2021/12/24

【コマース超入門】もしもInstagramでショップを開くなら?

NewsPicks Brand Design / Senior Editor
 コロナ禍によってオンラインでの購買体験が日常化し、マーケターや事業者が使えるコマース機能や消費者とのコミュニケーションはどんどん進化している。

 写真共有のSNSアプリとして生まれたInstagramも2020年にコマース機能を拡充し、ひとつのプラットフォーム上で認知から購買までの消費行動がシームレスにつながるようになった。

 今のInstagramではどんな行動変容が起こり、ビジネスで使える機能が実装されているのか。マーケティングの現場から「発見型コマース」の活用法を探る。
INDEX
  • 接客がライブとDMに置き換わった
  • アプリのなかに広がる商圏
  • 消費者は「0.013秒」で判断する
  • 失敗しないビジネスアカウントの始め方

接客がライブとDMに置き換わった

── コロナ禍によってeコマースもSNSの利用時間も伸びています。おふたりから見てInstagramの使われ方にどんな変化がありましたか。
大槻祐依 私自身、外に出かけられなくなった期間で、SNSの滞在時間がとにかく増えました。Instagramでは、ライブ配信が一気に普及しましたよね。
 以前は、ライブ配信やリールに動画を流すことに対する心理的ハードルが高かったと思うんです。配信するなら、きれいなところで映えるようにやらないといけないというプレッシャーがありました。
 けれど、多くの人が使い始めたことで、等身大の生活感を見せやすくなりました。インフルエンサーのライブは日々行われていますし、より自然体に近いコラボ配信が増えています。
 これまでは発見タブで新しいインフルエンサーを知ることが多かったけれど、最近は人柄が表れやすいインスタライブのコラボで興味を持ち、フォローすることが多いですね。
丸山祐子 Instagramのショップ機能を活用しているビジネスアカウントでも、ライブ配信は欠かせないチャネルになりつつあります。新商品の発表をライブで行い、アーカイブ動画に商品タグをつけることでECへの導線をつくるなど、各社がさまざまな工夫をされています。
大槻 商品についてわからないことをライブのチャットやDMで質問することも増えましたね。私がお手伝いしているブランドでも、公式アカウントだけでなく店員さん個人のアカウントへのDMが増えているみたいです。
丸山 消費者としてはリアルでお買い物ができないから、デジタルで情報を取りにいく必要がある。お店で店員さんにアドバイスを求める感覚で使っていただけているんですね。
 企業の皆様もオンラインで商品を知ってもらうためにどうすればよいかと試行錯誤されていて、自社のHPのような感覚でInstagramにショップを開設し、ライブやリールなどの機能を工夫しながら使っていただいています。
 以前はアパレルやコスメなどの中小ビジネスがメインでしたが、東急ハンズさんや大手食料品メーカーさんなど本格的に運用する企業も増え、ショップ機能を利用する企業の事業規模やカテゴリーが多様になってきています。

アプリのなかに広がる商圏

── これまでの実店舗やeコマースと、Instagramのショップ機能の違いはどこにありますか。
大槻 消費者の視点に立つと、私の場合、コロナ以前はやはりオフラインでモノを買うことが多かったんです。いくつかの街にお気に入りのショップがあって、アクセサリーを買うなら渋谷で探すというふうに買い物を楽しんでいました。
 ただ、フィジカルだと行動範囲も限られていて、だいたい同じような街の、いつものショップで選ぶことになる。eコマースが広がってオンラインで買えるモノが増えたことで、選択肢は格段に広がりました。
 そうやってオンラインの買い物が当たり前になると、人それぞれにどこで自分好みのアイテムに出会えるかを探すようになります。よりこだわりのあるものを探したり、選んだりできるプラットフォームのひとつとして、Instagramがあるのだと思います。
Photo: iStock / YakobchukOlena
丸山 おっしゃるとおり、利用者の皆さんはInstagramに好きな写真や動画を見に来るわけですから、明確にほしいものを検索するマーケットプレイスとは目的が異なるんですよね。
 フィード上に流れてきた投稿を見て「これいいな」「ほしいな」と思ったときに、シームレスに商品情報や販売サイトにつながることが、Instagramのショップ機能の特長です。
 先進的な取り組みとしては、米国ではサングラスを試着したり、リップの色を試したりできるようなARエフェクトを提供している企業もあります。それに、Instagramのフィードやショップで商品を理解してもらったうえで、お客様を実店舗に誘導するような使い方も増えています。
── eコマースだけでなくリアルな店舗への導線にもなっているんですね。
丸山 とくに家具などの大きな商品は陳列や在庫が限られますから、どの店舗に行けば現物を見られるのかは購買を検討するうえで重要な情報です。
 まずInstagramで情報を集め、値段やサイズ感などを検討したうえで最終的な購入のために実店舗を訪れることが当たり前になったのも、この数年で広まった大きな変化です。
 情報を発信する企業側も、顧客が求める情報を考慮して投稿する必要性が高まっていると思います。
大槻 そうやって顧客体験をデザインし、一つひとつの投稿をうまく発信できているところは、集客や購買の数字も伸びています。ビジネスを立ち上げる側にとって、おもしろい状況ですよね。
丸山 世の中の流行やオンライン/オフラインの行動が変わり続けるなかで、自社のリソースや得意領域を生かし、柔軟に変化できるブランドは強い。いろいろな業種のお客様のアカウント運用を見ていると、とても勉強になります。

消費者は「0.013秒」で判断する

── 大槻さんがInstagram上に自分のショップを開くとしたら、どんな店をつくりますか。
大槻 個人的には、他のコマースのプラットフォームと比べてコミュニティをつくりやすいのがInstagramのいいところだと思っているので、クチコミなどのUGC(User Generated Content)で熱狂を生み出すようなショップをつくりたいですね。
 以前はフォロワーが特定の数を超えないと投稿にリンクを貼れなかったのが、最近は誰でもリンクスタンプを使ってリンクを貼れるようになりました。熱量の高いフォロワーを集められれば、じわじわとビジネスを成長させやすくなっています。
 フォロワーを熱狂させるための努力を怠らず、ライブ配信やDMを使ったコミュニケーションをコツコツやる。そのうえで、私だったら、ロゴやパッケージにこだわります。
 ブランドを一目で認知できるような引きのあるデザインなら、Instagram上の大量のコンテンツのなかで埋もれません。
 しかも、Instagramは写真だけでなくリールやライブ配信動画などクリエイティブの幅も広げやすいプラットフォーム。いくらインスタ映えが死語になっているとはいえ、写真映えするかどうかという観点は、やはり今でも必要だと思います。
 オフラインでも、特徴的なプロダクトを持っている友人が周りに増えれば、「え、なにそれ?」と気になりますよね。「みんなが持っている」と認知するためにも、まずSNSで目をひくビジュアルを持つことはとても大事だと思います。
大槻祐依氏が2017年に立ち上げた女性向けインスタメディア「Sucle(@sucle_)」には、姉妹メディアを含めて約70万人のフォロワーがいる。
丸山 スマートフォンの普及によって、人の判断時間がどんどん短くなっています。当社が実施した調査によると、画像の情報処理はわずか0.013秒で行われるそうです。
 情報を発信する側としても、読み込まないといけないテキストよりも圧倒的に早く取捨選択されることを意識してビジュアルを制作する必要があります。
大槻 コンマ何秒……おそらく無意識で判断しているんでしょうね。私たちもさまざまな企業のアカウント運用にかかわっていますが、文字の大きさを1.5倍にしたり、差し色に赤を加えたりするだけでリーチ数が大きく変わるのを見てきました。
 バランスを取るのが難しいんですが、Instagramというプラットフォームに即したコンテンツの最適化をせず、自分たちが発信したいクリエイティブを投稿するだけでは数字が伸びない。ブランドの世界観を守りながらどこまで攻められるか、数字を細かく見て判断しています。

失敗しないビジネスアカウントの始め方

── たとえば私がInstagram上でショップを開くとしたら、まず何から始めればよいでしょう。気をつけることはありますか。
丸山 ショップを開くにはビジネスアカウントにする必要がありますが、ストーリーズやライブ配信などコンテンツ作成の機能は、一般の方のアカウントでもビジネスアカウントでも一緒です。
 投稿において気をつけていただきたいのは、フィードにせよリールにせよ、すべての投稿にちゃんと商品タグをつけておきましょうということ。
 1枚の写真に複数の商品が写っているのに1点だけしか商品情報が載っていなかったり、リールに投稿する動画にリンクを貼っていなかったりすると、せっかく商品に興味を持たれてもアクションにつながりません。
ストーリーズや動画、リールなど、Instagram内のタッチポイントは多面的になっている。どの投稿からも商品詳細ページへの導線を貼っておくことがコマース機能を活用するときの基本。
 グローバルに比べると日本の利用者の方はハッシュタグ検索を5倍も使っていて、情報を能動的に取りにいく傾向が強いんです。そこで機会損失しないための受け皿として、ショップページやアカウントのホームに情報をアーカイブしていくことが大事ですね。
大槻 たしかにそうですね。投稿から得られる情報が少ないと、そのアカウントの投稿をわざわざ見なくなります。商品タグをタップしてもその商品の情報がなかったら、このアカウントに自分がほしい情報がないと思ってしまうんですよね。
── 情報量が多すぎてもストレスになりませんか。
大槻 どうでしょうか。私なら、情報が足りないよりも必要な情報が網羅されているほうがありがたいです。
 先ほどの0.013秒で情報を処理するという話にも通じますが、同世代の友だちはたくさんの情報のなかから何がほしいかを判断することに慣れています。逆に、わざわざ調べて探しにいくことは下手になっているかもしれません。
 数年前は当たり前だった「検索して外部サイトに飛ぶ」という1アクションが、今ではかなりストレスになっている。Instagramのなかに必要な情報や機能がすべて揃っていて、ストレスなく情報収集できることがデフォルトになってきたんでしょうね。
丸山 そのあたりの感覚は、アカウントを運用してデータを見るとよくわかります。といっても、ただ情報を増やせばいいわけではなくて、利用者の立場で知りたい情報を、然るべきところに置いておくこと。
撮影:小島マサヒロ
 最初からすべての機能を網羅する必要もないし、毎日コンテンツを出すことだけが正解とも限りません。まずはアカウントをつくり、商品画像を1枚投稿して反応を見てみる。ハードルを下げてできることから始めるのが、感触をつかむための近道です。
── 使いながら覚えていく。それくらいの構え方だと始めやすいですね。
丸山 そうなんですよね。コマースにかかわる企業がいざInstagramを始めようとしても、ライブをやったことがなければいきなりライブショッピングで成功するのは難しい。
 逆に言えば、どんな機能でも使ってみると何かしらの発見があり、積み重ねることで徐々に運用のコツがつかめます。
 1年間悩み抜いて運用を始めたら、新しい機能が出ていたり、利用者の使い方が変化していたりする時代です。そういった変化に柔軟に対応するためにも、自社のブランドや商品のよさを理解している中の人に、できることから軽い気持ちで始めてもらいたいですね。