「不死」という究極のイノベーション

2014/10/7
伝説の起業家にして投資家、ピーター・ティール。ペイパル共同創業者にして、フェイスブックを見い出した男。ティールは現在もシリコンバレーで絶大な影響力を持つ。そんな「伝説の男」を追ったThe Telegraphの記事を7回にわたり掲載する。
「死と戦う」
ピーター・ティールにインタビューを始めて1時間、彼との会話ではよくあることのようだが、死に話が及んだ。ティールは真剣な面持ちで死についてこう語る。
「基本的に私は反対だ」
ペイパルの共同創業者で、フェイスブックの初めての社外投資家となったティールは、おそらく最も成功を収め、そして間違いなく最も興味をそそられるシリコンバレーのベンチャーキャピタリストだ。ティールは情熱を傾けるものとして、チェス、トールキンの作品、「友人との知的な会話」を挙げる。そしてしばしば話題は「死の問題」に戻ってくる。彼はこう言う。
「死に対する姿勢はたぶん3つある。受け入れるか、否認するか、戦うかだ。我々の社会では否認したり、受け入れたりする人が圧倒的多数だと思うが、私は戦いたい」
人類の長い歴史を考えれば、負け戦のような気がする。「しかし簡単にあきらめるべきではないと思う」とティール。
ティールは感じのよい物腰の柔らかい男で、いろいろなことを考えながら話しているという印象を受ける。質問をすると、しばしば返ってくる答えは、「うーん、あー、思うに……こういう言い方をしたらどうだろうか」だ。考え始め、立ち止まり、別の考えを試し、別の言い方に変えてみる。まるで可能な限り正確に話す最善の方法を探しているかのようだ。そしてこう語る。
「ホッブスは『自然状態の人生は不快で、殺伐として短い』と言った。我々が自然状態を克服したいと思っているのは間違いないと思う。確かに死は自然なことだが、死と戦うのも同じように自然なことだ。ところが、誰かが立ち上がり、死は大問題だ、これについて手を打つべきだと言うと、人々はとても居心地が悪く感じる。それは、死と折り合いをつけてしまっているからだ。ある意味で、これは西側世界の自己満足の縮図と言っていいかもしれない。社会が衰退を甘んじて受け入れてしまった危険がある。そうした現状を少し揺るがしたいのだ」
シリコンバレーのリバタリアン
資産が22億ドルにのぼると言われるティールはシリコンバレーの王侯貴族で、エリートが居並ぶこの世界でも傑出した存在だ。彼は同性愛者、教義を実践するキリスト教徒、リバタリアン(自由主義者)であり、共和党の大統領候補だったジョン・マケイン上院議員と、同じく共和党の大統領候補でリバタリアンのロン・ポール元下院議員への支持を表明し、多額の献金を行った。
また政界やビジネス界で強い影響力を持つエリートが集まり、非公開で行われるビルダーバーグ会議の運営委員でもある。そして何よりも、ティールはテクノロジーが世界を変えることができるというユートピアン(夢想家)的な信念を持っている男だ。
さまざまなベンチャーキャピタルファンドと非営利のティール財団を通して、ティールは宇宙旅行、人工知能、バイオテクノロジー、情報技術(IT)に多額の投資をしている。彼は「シーステディング」という、政府の規制が及ばない海上の独立国家を建設するという考えを公然と支持している。彼の「ティール・フェローシップ」は、20歳未満の聡明な若者に大学に行かずに起業することを奨励するプログラムだ。
そして「不死プロジェクト」に巨額の資金をつぎ込んでいる。「私はもっと長く生きたいし、ほかの人にももっと長生きしてほしい」とティールは話す。このため、人体の冷凍保存分野における主要企業「アルコー」と契約し、死後に遺体を冷凍保存してもらうことにした。
「これはイデオロギーの声明だ。私が遺体の冷凍保存契約を結んだと言うと、クレイジーだ、気がかりだという反応が返ってくるが、それはこれが我々の自己満足に挑戦する行為だからだと思う」
ピーター・ティールが資産を築いたのはシリコンバレーかもしれないが、彼はサンフランシスコに住み、そこで働いている。彼のオフィスは金門橋に近いプレシディオ国立公園の低層ビルにあり、同じビルにはジョージ・ルーカスの映画製作会社も入居している。
彼のヘッジファンド、ベンチャーキャピタルファンドの一つ、ティール財団の拠点もこのビルにあり、彼が6人のパートナーとともに運営しているベンチャーキャピタル会社、ファウンダーズ・ファンドは、近くのビルに入居している。ティールの自宅は、海を見渡すマリーナ地区にあり、オフィスから車で5分だ。彼はハワイのマウイ島にも家を所有している。
ティールはお抱えシェフが用意する朝食に私を招いてくれ、我々はガラス張りの会議室で朝食をともにした。ティールは中背でがっしりした体格だ。46歳の今も自分の体に慣れていないかのようなぎこちない動きをする。
その日はランニングから帰ったばかりだったが、週に2、3回、5~6キロを走る。ハイキングやサーフィンも楽しむ。いでたちはTシャツとチノパン、トレーナーだ。彼は卵の白身だけで作ったホウレンソウ入りのオムレツを食べていた。自分はクレイジーなダイエット中だとぼやき、私が食べていたチーズオムレツ、ベーコンとフルーツに時折うらやましそうな一瞥(いちべつ)を送った。
お互いに自己紹介をした直後、ティールは私に、ここ1年で遭遇した最も面白かったことを3つ挙げてほしいと言った。新しいことを学ぶかもしれないし、私が何を知りたがっているのか理解するきっかけになるかもしれないからだと言う。
次回へつづく。
(執筆:Mick Brown記者、翻訳:飯田雅美)
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