2021/12/19

【帝人】100年企業の研究者が新規事業立ち上げで学んだこと

NewsPicks 編集部 記者・編集者
大企業の新規事業について考える12月のプロピッカー新書。
第3回は、帝人の研究者らが立ち上げた健康サプリメントのスタートアップ、NOMONを紹介する。
博士号を持ち、海外での研究実績もある筋金入りの研究者が事業を立ち上げるには、多くの苦労があったようだ。
NOMONを率いる山名慶さんのエピソードを紹介する。

老化研究の最先端を家庭へ

──NOMONはどのような会社なのですか
山名 2017年に帝人の創業100周年事業の一つとして社内提案し、2019年2月に100%子会社として創業しました。
“Well-Being for Everyone”を理念に、「世界の景色をより良いものに変えていく」をミッションとして掲げ、老化研究の最先端を食卓に届けることを目標としています。
現在は2種類のサプリメントを販売し、Eコマースで販売しています。一つは加齢で減少する生体内物質の前駆体である「NMN」を高配合した「NADaltus(ナダルタス)」、もう一つは、本わさびの根茎から抽出された健康成分を含有する「WASAbis(ワサビス)」です。
──それぞれ、どんな効用があるのでしょう。
ナダルタスに含まれる「NMN」は、全ての生命体にとって必須の物質である「NAD」を補填できる「抗老化候補物質」と呼ばれるものです。バクテリアからヒトまで、どんな生物でも細胞が老化するとNADの量が減っていくのですが、NMNを補うことで、加齢で生じる病気を予防し、治療できることが世界中の研究結果から期待されています。
ワサビスに含まれる「6-メチルスルフィニルヘキシルイソチオシアネート」は、認知機能の一部である、判断力や注意力を向上させる機能があります。
どちらのサプリメントも老化研究の最先端といえるもので、現在はまだまだ高価ではありますが、帝人グループならではの安全な生産体制と最先端の知見から作られた食品を、なるべく安価で食卓に届けることを目指しています。
サプリメント市場は玉石混交で、正直言ってあまりおすすめできない製品もありますので、その点は帝人グループであることのアドバンテージだと考えています。
──帝人はマテリアルやヘルスケアなど、多様な製品の生産体制を持っていますが、NOMONのサプリメントも帝人の生産設備で製造されているのでしょうか。
いえ、外部の企業とパートナーシップを組み、原料から最終製品まですべて国内で生産しています。我々が新たに設備投資をするよりも、生産は委託し、帝人のノウハウはトレーサビリティに活かしたほうが良いと考えました。
帝人は基本的にBtoBの企業で、我々のようなBtoCの経験はほぼありません。NOMONは現時点では研究開発と、帝人ではやってこなかったマーケティングやブランディングに注力しています。

「甘え」断ち切った

──それまで山名さんご自身は、帝人でどのような仕事をしていましたか。
1997年に入社し、医薬品の研究所で研究職として働いていました。入社10年目にハーバード大学に2年留学させてもらったことがきっかけで、老化に伴う疾患に薬で対処するよりも、老化そのものを抑止したほうが有効だと考えるようになりました。
そのための研究も進んでいるし、事業化できるはずなのに企業として着手できていない、それがもったいないと思っていたんです。
──その後もずっと研究畑ですか。
2017年だったと記憶していますが、社長に呼び出されて「研究ばっかりやってないで、事業を作れ」と言われたんです。帝人はもともとはマテリアル事業を手掛ける企業なのですが、マテリアルとヘルスケア事業に分かれることになって、それぞれに事業統括1名と補佐2名が置かれることになりました。ヘルスケア事業統括補佐のうちの1人に指名されたんです。
言われたことは事業を作ることと、創業100周年イベントを考えることでした。ほかの事業統括と補佐は役員ばかりでしたので、自分には技術側からの新しい発想が求められているのだということはすぐに理解できました。
山名代表。東京都台東区の東京オフィスで(撮影:花谷美枝)
──新規事業を社内ではなく別に会社を起こして実行したのはなぜでしょうか。
あえて新会社を立ち上げたのはいくつか理由があります。