【ゼロからの起業】新たな感謝を生み出す「世界的な落とし物プラットフォーム」を創る

2022/3/13
「学ぶ、創る、稼ぐ」をコンセプトとする、新時代のプロジェクト型スクール「NewsPicks NewSchool」。
起業家・投資家・経営者という多数の顔を持つ麻生要一氏がプロジェクトリーダーを務めた「ゼロからの起業」には約20名が参加した。
約4ヶ月の時間をかけて「創業期の起業家が本当に学ぶべきこと」をディスカッションを通し学びあっただけでなく、プロジェクト最終日には「デモデイ」として受講生一人ひとりが実際のエンジェル投資家の前で事業内容をプレゼンした。
今回は、最終プレゼンで優秀賞を受賞した高島彬さんへのインタビューを実施。
高島さんが起業家として掲げるビジョンは「新たな感謝を生み出す、世界的な落とし物プラットフォームを創る」だ。どのような思いで創業に至ったのだろうか。

「落とし物」の課題解決

──まず起業にあたって、想定している事業と起業のきっかけについて聞かせてください。
高島 株式会社FINDs(ファインズ)を創業し、「落とし物クラウドFIND(ファインド)」を開発・提供します。落とし物にまつわる関係者の課題解決を行い、新たな感謝を生み出し、経済価値を創出する事業です。
実は私自身、全く胸を張って言えることではないのですが、よく落とし物をしてしまいます。スマートフォンを居酒屋に忘れてしまったこと、電車や新幹線にカバンを置きっぱなしにしてしまったことも一度ではありません。
そして、その度に自身が滞在した可能性のある各所に連絡を入れなければならず、落とし物が見つかっても本人確認や受取に時間がかかったりと、少なくない労力がかかってしまいます。そもそも、大事な落とし物が見つかるかどうかもわかりません。
落とし物を探すプロセスはつくづくアナログで大きく深いペインを感じていましたが、『落とし物とはこういうものだ』と諦めていました。もちろん、落とし物をしなければ問題ありませんが、健康で文化的な生活を営むうえで、人々はファッションを身に着け、モノを持って移動するため、落とし物は無くなりません。
そんな中、『ゼロからの起業』受講期間の10月に大変情けないのですが酒に飲まれてしまい、スマホとメガネを落としてしまった体験が今回の起業のきっかけとなります。
今までなら「また落としてしまった。見つけられるまでは大変だな、、。」と諦めに近い思いを抱きながら居酒屋、カラオケ、鉄道会社、警察などへ照会や届出をしていたと思います。
しかし、それらを終えてやはり落とし物は見つからず不安を感じた次の日に、「これだ」と。「これが起業するための事業だ」と直感しました。
当時は考えていた創業事業がしっくりこず、2、3カ月ほどずっと悶々としていました。
そんな思い悩んでいた時期に、自身が落とし物をした経験をして、「自分が困っているからこそ解決したい」「誰に頼まれることがなくてもこれをやりたい」と、心底思える創業事業を見つけられました。
「落とし物クラウドFIND」

法人も課題を抱えている

──実体験が起業のきっかけになったと。
そうですね。それに落とし物に関わるのは、落とした人にとどまりません。拾った人は当然ながら、預かる人も関わってきます。
まず拾った人は、法律ではお礼として数割を報労金として請求する権利などを有します。とはいえ、実際のところは拾っても見返りを求めず、施設や警察に匿名で届け出て権利を放棄することは少なくありません。
しかし、拾った人は、その後に落とし物が持ち主の手に無事戻ったかが気になったりするものです。
お礼に関しても、匿名であればメッセージやギフトを受け取りたいという思いもあるでしょうし、落とした側である私も、落とし物が返って来たときは、できることなら見つけて届けてくださった方にお礼をしたい気持ちがありました。
次に預かる人を考えると、実は落とし物のマーケットでは法人のコストが大きな割合を占めています。例えば、大手鉄道会社1社だけで1日約5000件の落とし物があると言われ、管理はもちろんのこと、対応コストも膨大になります。
私自身、落とし物をした際は駅員さんに尋ねにいきましたが、後ろに道案内等でお待ちの方が並ばれる中で駅員さん二人に10分程度の対応を頂いてしまいました。
──個人だけでなく、法人も課題を抱えているわけですね。
私たちFINDsは、落とし物にまつわる関係者のうち、落とした人を「ドロッパー」、拾った人を「ピッカー」、預かった人を「キーパー」、とそれぞれ定義し、三者をテクノロジーでつなぐ事業を構想しています。
サービス名は『落とし物クラウドFIND』で、ユーザーが落とし物や拾得、保管といった情報、画像などを入力し、自然言語解析と画像解析技術によって、落とし物に関わる人々や情報をマッチングさせるアプリケーションです。
当初はCtoCサービスから開始しますが、多くの落とし物が集まる鉄道会社や各種施設ともアライアンスを組むことで日本全国の落とし物データベースを構築し、FINDアプリに一度落とし物情報を登録するだけで、必ずそれらが見つかる世界を実現させていきます。
「落とし物クラウドFIND」ビジネスモデル
日本は「世界で一番落とし物が見つかる国」と言われており、これは日本の素晴らしい文化と言えます。例えばニューヨークでは、財布を警察に届けると新聞に載るほど、それは珍しい行動となります。
私たちとしては、漫画や自動車、日本食に並ぶような、「落とし物が見つかる」という日本の素晴らしい文化を、サービスを通じて海外にも浸透させていきたいと考えています。

「本気の人だけ来てください」

──ありがとうございます。高島さんの経歴についても、改めて聞かせてください。
2011年の大学卒業後、在学中から活動していたインディーズバンドのギターボーカルとして、地下のライブハウスで活動を続けていました。ところが東日本大震災をきっかけに音楽に対する自信の価値観が変化し、就職活動を行い、様々な業種に携わるなかでやりたいことが見つかるのではと、多角的に事業を展開するオリックス株式会社に入社しました。
オリックス株式会社では環境エネルギー部門を経て、4年ほど前に事業開発部門に異動しました。テクノロジースタートアップとの資本業務提携を通じた事業開発や戦略立案をする部門で、国内外のスタートアップとの関わりが増え、もがきながらも自身のビジョンを持つ経営者と対話をする中で、彼らに憧れに近い思いを抱き、「いつかは自分も起業したい」という思いが強まったと言えます。
創業メンバーの和田は、その時期に関わりと持ったAIスタートアップの主要メンバーで、彼とは同い年ということもあって話も合い、定期的にビジネスやトレンド、マインドセットについて話すうちに「いつか一緒に何かをやりたいね」と語る間柄になりました。
──『ゼロからの起業』を受講したきっかけはありましたか。
NewsPicksに掲載された、講座に関する記事を目にしたことですね。
私自身、社会人1年目からNewsPicksに登録する古参ユーザーになります。もちろんNewSchoolの様子もフォローしていましたが、その中でも本講座開催前に掲載された、「学ぼうという姿勢の方は来ないでください。講座終了時までに創業することが目的です。本気で起業する人だけ来てください。」といった趣旨の麻生さんの記事は、強烈に印象に残りました。
記事を見て、20万円という参加費をかけることで自分を言い訳できない環境に追い込めるのではないかと思い、記事を読み終えた後にすぐ申し込みをしました。

「人生を懸けてやるテーマなのか?」

──それまでも起業への思いは強かったと思います。以前から事業は模索していたのでしょうか。
思いは相応に強かったです。事業アイデアも、実は私と和田で10個ほどありました。
例えば、NFTを活用したインディーズミュージシャンの未公開音源原盤権プラットフォームや、富裕層に向けたワインのデリバリー&コレクタブルサービス。他にも和田の趣味がサーフィンのためアフターコロナに向けて東南アジアのガイドと日本人サーファーをつなげるマッチングプラットフォームなど、、、色々ありました。
ただ、今回の講座でも「起業しないとできないことをやるのが起業」という話があったり、私がファンの朝倉祐介さんも「起業は、誰からも頼まれていなくても、自分がやらなければいけないと勝手に使命感を持ってやること」とよく話されています。
私たちは温めていた10個ほどの事業アイデアについて、「これは人生を懸けてやるテーマなのか、いや違う」という自問自答を繰り返していました。
とはいえ、事業アイデアを具現化できないまま、10月末の最終プレゼンは迫ってきます。劇的な進捗で進化する周りの受講者の眼がどんどんとキラキラ輝いていくなか、何も決まらず内心はかなり焦っていました。正直、体調不良と言ってドロップアウトしようかとも思ったくらいです。
10月に落とし物をしたことがきっかけに、最後の最後に自分の人生をかけるテーマが見つかっただけに、運がよかったと言えそうです。
──事業アイデアがひらめいてから、どのようにブラッシュアップさせていったのでしょうか。
落とし物をした次の日にひらめいてから、「絶対にいける」という確信は抱いていました。プレゼン資料に落とし込む内容もすでに頭の中では描け、すぐに和田に連絡したところ、彼も「めちゃくちゃいいじゃん」と興奮していましたね。
当時2人でホワイトボードに描いたFINDsのサービス
その翌日には会議室を借り、和田とともにすぐさまサービスのプロトイメージを形作っていきました。記憶も鮮明で、10月7日に落とし物をして10月29日が講座最終日だったので、その間の2、3週間ほどでやりたいことをプレゼンまで一気に落とし込むというスピード感になりました。一方、ビジョンやミッション、バリューの設定には、かなりの時間をかけました。
──事業アイデアについて、周囲からどのような反応を受けましたか。
講座で話したときのことは、よく覚えています。確か10月29日の最終プレゼンに向け、2週間前に初めて事業アイデアを講座で話す機会がありました。
直前に作ったばかりのに出来たてホヤホヤのアイデアでしたが、いざ話したところ、「すごい面白い」「めちゃくちゃいいじゃん」と上々な反応。個人的には自信を持っていましたが、周囲の声を聞いて、背中を押してもらえた感覚になりました。

印象的なエピソード

──実際の最終プレゼン前後では、気持ちの変化は生まれましたか。
実はアイデアをひらめいてから最終プレゼンまでの2週間、和田とともに何人かの先輩起業家を訪ね、事業アイデアのフィードバックを受けました。
そして、正直に言えば誰もが好反応を示してくれました。なかには、「マネタイズはどうするのか」という指摘もなくはありませんでしたが、起業する若者を応援したいという気持ちがあるのか、総じて上々の評価ばかり。和田とは、「逆に怖いね」と話したほどです。
そこで、最終プレゼンでプロの投資家から見た事業への鋭い意見を聞ける機会は滅多にあることではないので、最終プレゼンはありがたい機会であり、楽しみでもありました。
自信のあるアイデアだったので悪くない反応を引き出せるのでは、という思いもプレゼン前には抱いていましたが、まさか新規事業のプロフェッショナルである守屋(実)さんから「大手鉄道会社と仕事をしているから、連携しましょう」というお声を掛けていただけるとは思ってもみませんでした。
守屋さん受け取った創業ギフトを最大限活用させていただき、その鉄道会社には早速提案を行い、連携を検討しています。
また、守屋さんからの言葉は大きな自信にもなると同時に、「やらないといけない」という使命感も増し、会社設立に一気に動き出すきっかけになったことも間違いありません。
──4カ月にわたるプロジェクトの中で、印象的なエピソードはありますか。
三つ思い浮かびますね。まず一つ目がメンバーからの刺激になります。
講座の開始当初は周りの受講生も、起業する会社の影も形もないところからのスタート。ところが、講座が進むにつれて顔つきも変わっていきました。
私は当初オンラインでの参加で、受講生たちの進捗を知る度に後れを取っていると感じて危機感を覚えたので、相当な刺激を受けました。
二つ目は講座の内容になります。
ありがたいことに現在は大企業の中で新規事業創出や社内起業といった自分のやりたい仕事に取り組めています。もともと仕事をする中では、麻生さんの著書『新規事業の実践論』に書かれている内容をまさに実践しているつもりでしたが、講座を受けたことで新規事業と起業の違いもはっきりと実感しました。
例えば『新規事業の実践論』では、事業を立ち上げる流れがステップごとに記されていますが、この講座では「起業家の皆さんは、この順番なんて関係なく、明日までに全部やってください。起業家なんだから。」と滅茶苦茶に煽られます(笑)。ダイナミックさを面白いと感じると同時に、「起業とはこういうものなのか」と改めて感じさせられたものです。
最後の三つ目は、麻生さんがCEOを務めるAlphaDriveがJR品川駅に出した広告を発端に、炎上騒ぎが起こったときのことです。
騒動の真っ只中でも、麻生さんは講座に出て来てくれました。さすがにオンラインでの画面越しでも落ち込んでいる様子に見えましたが、現在進行形で起きた事象に力強く向き合う麻生さん自身の起業家としての姿を目の当たりにできたのは、本当に印象深かったです。

「自分とは何者か。何がしたいのか」

──麻生さんが聞いたら喜びそうな話ですね。高島さんにとって、麻生さんはどのような存在になりますか。
私個人は、前述したとおり終盤まで確固たる事業アイディアが無く後ろめたいモードが言動に出ていたため、名前も覚えてもらえないような影の薄い存在でした。ただ、麻生さんが私含む全ての受講生に対し、起業家として言葉をかけ続けて接してくれたおかげで、創業への一歩を踏み出せました。まさにメンターであり、起業家としての先輩でもあります。
その上、「これからも皆さんのことは無条件に応援します」と声をかけてもらえ、既にとあるプロジェクトにもご協力いただき、非常にありがたい存在です。
──『ゼロからの起業』の魅力について、改めて聞かせてください。
内容はNewSchoolの他の講座と、全く異なると感じますね。
他講座はチームを組んで講座で得た知見をチームで実践し発表していく形で、講師と受講生の関係も「先生と生徒」という関係性に近いのではないでしょうか。一方で『ゼロからの起業』は、麻生さんが「あなたたちが主人公。あなたたちがやるんです」と言うほどで、一人ひとりが創業者であり、起業家という立場になります。
受講生同士の仲が悪いわけではありませんが、一人一人が創業者なので、チームで盛り上がる雰囲気でもありません。
数カ月に渡って、「自分とは何者か。何がしたいのか」と自らと向き合う時間も非常に多く、つらくないと言えば嘘になります。数日間山に籠って自分と向き合っているという受講者がおり、私はそれを聞いて海にいきました(笑)。しかし、自分に本気で向き合うからこそ、何か行動する時の大きな内発的な原動力になるのだと思います。
受講生も十数人と他講座に比べると少数ですが、それも「学ぼうという姿勢の方は来ないでください」とハードルを上げた故でしょう。「本気で起業したい」と考える人にとって、これ以上の講座はないはずです。
──最後に、今後の事業の展望について教えてください。
FINDは、「落とし物を見つける」というマイナスをゼロにするだけのサービスではありません
目指すべき形は、私たちのサービスをきっかけに、「見つけてくれてありがとう」「感謝してもらえ嬉しい」といったプラスの感情を生み出すような、新たな付加価値の創造になります。「おばあちゃんからもらったぬいぐるみを見つけてくれたら多大なお礼をしたい」等といった、価値の非対称性に基づく新たな経済活動を創出します。
日本は全国各地に張り巡らされた交番があるから、落とし物が届けられる文化が築き上げられました。しかしながら、その交番制度は明治時代に生まれてから100年間ほぼ変わっていません。
この100年でテクノロジーは長足の進歩を遂げている以上、落とし物にまつわる対応やオペレーションも、今こそテクノロジーによって生まれ変わるべきではないでしょうか。
日本の誇る文化をテクノロジーの力でサービスとして具現化し、世界に打って出ることに、私たちは大きな意味があるのではないかと考えています。現在はコンセプトやビジョンを形にしたサービスをα版として目下製作中です。
現在、創業メンバー中心に仲間を集めている段階ではありますが、各領域に専門性を持った素晴らしいメンバーが少しずつ集まってきています。「新たな感謝を生み出す、世界的な落とし物プラットフォームを創る」という我々のビジョンに共感してもらえる方々は是非コンタクトいただければありがたいです。
最後になりますが、このような一歩踏み出すきっかけをいただいた『ゼロからの起業』の同窓生並びに講師の麻生さん、そして運営事務局の皆様には本当に感謝しております。これからの行動と成果でお返ししていきます。
FINDsのHP、コンタクトのメールアドレスはこちら
URL: https://www.finds.co.jp/
メール:contact@finds.co.jp
(取材:上田裕、構成:小谷紘友、写真:鈴木大喜)

麻生要一氏からのコメント

受講当初の高島さんは、起業への意志は強いながらも、創業事業で取り組むテーマを決めきれておらず、悩みながら模索しているように見えていました。
NFTを使った何か、何かのマッチングプラットフォーム、など、ビジネスメディアに取り上げられているキーワードを抑えていて、聞こえはいいけど、なぜ高島さんがその事業に取り組むのか、原体験や強い意志を伴ったテーマ化ができていない状態だったかもしれません。
「ゼロからの起業」では、起業家にとってのWhyを深掘りして、N=1の深い顧客課題に向き合います。その前半戦で、高島さんは特に、かなり悩みながら自分たちと向き合い続けた時間軸を過ごしました。
そして、今考えれば偶然ではなく必然だったかもしれないと思う、高島さんにとって転機となる瞬間が訪れます(スマホとメガネをなくす事件です)。プログラムも後半に差し掛かった頃、講義が始まる前のチェックインの時間帯に、突然「創業事業を見つけました!」と力強く宣言した高島さんに、僕も受講生のみんなも驚いたシーンがありました。
その時の表情や、いつもより一段階高かった声のトーンは今でもずっと覚えています。高島さんが、長く深い探求の果てにたどり着いた「落し物」というテーマは、一見すると、どこにも誰にでもある、ある種の「ありふれた課題」にも見えるかもしれません。
でも、自分たちの価値観とWhyを深く探索する中で、非常に力強い原体験を伴って創業テーマ化できた高島さんにとっての「落し物」というテーマは、どこかの誰かが思いつきで設定したそのテーマとは一線を画します。
他の誰にもできない、高島さんたちだからこそ解決できて、高島さんたちだからこそ作り出していける新しい「落し物」の世界線がある。
それは、いわゆる潜在的な「市場規模」として捉えた時にも、巨大で魅力的な取り組みテーマとも捉えられます。
高島さんたちがこれから作り出していく、落し物にまつわるあらゆる不が解決されていく社会を、これからもずっと、心から応援していきます。