VASILY_金山さんインタビュー

VASILY 金山裕樹CEO インタビュー

KDDIからの増資で「大きな溝」を飛び越えたい

2014/10/17
10月16日にKDDIによって発表されたネットサービス連合「Syn.(シンドット)」。新たなスマホ事業構想では天気予報から日常生活情報にいたるまで幅広いネットサービス同士を連結させ、相互に送客を行うことが明らかになった。その中でファッション分野を担うのがファッション・コーディネートアプリ「iQON(アイコン)」を展開するVASILY(ヴァシリー)だ。KDDIからの出資額は一部では10億円を超えると言われている。NewsPicks編集部はVASILYのCEO、金山裕樹氏にインタビューを行った。

狙うは次のマーケット、10億円で飛び越える、「溝」

——増資額は関係者の間で10億以上と言われています。そもそもなぜ増資を受け入れようと思ったんですか?

詳しい増資額は公表できないんですよ。実は去年末から新たなファイナンスを考えていまして。3回目のファイナンス、つまり、シリーズCを模索していました。ここで次のフェーズに躍進しなきゃ、と思っていました。

——行き詰まりを感じていた?

行き詰まり、ではなく、今のフェーズでできることはすべてやったという感じですね。新しい市場を開拓したいんです。僕たちの展開している「iQON(アイコン)」は2014年6月にプロモーションを打たずに100万ダウンロードを達成しました。月額の流通総額10億円も目前です。でもそこで気づいたのはオーガニックで行けるラインは100万人だ、ということ。ここから先は広告費をかけた大規模なマーケティング活動がメインになるな、と。

——調達した10億円はプロモーションに使うのですか?

まずは人材がすべてなので人材採用を優先的に行います。あとは大きなプロモ。まずはテレビCMをうちます。なぜか。私たちのアプリ、「iQON」は15歳から34歳までのファッションに興味のある女性スマホユーザーをメインターゲットにしています。iQONはプロモーションなしで100万人は取れた。この100万人は変化に敏感で自主的にappstoreで検索してアプリをダウンロードしてくれる層。いわゆるイノベーター・アーリーアダプターですね(下表参照)。キャズム

じゃあ次の層を取るにはどうすればいいか、ロジャーズの普及モデルとキャズム理論から考えると、ここに大きな溝があるんです。この溝を突破して次の大きなマーケットであるアーリーマジョリティを狙わないといけない。この層は主体的にappstoreで検索をしてダウンロードするという層ではない。要するに口コミとか、テレビで見たことがあるから使ってみようという人たちですから。そこに一気に拡散させるために、テレビCMという「劇薬」が必要だろう、と思います。

加えてSyn.(シンドット)連盟に加盟しているサービスの延べ人数、4100万人ということもドライブをかける上で大きな強み。従来の「iQON」の属性と異なるユーザーがいて、しかもスマホを使っている。そんな新しい層を相互に送客できるって最高じゃないですか!

シンドット連盟はハスラー気質

——なぜKDDIを選んだのですか?

羽振りがよかったからですね(笑)というのは半分冗談ですけど半分本当。我々のようなスタートアップがこれまで誰も成功していないファッションのオンラインメディアを成功させるためには、ハードワークや技術力だけでは難しい。お金によって解決できることを解決させるという意味で、資金というのも必要な条件だと考えています。ですが、1番は「人」に惹かれました。例えば今回のプロジェクトを主導したKDDIの田中社長。彼は今回の増資に対しても「いつか返してくれたらいいよ」って言うんです。コンテンツビジネスは我慢が必要ということをわかってくれる。これはビジネスパートナーとして心強い。

それにシンドットの旗ふり役、森岡さんと私は前職のヤフー時代に間接的に仕事で一緒になりました。彼を一言でいうと「お祭り男」。それにハスラー気質、「やったるで!」という精神を持っている。あそこまでインターネットで世の中が本気で変わるというビジョンを信じている人は珍しいですよ。
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——VCという選択肢はなかったのですか?

ある程度、企業価値が高まってきている段階でVCから出資してもらうとなると、期待するリターンは出しづらいんです。それにVCではなく、事業シナジーが見込めるところと組みたいと思っていました。

——今回のシンドットアライアンスで時代は変わると思いますか?

2014年の中では潮目が変わったと言えるかもしれない。でもネット業界のニュースなんて3ヶ月経ったら忘れられてしまう。それくらい移り変わりが早い。後から「シンドットができたときに潮目が変わったんだね」と言われるくらいのインパクトを残さないと。

そういう意味では今回連盟を組む面々はハスラー気質。何かをやってやろう、という意気込みを感じます。ただちょっとラインナップが男臭い(笑)。シンドットのターゲットはハイリテラシーのユーザーではなく、マス。そしてざっくりといっても日本の人口の半分は女性なのに、女性に特化したサービスがアットコスメとうちだけではまだ足りない。拡大は必要ですね。

パンケーキ、コカコーラさえもライバル

——これからの「iQON」ですが、競合相手はどこですか?

どうライバルを定義するかですね。「可処分時間の奪い合い」という観点からはコカコーラさえもライバルだと思っています。だって缶を持っている間は片手が塞がれるわけですから(笑)。

また、ファッション業界を俯瞰してみると、インターネット対策で出遅れてしまった。「ネットが敵」みたいな風潮が残念ながらあったんですよ。その間に時代は「もの」の消費から「こと」の消費に変わった。以前は「新しく買ったそのスカートかわいいね!」と言われて楽しさを感じていたことが、パンケーキを食べてそれをインスタグラムに投稿して「いいね」されることに置き換わっている。ファッション業界は「パンケーキ×インスタ連合」のようなお手軽自己表現メディアと競合関係にあるんじゃないかと本気で思っています。それにパンケーキ、500円とかですから。4000円するスカートとはそもそも手軽さが違いますしね。

じゃあどうするか、やっぱりパーソナライズだと思うんです。今までの通販、ECサイトは欲しいものが明確になっている人がお目当てのものを探しにくる場所。指名買いの場所でした。一方で「何となく秋物の服が欲しい」という人はネットでショッピングできなかった。ネットの世界でもフラっと店に入って手に取るようなリアルなショッピングで経験を提供してマーケットを拡大していくのが僕たちの役目ですね。

それにシンドット連盟間で顧客のデータベースを融通できればパーソナライズされた精度の高いファッションサービスを展開できる。もちろん、そのためにはプロの編集者が精度の高いコンテンツを作っていくことが大切。今、きわめて安い値段で作っているバイラルメディアみたいな偽物が台頭してきているのは編集者の怠慢でもあるんです。もちろん、編集部を持っているiQONへの自戒を込めて言っていますけどね。

——これから時代が変わる中で求められる人材とは?

とにかくハングリーな人。何かを成し遂げるにはハングリーじゃなければいけない。だって今はどこも労働力不足。辛い思いするくらいなら転職できちゃう。でも後一歩のところで踏ん張れるか、何かを成し遂げる人はそこが違う。

むしろ、今まで情報格差でビジネスしてきたような人は厳しいでしょうね。「たくさん人を知っている」とか。そんなの意味なくなると思います。

大きな挫折を味わってそこから這い上がることが必要。僕は起業する前、ミュージシャンをやっていた時に大きな成功と挫折を味わいました。それにこの会社を作った初日に、家族が病気になって、家族の経営する会社と立ち上げたばかりのこの会社の運営、一気に3つのトラブルが降ってきた。

そういう時に絶対逃げずにやりとげた経験が僕の経営者としての基礎になっていると思います。そういう個人的な経験からもエグゼキューション、実行力のある人が大事。やると言ったことを絶対にやり抜く、なんだか1970年代の「モーレツ社員」のような言い方ですが、新しい時代が来るからこそこうした人材が必要だと思います。
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(撮影:福田俊介)