について予見できる人がほとんどいなかったころにフェイスブックに投資した。ファウンダーズ・ファンドは、外部のベンチャーキャピタルとして初めてマスクのロケット会社スペースXに出資した(当初は2000万ドル投資したが、その後の追加投資によって同ファンドの保有株の価値は現在5億ドルに上っている)。ファウンダーズ・ファンドは英国の人工知能会社ディープ・マインド・テクノロジーズに1500万ドル投資したが、同社は1月にグーグルに2億4000万ポンドで買収された。
おそらくティール本人の情熱を最も正確に反映しているティール財団は、バイオテク企業から人工知能まで、一連のプロジェクトに資金を提供している。バイオテク企業、モダン・メドウは、動物を殺さずに肉を培養したり皮革製品を作る方法を開発しており、人工知能の研究専門のシンクタンク、マシーン・インテリジェンス研究所は、「人間よりも賢い」機械が、機械自体が望む行動ではなく、人間が望むような行動をとることを保証しようと研究を続けている。
次回へつづく。
(執筆:Mick Brown記者、翻訳:飯田雅美)
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