マネジメント・シフト-b

第2回:風間八宏・川崎フロンターレ監督(全3話)

スポーツは、1番うまい人のためにある

2014/10/15
日本では、マネジメントの価値が十分に認識されていない。本連載では、マネジメントの価値を再発見し、「マネジメント・シフト」を起こすことを目標とする。中竹竜二・日本ラグビーフットボール協会コーチングディレクターが、一流と言われるスポーツチームのマネージャー(主に監督)と対談。ビジネス組織のマネジメントにも応用できる、マネジメントの本質を追求していく。
第1回 組織の中に隠れたら終わり。まずは「個」を打ち出せ
DSC_0509

  

技術は頭の中にある

中竹:風間さんの発想を聞いていて、非常に極端だと感じました。反面、実際に練習で行うのは超基礎ですよね?

風間:超基礎しかやらないですね。

中竹:それがすごい。普通、発想はシンプルで、基礎を凝った方法でやるというケースが多いです。でも風間さんの場合、発想は極端で、練習はシンプル。

風間:原則さえ理解すれば、うちの選手にとって理解できないことはひとつもありません。ただ、それをやり続ける難しさがある。足下のどこにボールを置けばいいのか、それを難しいと感じる人もいます。

でも僕が言っているのは、別に魔法をかけろということではありません。ボールをどうやって止めて、どこに置いて、どうやって運ぶのか、その細部まで徹底的にこだわるだけです。それを普通のことと認めて、徹底できるか。だから僕はいつも、「技術は頭の中にある」と言います。それに気づくか、どうかです。

中竹:おもしろいですね。

風間:「技術は頭の中にある」と気づいてすごくうまくなる選手もいれば、プラスアルファに変えていける選手もいます。頭の大きさは各自で違うから、それをチームで組み合わせていくと、1番望みの高くて、1番うまい選手にみんながついていかなければいけなくなる。

中竹:そうやってチームのレベルが上がっていく、と。

風間:レベルが上がっていくから、止まれないんです。つまり、上限がない。ある選手が「これでよくなるかも」と思った瞬間、うまい人はまた進んでいるので、差が開く。そうすると、みんなの望みもまた高くなる。

風間

風間八宏(かざま・やひろ)●1961年静岡県生まれ。筑波大学在学中に日本代表に選ばれ、卒業後は5年間にわたってドイツのクラブでプレー。帰国後、マツダSCに入部。1992年からはJリーグのサンフレッチェ広島でプレー。現役引退後、解説者として活動する傍ら、桐蔭横浜大学サッカー部監督、筑波大学蹴球部監督を歴任。2012年に川崎フロンターレ監督に就任、2013年にリーグ3位に輝いた。

目的達成意欲、楽しむ気持ち、そして不安

中竹:ラグビー日本代表のヘッドコーチをしているエディー・ジョーンズが、まさに同じ発想をしています。ボールを捕る際、昔は「身体のどこで捕ってもいい」とされていました。でも、エディーはアーリーキャッチを徹底した。ボールを早く動かすためには、胸の前で捕るのではなく、手を伸ばして早く捕れ、と。エディーが来て、選手の目線が変わりました。

風間:手で早く捕るのは、みんなができることですもんね。

中竹:そうなんです。基礎にすごくこだわったことで、日本代表は世界ランキングが上がっています。エディーが言っていることと、風間さんの「技術は頭の中にある」というのは同じことですよね。いい言葉だと思います。でも選手に理解させるのは、なかなか簡単にはいかないのではないでしょうか。

風間:就任1年目は、言葉を全部砕かないと難しかったです。たとえば集中するには、目的達成意欲、楽しもうとする気持ち、不安という3つの要素が必要です。僕はそれを「4−4−2」と言っていました。「目的達成意欲が4割で、楽しむ気持ちも4割、残り2割を不安として持っているのが、集中力が高い状態だ」って。

目的を達成しようとする意欲ばかりが強かったら、不安が大きくなるじゃないですか。同時に楽しむ勇気もなくなってしまう。不安のない選手は、絶対にうまくいきません。でも、不安が大きすぎてはいけない。数字の割合は「4−4−2」ではなく、適当でいいんですけどね。そういうことを説明していると、選手は勝手に言葉を使い始める。たとえば新しいトレーナーが来たときに、「ヤバいよ、俺、1−1−8だよ」っていう感じで。不安が8だよって(笑)。

中竹:そういう表現があるんですね(笑)。風間さんの考えは、どれくらいでチームに定着していきますか?

風間:最初からうちにいる選手は問題ありません。でも、途中から加入した選手は難しいと思います。なぜなら、初めの段階に戻ることはないから。うちはボールを止める、蹴る、運ぶという基礎技術のスピードが速いので、チームの中に入るのがすごく難しい。「もう1度、最初からやろう」なんてことはないので。

中竹:チームにはすでにあるものですからね。

風間:そういう難しさはあります。でも、僕が自分でやるなら、そういうほうが好きですね。選手もそうだと思う。選手にとっては、楽しいのが一番だから。たぶん、スポーツは1番うまい人のためにあるのだと思います。

中竹:おもしろいですね。下に合わせるのではない、と。

風間:1番うまい人がどれだけ生き生きして、僕らがどのくらい彼らを伸ばせるかだと思っています。大学生を教えたこともありますが、下には絶対に合わせない。1番上を伸ばせば、2番目がついてきます。そうすると、3番目もついてくるしかない。

中竹:学校教育とは逆ですね。

風間:たぶん、逆のほうがいい。そうすると、1番上がエネルギーを爆発させますからね。だって、彼らはやりたいんだもん。エネルギーを爆発させたい人に、「待っておけ」というのは違うと思う。それが僕の組織つくりです。

「やらされるなら、辞めろ」

中竹:おもしろいのは、本質的には個人がいかに楽しんでやるかに風間さんはフォーカスしているけど、結局、組織をどうつくるかに行き着いていますね。

風間:そうなりますよね。うちのチームでは選手に見立てた磁石をホワイトボードに並べて、相手対策みたいなことはやりません。そうすると、マスコミに「チームつくりはしないんですか?」と聞かれます。実際は、毎日しているんですが(苦笑)。

個人競技のテニスと違い、サッカーには11人いる。そのチームをどうつくるかは、選手がガチャガチャ話していくという方法でもいいんですよ。その代わり基礎はしっかり持っていなくてはいけなくて、その基礎をチームで合わせることが必要になる。

そういったことを僕がやらせるのではなく、選手が自発的にやったほうがうまくいくに決まっているわけです。だから僕はよく、こう言います。「やらされるなら、辞めろ」って。

中竹:極端ですね。

風間:「『やらなければいけない』」なんてことは必要なく、『やるべきことをいつも持って来い』」って言います。要するに自分が勝つためにやるべきことは、自分で決めるということ。そうしないと勝てないし。

中竹:要するに、自分の意志がちゃんとあるかってことですね。

風間:そういうことです。うちの選手は本当に才能がありますからね。キャプテンの中村憲剛もそうだし、大久保嘉人、若い大島僚太、谷口彰悟、ほかの選手もすごい才能を持っている。だから、任せればいいんですよ。

サッカーというのは選手が好きにやって、それがうまく回って、チームの結果につながっていく。だから見ているファンも、そこにお金を払うわけです。僕の戦術なんか、ファンは見に来ないですよ。僕が黒板に戦術を書くことにお金を払ってくれるなら、毎日でも出張に行きます(笑)。

中竹:改めて思うのが、風間さんはひとりひとりの個性をすごく大事にするんですね。

風間:そうですね。個性はないとダメですから。子どもたちも同じですが、個性がその人の武器になるじゃないですか。そういう武器があって、基礎的な要素、つまりボールを止めて、置いて、運んでという技術を合わせると、それぞれの個性とともにチームになってくるんです。そうすると、武器とスタイルが一致すると思います。

(次回に続く)

(構成:中島大輔、撮影:風間仁一郎)

※本連載は、毎週水曜日に掲載する予定です。全3回の対談掲載後、みなさんからのコメントを踏まえて、筆者が総括を行いますので、ご意見・ご質問などをお寄せください