【ゼロからの起業】「社会構造から性別をなくす」ために、私は動き続ける

2022/3/15
「学ぶ、創る、稼ぐ」をコンセプトとする、新時代のプロジェクト型スクール「NewsPicks NewSchool」。
起業家・投資家・経営者という多数の顔を持つ麻生要一氏がプロジェクトリーダーを務めた「ゼロからの起業」には約20名が参加した。
約4ヶ月の時間をかけて「創業期の起業家が本当に学ぶべきこと」をディスカッションを通し学びあっただけでなく、プロジェクト最終日には「デモデイ」として受講生一人ひとりが実際のエンジェル投資家の前で事業内容をプレゼンした。
今回は、最終プレゼンで優秀賞を受賞した石橋亜美さんへのインタビューを実施。
石橋さんが起業家として掲げるビジョンは「社会構造から性別をなくす」だ。どのような思いで創業に至ったのだろうか。

「社会構造から性別をなくす」とは

──まずは、石橋さんの経歴と事業立ち上げのきっかけについて教えてください。
石橋 経歴としては、大学卒業後に自社CMSを開発している企業のWEBディレクターとして2年ほど働き、株式会社ギフティに約6年間勤務しました。
ギフティでは、カジュアルギフトサービス「giftee」のディレクターとして、サービスに関するディレクションを包括的に担当しました。
サービスとしては会員数が約20万人から160万人を超えるまで、企業規模としては社員数約15人の頃から東証マザーズ上場、東証一部への市場変更というフェーズを経験しました。
個人としてはLGBTQ+当事者であり、パンセクシャル、ノンバイナリーを自認しています。
簡単に説明をすると、パンセクシャルもノンバイナリーもLGBTのどれでもなく、「+」の部分に当たります。パンセクシャルとは全性愛のことで、相手の性別を問わず恋愛対象になる人のことを指します。私個人の感覚としては、相手の性別を特に意識していない、という表現が近いです。
ノンバイナリーとは自分の性認識に男女という枠組みを当てはめない考えで、最近では宇多田ヒカルさんが告白されて、広く知られた言葉にもなります。日本では、Xジェンダーという言葉の方が馴染みがあるかも知れません。
私自身がセクシュアルマイノリティと呼ばれる属性を持っているため、同じように悩みを持つ人々に対して何かしら力になれることはないか、と考えたのが起業のきっかけになります。
ビジョンとして「社会構造から性別をなくす」、ミッションとして、「すべての人が、ジェンダーに囚われることなく活躍できる情報と機会を提供する」を掲げています。
起業にあたって、生まれ持った(戸籍上の)性別や性自認、性表現、恋愛対象に関わらず、機会や選択肢が平等に与えられる社会を理想と考えました。
理想を実現するためには、様々な制度・文化が変わっていく必要があります。そのためにも、まずは性別に対する認識を変えようと、性別を再定義する「ReGender」というサービスの開発を準備しています。
「ReGender」は行動統計と性自認や性表現など性別の概念を要素分解したものを掛け合わせることで、本当の自分に出会えるという性別診断サービスです。
自身のジェンダーやセクシュアリティに悩んでいる方はもちろん、異性愛者でありシスジェンダー(戸籍上の性別と自認している性別が同一)の方であっても、その方の個性が様々な切り口からグラデーションとして診断されます。
個人や企業研修のほか、結婚相談業やマッチングアプリなどのパートナー探しに特化した提供事業者へのAPI提供も想定しています。
また、ほかにもジェンダーフリー情報メディア「LOKAHI MEDIA」、サイト制作・ブランディング事業、ファイナンシャルプランナーの資格を有しているのでLGBTQ+やひとり親向けの支援事業を考えています。

「自分に正直に生きたい」

──麻生さんの「ゼロからの起業」というプロジェクトに参加したきっかけについて、聞かせてください。
きっかけとしては、ギフティを退職するタイミングで講座の募集があったことが大きかったですね。
当時はLGBTQ+に何かしらの形で関わりたいと思い描いていた時期で、私はNewsPicksのプレミアム会員として講座の開催を知ったのですが、「いまがジャストタイミングかもしれない」と感じて応募しました。
ただ、当時は今ほど明確な考えはなく、安易で視野も狭かったと思います。個人的に自信がつき、気軽に話せてコミュニティを形成できる場を作れれば、といった漠然とした考えでの参加でした。
実際に、「何をしたいか?」という初期の課題でも、私は「SNS」や「コミュニティメディア」と記した記憶があります。
はじめはそんなおぼろげな考えでしたが、麻生さんは「なぜ、あなたはこの事業をやるのか?」というWhyを重要視し、講座内でもWhyの設定を求められました。
そこで、内側からふつふつと湧き上がって来たのは、「自分に正直に生きたい」「もっと誠実にありたい」という欲求でした。
確かにこれまでの自身を顧みると、自身のセクシュアリティに関わるような質問をスッとかわすことが癖になっていたように思えます。例えば「結婚はどうするの?」と聞かれたら「(結婚はできないけど)結婚式は挙げようと思う」というように、日常的にかわすシーンが多々思い浮かんできます。
そういったかわす場面が増えれば増えるほど、自分の言葉が呪いのようにのしかかり、素直な思いを伝えることができなくなったり、歯がゆい思いをすることも少なくありませんでした。
もちろん、それらの言動には誰の悪意もありません。文化として形作られてきた、今の社会の一部分になります。
ただ、誰も悪くない結果とは言え、誰も悪くないから今のままでいいのかとなれば、そうではありません。苦しかったり抑圧されていると感じる人もいるはずだと。
講座を受けるにつれて、社会の認識がフラットになり、自分がより自分らしく胸を張って生きられる社会になれば、という思いが強まっていきました。
事業について考えていく中で、自分を隠さない場所としてVRの活用も一案としてはありました。しかし、麻生さんに相談した際に「隠さないでいい現実世界の方が、未来としては絶対に良い」とアドバイスいただき、自分が無意識のうちに「殻」を作ってしまっていたことに気づかされました。
そこから、もう一度考え直して生まれた言葉が、「社会構造から性別をなくす」というビジョンでした。

小さくまとまりたくはない

──事業として立ち上げることで、小さくまとまらずに本質的な社会課題の解決に繋がると言えそうです。
そうですね。スタートアップにするか、オーナービジネスにするかも非常に悩みました。悩み抜いた末、今はスタートアップにしようと考えていて、その理由も小さくまとまらないためと言えます。
小さくまとまっていては、関わってくれた人にしか思いは届かず、社会の認識までは変わりません。
本気で社会構造を変えようとするのであれば、やはりスタートアップとして短期間で爆発的に広まらないかぎり成し遂げることはできないのではないか、と考えています。
──「社会構造から性別なくす」というキーワードは印象的でわかりやすいビジョンだと思います。周囲からはどのような反応を受けましたか。
「ふ~ん」という反応でしたね。「よくわからないけど、いいんじゃない?」というような、批判的ではないものの、社交辞令の雰囲気を感じることはあります。現状は、麻生さんがよく口にする、「いい感じにわけがわからない」という状態になるのではないでしょうか。
ただ、実際にLGBTQ+の支援活動をしている方には共感してもらえることが多いですが、LGBTQ+に属する人であっても、社会構造上の性差をフラットにしたいとは考えていない方も多いです。
同性愛者であろうとトランスジェンダーであろうと、自身の考える性別らしく生きたい気持ちが強い場合もあります。そこには、「女らしくなりたい」「男らしい自分でいたい」といった考えも含まれ、共感ばかりが集まるわけでもありません。
実感としては、私が自認しているパンセクシャルの方や性別という概念で相手を見ない層、男らしさ・女らしさに囚われたくない層、あるいは女性の社会進出に取り組む層などからは共感が集まりやすい傾向があるように思えます。
──プロジェクトの中で、印象的だったエピソードはありましたか。
受講生同士の話で言うと、みんなの熱い思いを聞く機会が多く、各々の進捗を聞くたびに「ヤバい、私も頑張らないと」と刺激を受け、私にとっては非常にいい影響がありました。
それに、先輩起業家の話を聞く機会も大変ありがたかったです。起業について漠然としか持てなかったイメージが、リアルな体験談を聞くことでよりクリアになっていきました。
個人的にも、麻生さんから直接勇気づけられる日が来るとは思ってもいませんでした。
性別の分野は学術的でもあるため情報量も膨大で、知れば知るほど情報に溺れていくような感覚に陥りがちです。しかし、麻生さんには個別メンタリングでも親身に相談に乗ってもらえ、投資家視点や起業家視点など、複眼的な意見ももらえました。
そんな麻生さんから「いいね。むちゃくちゃいい感じにわけがわからず面白い」という、ほめ言葉を受けてありがたい思いです。
起業と言えば孤独なイメージを抱いていただけに、同じステージの仲間がいることがとにかく心強く感じられましたし、毎回講座に出ることが非常に楽しみだっただけに、終了した今では寂しさもありますね。

起業を体系立てて学べた

──数カ月にわたる講座の最後は、プレゼンで締めくくられました。最終プレゼンの直前、そして終わったあとの気持ちについて聞かせてください。
受講する間、自分の気持ちがどんどん変化していくのには気づいていました。起業について曖昧な考えしか抱いていなかった当初から、講座を受けるにつれて、自分の人生を考えた上で起業に踏み切るという気持ちが固まっていきました。
元々、受講当初は1週間のうち4日間は会社に勤め、残りの3日で事業をはじめようという考えでした。しかし、実際に講座を受けることで、自分のなかで「起業して本気で取り組みたい」という気持ちが強まり、その結果として週4日で勤めていた会社を辞め、受講中に個人事業主として独立しています。
当時は事業もまだ固まっていませんでしたが、「社会構造から性別をなくす」というビジョンが生まれた時期でもあります。その言葉が自分のなかでしっくりきた感覚があったため、「このビジョンで起業する」と決心したとも言えます。
最終プレゼンを振り返ると、やはり緊張はしていました。偽らざる気持ちとしては、自身のカミングアウトという部分もあったので、受け入れてもらえないなんてことはないだろうと頭では理解しつつも、心理的なハードルの高さはあったように感じます。
ただ、実際に話を聞いてもらい、フィードバックを受けたことで、「背中を押してもらえてありがたい」という感覚でした。今はその背中を押してもらった勢いのまま、がむしゃらに前に進んでいこうという気持ちです。
──講座から得たものは多かったように思えます。
講座を通して、改めて自分を見つめ直すことができました。加えて、起業当初は何をどうすればいいのかもわからないものですが、麻生さんには創業期に決めなければいけない点、後戻りできない点など、欠かせないポイントを生々しい話を交えて解説してもらえ、これほど起業を体系立てて学べるところはないのではないかとも感じています。
起業に向けてまだ確固たるイメージが抱けていない方や、起業への一歩がなかなか踏み出せない方、あるいは一度起業したもののうまく軌道に乗らなかった方には、うってつけの講座かと思います。
受講したおかげで理論武装もでき、これまでなかなか持てなかった自信もついてきた実感がありました。

まだまだやることはある

──最後に、石橋さんが描く今後の起業家としてのストーリーについて聞かせてください。
性別診断の「ReGender」は、あくまでも手段のひとつでしかありません。「社会構造から性別をなくす」というビジョンを実現させるためには、まだまだやらなければならないことは多くあると考えています。
例えば言葉の使い方ひとつとっても、日本語もジェンダーに偏っている印象があります。「夫婦」という漢字、「彼氏」「彼女」といった言葉は、その代表と言えます。それらが将来的に変化していくには、今までの日本文化がアップデートされる流れが必要不可欠に思えます。
そして、実はヘテロセクシャルと呼ばれる異性愛者にも、様々な個性があります。身体的にも個人差が幅広くあり、恋愛対象の好みもそれぞれで違うはず。恋愛感情がない、あるいは、恋愛感情があっても性欲がないという人も少なくありません。
性別はグラデーションをなしていて、そのグラデーションのかかり方が人によって異なるという考えが広まれば、LGBTQ+の人が特別に異なる存在でもなければ珍しいわけでもないこと、「男は○○だ」「女は○○だ」と無理に全体にカテゴライズすることがどれ程実態と遠い話をしているのかが認識されていくのではないでしょうか。
人々の性別に対する認識を変えることで、「私はこういう人間だったんだ」と改めて自分自身にも興味を持てるはずであり、将来的には社会構造から性別をなくすことにつながっていくはずです。
もし共感してもらえる方がいれば、一声かけて頂ければ幸いです。ともにビジョン実現に向け、動き出しませんか。
LOKAHIのHP、コンタクトのメールアドレスはこちら
URL: https://lokahi-rainbow.com
メール:info@lokahi-rainbow.com
(取材:上田裕、構成:小谷紘友、写真:鈴木大喜)

麻生要一氏からのコメント

創業事業のテーマがLGBTQ+という社会的に議論が必要なテーマであることもあってか、「ゼロからの起業」受講当初の石橋さんは、起業に向けての強い芯がありそうながらも、どこかまわりに対して殻を作って、その熱量を自分自身でも自覚できていないように見えていました。
プロジェクト期間中、日を追うごとに殻が破れ、表情が生き生きとして、世界を変えることへの想いが溢れ出していった石橋さんの変化は、今でも僕の心にとても強く残っています。
特に、Day2の講義内容でもある「起業家として最も重要なWhyの設定」に深く取り組んだ中で紡ぎ出されたビジョン「社会構造から性別をなくす」が、はじめて言葉になった時。それを力強く話してくれた石橋さんの言葉を聞いたときに、ここから世界が大きく変わる、その大切な瞬間に立ち会ったような気がして心の底から興奮したことを覚えています。
石橋さんがこれから歩み出す起業家人生は、掲げるビジョンが壮大なだけに、具体的な事業作りの過程でも、その後の拡大シーンにおいても、多くの困難が待ち受けると思います。
でも、石橋さんが過ごしたこの創業期に、自分自身の心のあり方と、世界のあり様とに、深く、深く向き合って作り上げた「社会構造から性別をなくす」というビジョンさえあれば、少しずつでも確実に世界を変えていけると信じています。
これからも石橋さんが作っていく世界を心から応援し続けていきたいと思います。
「社会構造から性別をなくす」に少しでも共感される方、ぜひ一緒に石橋さんを応援しましょう!