2021/12/27

「記憶力=才能か努力」という常識をぶち壊す「ものぐさ」な記憶法とは

NewsPicks, Inc Brand Design Head of Creative
2016年設立のスタートアップ、モノグサが開発・運営するのは「記憶のプラットフォーム」という一風変わったもの。学習における「記憶」に的を絞り、それを効率的に行うためのアプリ/Webサービスを提供する。
 小学校・中学校・高校、そして学習塾を中心に、中国語教室などの語学教室、美容・医療系専門学校、従業員のスキルアップに力を入れる一般法人、外国人労働者の就労を支援する人材企業など幅広い組織に採用され、サービス提供開始から約3年半でその数は3400教室を突破。今、急成長中だ。
 しかし、創業者で代表取締役CEOの竹内孝太朗は「記憶は何かを学ぶという行動に必ず必要。今は塾や学校が中心だが、社会人にだって十分に利用価値がある。まだまだこれから。こんなもんじゃない」と規模の拡大に自信を覗かせる。
 記憶を支援するとは一体どういうことか。そして竹内が目指す理想の世界とはどんなものなのか。物腰は柔らかく、語り口調は優しい。でも、語る言葉に並々ならぬ決意と野心をのぞかせる竹内CEOに話を聞いた。

どんな教材も「記憶」は丸投げ

──モノグサは「記憶」をサポートするアプリ/Webサービスを展開しているとお聞きしています。EdTechサービスは複数ありますが、Monoxerはそれらとは何が違うんですか。
竹内 学生が学ぶものでも社会人が学ぶものでも、教材ってたくさんありますよね。最近では、テクノロジーの進化によってデジタル教材が一気に増えました。
 テキストだけでなく、動画を有効活用する教材やネットワークを通じた遠隔授業なども当たり前になって、数だけでなく一つひとつのコンテンツがリッチになっています。
 ただ、その中で記憶が必要な教材は、コンテンツこそ充実しているものの、私から言わせれば「憶える、記憶する」ことに“コミット”していません。言葉を選ばずに言えば、「コンテンツは用意した。あとは憶えるのも憶えないのもあなたの責任です」のようなもの。
 例えば「3カ月でTOEIC 800点を取る!」と謳っている単語帳があったとしましょう。その単語帳は、優秀な人が必要な単語を厳選してくれているはずで、すべて憶えればきっと800点は取れるのでしょう。
 ただ、どうやって学ぶか、そして憶えきれるかはその人次第。それはあまりにもユーザー任せじゃないかなと私は疑問と課題を感じ、記憶プラットフォーム「Monoxer」の開発を決めたんです。
 何かを記憶したいすべての人が学習コンテンツに触れる時、それを確実に記憶できるようにナビゲートする。究極を言えば、記憶という行為を、息をするみたいに何の労もなくできるような世界を目指しています。
 記憶力の差って、生まれ持った能力か、それとも努力家かどうか、どこかそんな感覚をみなさんお持ちですよね。しかし、そうではありません。記憶するための学習方法と忘れないための管理をしていれば、どんな人でも効率良く物事を記憶できるようになるんです。

記憶に“コミットする”仕組み

──Monoxerがなぜ記憶に効果的なのか、その理由を教えてください。
 Monoxerの特長の前に、効果的に記憶するために私が大事だと思う3つのポイントの話をさせてください。
 一つ目は「解いて憶えるが最適」。記憶するといっても、声に出すとか書いて憶えるとか、さまざまな方法がありますよね。脳の特性上、問題がありそれに解答するという形式が、記憶には一番適していることが研究結果で証明されています。
 問題を出されると、人は思い出す行為を自然と行います。これを繰り返すと記憶が長期化しやすいんです。
 二つ目が「徐々に難易度を上げていく」。学習を進めていくにあたって、簡単すぎる、つまり既に記憶が定着しているものを何度も繰り返して学習しても時間のムダ。
 とはいえ過去の記憶と関連のない難しい問題を出されると拒絶反応が生まれて記憶しにくい。なので、少しずつ難易度を上げて学習を進めることが大切です。
 そして三つ目が「『忘れる』をいかに防ぐか」。どんな頭の良い人でも、人は必ず忘れます。せっかく記憶したものを忘れるのは非常に非効率だしもったいない。なので、いかに憶えたものを忘れないように、記憶を定着させるかが重要です。
──この3つのポイントをMonoxerはすべて実現している、と?
 その通りです。まず問題作成。Monoxerでは既存の問題集を購入することも、オリジナルの問題集を作成することも可能です。
 マーケットプレイスという機能がありまして、旺文社など複数の教材メーカーと協業しており、「ターゲット」や「出る順」シリーズなどの既存の素晴らしい教材がMonoxerで学習可能なコンテンツとして多数用意されています。その中から自分に合ったものを購入し、Monoxer上で学ぶことができます。
 また、「単語形式」「画像形式」「文章形式」「手書き形式」など、さまざまな問題形式を用意しているため、ニーズに合わせて自分で問題を作成することも可能です。学校や塾の先生が生徒に憶えてもらいたいことをオリジナルの問題集として提供し、運用されています。
 そして、二つ目と三つ目のポイントのカギを握る管理方法。これはAIを用いて、各学生の学習状況に応じて次に出す問題は何か、どこまでヒントを出すのかを自動分析し学習計画を策定します。
 忘れる行為に対しても、各生徒の忘れる頻度を正解率から導き出し、再度問題を出すタイミングはいつかを把握。学習計画に盛り込んでいます。
 なので、たとえば「英検準二級の単語を3ヶ月で憶えたい」と思ったら、Monoxerで適したコンテンツを購入し、憶えたい期日を設定をすれば自動的にAIが学習計画を作成するので、あとはそのプログラムに沿って学ぶだけです。
 どんな学び方をするか、どのくらいの時間を費やせばいいか、など余計なことを考える必要はありません。

自身の子供にも活用。小2で小6の漢字をマスター

──Monoxerを利用している学校でどんな成果が出たか、具体的な事例を教えてください。
 ある中高一貫校では、英検対策としてMonoxerで旺文社の教材を活用して学習しました。そうしたら、Monoxerを使う前は準2級の合格率が34%程度だったのが、80%に上がったと聞いています。
 また、学校だけでなく企業で採用された事例もあります。その企業では、多くの外国人労働者を雇用していて、日本語を学ばせるためにMonoxerを利用していただいており、ある一定量の漢字を覚えるのに従来は平均1年かかっていたようですが、Monoxer導入後は2カ月に短縮されたと嬉しい声をいただきました。
 加えて、これも嬉しいお客様の声ですが、ある勉強が苦手な生徒が多い学校で英語の授業にMonoxerを活用したら、生徒が憶える行為を楽しみに感じるようになって、生徒の学習意欲が急激に高まり、その結果、自発的に英検を受験する生徒が2.5倍に増えたと聞きました。
 一般的には、「何かを成し遂げたい。だから憶える」という順番だと思いますが、このケースは「憶えるのは楽しいし身についた。だから何かに生かしたい」と思考が変わった。私たちのサービスでユーザーの行動変化を促すことができたことを証明したこの事例は、とても嬉しかったです。
──ちなみに、竹内さんにもお子さんがいらっしゃると思いますが、当然使っていますよね?(笑)
 もちろん使っていますよ(笑)。今7歳ですが、Monoxerができた3歳半から使っていて、小学校2年生ながら6年生までの漢字を全部憶えて、中1までの数学もマスターしました。
 だからといって、IQが生まれながらにして高いわけではありませんし、特別な努力をしているわけでもありません。私が作った教材をMonoxerが設定した学習計画に沿って毎日15分ずつ解いているだけなんです。

中2で起業を決めていた

──今さらの質問になりますが、竹内さんは新卒でリクルートに入り、独立する前は大ヒット教材「スタディサプリ」を手がけていました。社内で新規事業を立ち上げやすい環境だったと思いますが、起業に踏み切ったのはなぜだったのでしょうか?
 中学2年生の時に、30才で起業すると決めていました。
 私の両親は、発展途上国支援にとても関心がある人で、その影響で小さい頃から貧しい国を支援するためにはどうすればいいかを私も考えていました。その一つとして、教育に関心を持っていたんです。
 そんな漠然とした意思を持ちながら大人になり、将来の起業に備えて、提案力と新規事業を立ち上げる力を養いたいと思い、リクルートに入社。そのうちスタディサプリを立ち上げる話を耳にして、これだ!と思い、異動希望届けを出しました。
 スタディサプリは予備校講師の良質な授業を低価格で提供しており、とても価値があるものでした。今でもそうでしょう。
 ただ、授業の映像を提供するだけでは不十分だと感じ、冒頭にお話した課題に着目し、解決方法を模索。その頃、高校の同級生で当時Googleに務めていた畔柳(圭佑・代表取締役CTO)に相談し具現化するためになんとか力を貸してくれと口説き続け(笑)、そして起業にいたりました。
 結果的に、29才のときでした。今振り返れば、色々な要素が重なって起業するべき時にしたなと思っています。
社名の由来は「面倒くさがり、無精者」を意味するものぐさ。マイナスなイメージがある言葉を社名にはしにくいが、ものぐさな人でも憶えられるという意味と、「ものぐさの語源をたどると、無精者だが才能があり、やればできる人という意味で腹落ちした」と竹内氏。コーポレートロゴは「ナマケモノ」がモチーフで、オフィスにもナマケモノのぬいぐるみが置かれている。竹内氏が不定期で買ってくるとか

創業時、投資家からは見向きもされなかった

──2018年末は約2だった導入教室数が3400を超えました。「記憶」という領域に特化したプロダクトはあまりない印象で、ブルーオーシャンである反面、マーケットを開拓しなければならないパイオニアとしての苦労も多かったのではないですか?
 おっしゃるとおりで、お金を集めるために投資家にプレゼンしても、全く理解されず、中には絶対に失敗すると断言されたこともあります(苦笑)。
 投資家の目線でいえば、まず教育マーケットが魅力的ではないから、訳のわからない領域に手をだしているように見えていましたから…。最初に投資してもらった方々でも、事業やプロダクトというよりも優秀なメンバーに投資してもらったようなものでした。
──潮目が変わったのはいつですか?
 その質問から察するに、「(モノグサは)上昇気流に乗った」と思われているかもしれませんが、私の感覚は全然そんなことはなく、本当にまだまだこれから!
 冒頭にも話しましたが、学びがあるところに記憶は絶対に必要です。今の利用者は学生が中心ですが、社会人にだって必要不可欠。そう考えると、マーケットは非常に広い。3400教室なんて規模ではない。
 教育において、参考書や学習コンテンツなど教材、そして塾やセミナーに参加するなど教えてもらう行為にお金を払うことに、みなさんは違和感を感じませんが、教えてもらったことを憶える、記憶することを支援するサービスにお金を払うという感覚が全然ない。
 しかし、必ず支援が必要な領域でじわじわと投資領域として確立されるでしょう。この先、みなさんに記憶定着の重要性を理解いただけるようになれば、一気にマーケットは大きくなると確信しています。

マーケットは無限

──さきほど、学生だけでなく社会人も対象という話がありましたが、竹内さんは今後どのようにマーケットを広げようと考えていますか。
 まず細かい話で言えば、現在のビジスモデルはBtoBtoCで、直接的なお客様は法人。学校や塾、企業などと法人契約し、その先にいる生徒や社会人に届けるかたちです。
 この提供形態を広げ、将来的にはBtoC、つまり学習者が主体的に便益を感じて使っていただけるような仕組みを考えています。
 新たなユーザー層の開拓では、ビジネスパーソン向けコンテンツの充実とアプローチを加速させていくほか、固定観念に縛られることなく提供エリアを広げていこうと思っています。
 たとえば健康マーケット。高齢化が進む中で、認知症は今以上に切実な問題となるでしょう。記憶を定着させる、学ぶという行為がそれに貢献する価値もあると思っています。
 また、HR(Human Resources)の領域にもチャンスはあると思っています。モノグサで記憶状況が分かれば、その人の能力を見定める時の解像度が上がり、採用や配置転換のミスマッチが起こりにくい効果も期待でき、HRソリューションとの連携も考えられると思っています。
 何度も申し上げたように「学ぶ」には記憶は絶対に必要なこと。柔軟な発想で記憶が必要なあらゆる分野に積極的にアプローチしていき、インフラのような存在になっていたいと思います。
 そのために、目下の課題として仲間が足りていません。モノグサの社員は、2年前は10人程度でしたが、今はその5倍。半年後には今の2倍の100人体制にする必要があります。この分野は必ず大きなマーケットになる。10年後、20年後にはテクノロジーが記憶をサポートするのが当たり前の時代がきっときます。
 その時に私たちがメインプレーヤーでありたい。EdTech業界には無数のプレイヤーが存在しますが、記憶の支援という領域には誰も手を出していない。
 パイオニアとして新しい市場を切り開き、リーディングプレイヤーとして昇っていく経験をしたい方はぜひお声がけください。謙虚にそして貪欲に同じ夢を追いかけている仲間とともに待っています。
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