2022/2/10

「テレビCM=認知獲得」だけじゃ、もったいない。

NewsPicks Brand Design editor
 全国の家庭に一斉に配信され、大きなインパクトを残せるテレビ広告。

 多くの消費者に認知を一気に広げられる圧倒的な強みがある一方で、データを活用したターゲティングや効果検証がほとんどなされてこなかった、 “アナログ代表”の広告でもある。

 しかし、「テレビCMでも精度の高いターゲティングは可能」と話すのは、昨年からテレビCM枠の販売事業に乗り出したCCCマーケティングで、新規事業Division General Managerを務める橋本直久氏だ。なぜそんなことが可能なのか。橋本氏に疑問をぶつけた。

視聴率は“役に立たない”?

──テレビCMは効果検証ができない、とよく聞きますよね。何が課題なのですか?
 テレビCMの効果が、マーケティングの観点からはほとんど役に立たない「視聴率」という指標でしか、測られてこなかった。これが最大の問題だと思っています。
 企業がテレビCMを打つ最大の目的は、売上を伸ばすことですよね。一方で、その効果を示すものとしてテレビ局から提供されるのは、世帯視聴率(GRP=Gross Rating Point)や個人視聴率と呼ばれる指標。
 これは、調査対象地域の世帯や個人の何%が「CMが放送された番組をつけていたか」を指しているにすぎない。
 ですから、広告を出稿した企業が本当に知りたい「テレビCMが消費者の意識や行動をどう変えたか」は、視聴率ではわからないんです。
──にもかかわらず、広告の効果を測る指標として、長年視聴率が使われてきました。なぜでしょうか?
 そもそもテレビはずっと、メディアの王様でした。国民みんながテレビを見ていたので、企業もこぞってテレビCMを打ちたいという時代があった。
 1980年の紅白歌合戦の平均視聴率なんて、70%を超えているくらいです。
 テレビを見ている“マス”が存在し、テレビCMの需要が圧倒的に高かったため、特に効果検証なんてできなくても、テレビ局にはどんどん出稿依頼が来た。
 だからこそ、出稿目的とそれを測る指標がチグハグな状態が、長年ほったらかしにされてしまったんです。
──今でも、テレビCMのアナログな効果検証は、変わっていないのでしょうか?
 テレビCM出稿をより科学的にしようという傾向は、強まっています。ですが、まだまだ主流ではない。
 未だに多くの企業は、年齢や性別などの属性(デモグラ)データにもとづいた、粗いターゲティングや効果検証に頼っているのが現状です。
── 一方で、インターネット広告のようにデータを活用し、広告効果を最大化する「運用型テレビCM」という言葉は、ここ数年で耳にするようになりました。
 他社サービスのことは正確にはわかりませんが、多くリリースされている運用型テレビCMは、「テレビCMを流した後に、Webサイトへのアクセス数がどれだけ増えたか」などのデータを指標に、テレビCMの効果を測定しているようです。
 ですが、このやり方ではやはり、類推の域を出られない
 テレビCMを流した後にサイトへのアクセス数が増えたとしても、それがテレビCMの効果かどうかは証明できません。
 実はテレビCMは関係なくて、たまたま人気YouTuberが紹介したおかげだった、なんてこともあるわけです。

「実際買ったか」がわかる

──CCCマーケティングは、昨年7月からテレビCM枠の販売事業をはじめました。お話しいただいた課題を、どのように解決するのですか?
 CCCは、日本の2人に1人が持つTカードを運営する会社ですが、私たちの最大の強みは、「テレビCMを見て、実際にその商品が買われたか」を検証できる点。
 なぜそんなことが可能かというと、CCCマーケティングには約46万人のテレビ視聴データ(2021年12月末時点)と、TカードにひもづくIDごとの購買データの両方が集まっているから。
 それらのデータを組み合わせることで、精度の高いターゲティングや効果検証が可能になるんです。
──テレビ視聴データは、どのように測定できるものなんですか?
 最近のテレビは、インターネットに接続可能なものも多い。調査では、テレビのインターネット接続率は50%に上るとされています(注)。
 そういったテレビには、Tカードと連携できる機種が多数あります。データ収集について承諾いただいた上で、テレビとTカードを連携しているユーザー約46万人の視聴情報を、活用しているのです。
(注)出典:サイバー・コミュニケーションズ「国内動画配信サービス利用実態調査」 (2020年6月)
 そこに掛け合わせるのが、Tカードにひもづく購買データ。
 たとえば、炭酸飲料のテレビCMの効果を測りたいとして、広告を出した企業が一番知りたいのは、「テレビCMを見た人が、実際に商品を買ったのか」という指標ですよね。
 Tカードにひもづく購買データと属性データを合わせれば、まさにそれがわかる。小難しい相関性なんて計算しなくても、「買われたか、買われなかったか」で結果は一目瞭然です。

次なる“オムツとビール”が見えてくる

──なるほど。Tカードでなくても購買データを集める方法はあると思うのですが、Tカードの購買データは何が強いのですか?
 多量で多品種なデータが、シングルIDでつながっていること。これに尽きると思います。
 そもそもTカードの年間利用者数は、7,000万人以上。さらに、月間で何かしらの購買行動をした人は、4,500万人を超えるという、圧倒的なデータ量を誇っています。
 ECサイトはもちろん、スーパーからドラッグストア、ガソリンスタンドなど、Tカードと連携する様々な場所での購買データが蓄積されています。
 さらにこれらのデータが、年齢や性別などの属性情報はもちろん、メディアの視聴情報などの様々なデータとつながって、一つのIDにひもづいている。
 個々のIDにデータが結びついているからこそ、「テレビCMを見た」「商品を買った」というバラバラのデータが、「このテレビCMを見た人が、この商品を買った」という風に、意味のある情報に変換できるんです。
 もちろん個人は特定せずに、あくまでも匿名のIDとデータがひもづけられる形です。
──データが一つのIDにひもづいていると、他にはどんなメリットがあるのでしょうか?
「オムツとビール」の事例をご存じでしょうか?
 これは、あるスーパーマーケットのPOSデータを分析したところ、全くターゲットが異なるように見えるオムツとビールがセットで購入されやすいと判明した、マーケティング界隈で有名な事例です。
 バラバラの購買データが連なって人にひもづくことで、こういった意外な購買スタイルが見えてくる。結果的に、潜在購入者にアプローチするヒントが得られるのです。
──Tカードにひもづくデータの量と質には納得しつつ、最近では各企業が独自のポイントアプリをつくるなどし、Tカードを使う頻度が減った感覚もあります。
 確かに、共通会員サービスには様々な企業が参入しており、Tカードの独自色は以前と比べれば薄まっているかもしれません。生活者の皆さんによりメリットを感じてもらえるよう、ここは改善を続けなければいけない。
 一方でBtoBtoCの観点からも、価値を届けられると考えています。たとえば私たちは、Tカードを活用する企業に対して、Tカードのデータを自社のマーケティングに活用できるプラットフォームを提供してきました。
 今回発表したテレビCM販売もそうですが、こうしたデータの整理を通して、企業メッセージを最適な形で生活者の皆さんに届けられるようにしたい。それが結果的に、世の中全体の価値を高めることにつながると思うのです。

属性分析では「7割」を損している

──CCCマーケティングの購買データを用いることで、テレビCMの設計はどう変わるのでしょうか?
 少し具体的にお話をしましょうか。たとえば洗濯洗剤のテレビCMをつくるなら、どんな人に届けるべきだと思いますか?
Getty Images / AndreyPopov
──イメージ的には、30〜40代の女性とかでしょうか。
 そう思いますよね。でもCCCのデータベースを見てみると、洗濯洗剤を年間で購入している方のうち、35〜49歳の女性層は3割程度。
 一人暮らしの男性も洗濯洗剤は必要ですし、買い物は夫担当という家庭もあるでしょう。考えてみれば、この結果は当然ですよね。
 ですが現状では、年齢や性別といった属性データを頼りにターゲティングしている例がほとんど。その場合、洗剤を購入する可能性のある7割を捨てている、ということになるんです。
 CCCマーケティングなら、実際の購買データをもとに、洗剤をよく買う人や、競合の洗剤を使っている人をターゲットにCMを打てる。その7割の無駄を刈り取るお手伝いができると考えています。
──とはいえ、予想もしていなかったターゲットに届くことが、テレビCMの良さの一つなのでは、とも思ってしまいます。ターゲティングができ“すぎる”弊害はないのですか?
 確かに何も絞り込まずに広告を打つ手もありますが、それは極端に言えば、人生で一度もお酒を買ったことがない人にも、ビールのCMを届けてしまうこと。
 その人が急にビールを買い出す可能性はほぼゼロですから、それはさすがにもったいないと思うのです。
「潜在層」にリーチしたい場合は、頻度高く購入している人ではなく、「月に1回だけビールを買う人」のようなセグメントを設定するなどの提案をしています。

テレビはもう終わったのか?

──正直に言って、テレビなんて誰も見ていないじゃないか、という意見もあります。
 確かに昔と違ってテレビ以外のメディアも増え、国民全員がテレビを見る時代ではなくなりました。
 でもそうは言っても、テレビは現在でも96%(注)の家庭に普及している。あくまでもセグメントを絞った上で、多くの消費者に情報を届けるには、今でも非常に優秀なメディアです。
 わかりやすい例で言うと、未就学児の子どもを持つ家庭のおよそ40%が、毎週見ている番組があります。それが「ドラえもん」。毎週同じセグメントの40%にリーチできるメディアは、テレビ以外にありません。
(注:二人以上の世帯での数値。出典は、内閣府経済社会総合研究所景気統計部 消費動向調査 令和3年3月実施調査結果。)
──セグメントを絞れば、テレビCMの有用性はまだまだ高い、と。
 ええ。今までテレビは、広くマスからの認知を得るための媒体としてしか見られてきませんでした。
 ですが、データを使ってターゲットが見ている番組や時間帯を特定できる今、テレビはマス媒体から“セグメントマス媒体”に移行しているんです。
 無造作にCMを打ちまくる無駄を省けるようになったことで、CMの有用性は見直されていくと思います。
──一方で広告を見る側の消費者に対しては、どんな価値を提供できるのでしょうか?
 私たちは、広告主も消費者もWin-Winな広告配信を実現したいんです。
 私自身も、全く興味のない広告が流れてくると邪魔だなあと嫌な気持ちになります。しかし一方で、広告を通して「あ、こんな商品欲しかったんだよね」と気づけることもある。
 私たちは後者のような、消費者にも喜ばれる広告配信の仕組みをつくりたい。その時に肝になるのは、言うまでもなくデータだと考えています。
 もっと長期的な視野に立てば、私たちはデータ活用を通じて、広告におけるマーケティングを民主化したいんです。
 最近までテレビCMは、ほんの一握りの大企業が、大衆にむけて一方的にコミュニケーションをするためのツールでした。
 テレビCMを打つには、何億円と予算が必要だと聞いたことがある人は多いのではないでしょうか。もちろん小規模な会社は、広告を打つ枠なんて買えません。
 ですが、その流れが大きく変わっている。データを活用して最適なターゲットを絞れれば、スタートアップや小規模の企業も、もっと安価に、もっと効果的に広告を配信できるようになります。
 CMが最適なターゲットに届くということは、広告が消費者にとって有益な情報収集手段になるということでもある。
 広告が“嫌われ者”でなくなる世界は、ユニークデータを通して実現できる。そう信じて、邁進していきたいと考えています。