2021/12/14

【独白】株価、中国、バフェット。伊藤忠CFOが全てを語った

NewsPicks 編集部 記者・編集者
純利益で総合商社トップに立ち、今期は過去最高益を更新する見込みの伊藤忠商事。躍進の立役者の一人と言えるのが、CFO(最高財務責任者)の鉢村剛氏だ。
鉢村がCFOに就任したのは2015年。以来、7年という長期間にわたり、ファイナンスの面から伊藤忠を支えてきた。
純利益を順調に伸ばし、「稼ぐ力」を蓄えてきた伊藤忠だが、そこに至るまでには市場との対話に苦戦してきた面もある。
鉢村は伊藤忠の「稼ぐ力」をどう磨いてきたのか。

成長投資、株主還元、負債の制御

──鉢村さんがCFOに就任された2015年以降、伊藤忠商事は収益力やキャッシュの創出力などが上がってきています。CFOとしてどのようなことを重視していますか。
鉢村 キャッシュフローが大きくなってきてるのは、ボトムライン(純利益)が上がってきているためなので、私がどうこう以前の問題として、会社全体の稼ぐ力が強くなってきているということがまず最初にあります。
2015年のCFO就任以降、私が意識しているのは、どういうかたちで会社が稼いだお金を使っていくのかを明確にすること、会社が順調に育ってきている中で株主還元を充実していくこと、財務体質を安定させることです。
成長投資、株主還元、有利子負債コントロール、この3つのバランスは定量化することが難しいので、できるだけきめ細やかに見ています。
もう1つは、株主還元後の実質フリーキャッシュフローをプラスにするという考え方です。
この2つが大きなそれまでと違う打ち出し方だったと思います。
──伊藤忠はROE(自己資本利益率)が同業他社よりも高い水準にあります。資本を効率よく稼ぐ体制をどう作ってきましたか。
ROEが高いということは、良い意味も悪い意味も両方あります。
財閥系とは異なり、私たちはもともと蓄積された資本が小さいままでいた。つまり、最初の出発点でROEが高かったということです。
まあ、そういった事情はあるものの、海外の投資家に選んでもらうためには、資本効率は無視できません。日本のROEは、世界標準から比べると、どうしてもまだまだ低い。日本は8%と言われてますが、欧米の企業の中心値は13%くらいあります。
株主資本が充実してくればしてくるほど、ROEは低くなっていくトレンドにあります。当社も若干、下がる傾向にあります。
しかし、他社と差別化ができて、市場から評価されるところだから、経営陣としてはROEは落とさずにしっかり維持していく。こういう意識を全社、各カンパニー、各営業の人たちに持ってもらう必要があります。
──商社マンはいわば、各人が投資や事業経営をしているので、その考え方を現場に落とし込む必要がありますよね。どのような工夫をしていますか。
自分たちの事業がどれくらい会社に貢献してるかという意識を、営業の現場の人間が持つことはなかなか難しいんですよね。まず自分が儲かってるか、赤字じゃないよねってことが先に立つと思います。
したがって、まず、自分たちがやっている仕事が全社の中で、あるいはカンパニーの中でどのような位置付けになるのかを理解してもらわなければなりません。
営業担当者の対面には、営業カンパニーの経理の人間や、事業の人間、審査の人間がいます。
(撮影:竹井俊晴)
CFOの私の下には経理部、財務部、統合リスクマネジメント部、そしてIR部の4つの部があり、500人弱の人間を抱えています。伊藤忠単体の社員数は約4200人いますが、僕のセクションが最大級です。
彼らが、国内外の事業会社を含めたさまざまな部署に、網の目を埋めるように入っていって、営業と一体になって仕事をしてます。そして、カンパニーのプレジデントが全体をコントロールしています。
伊藤忠では、ALM委員会でリスクマネジメントやBS分析、経営分析をしているのですが、これは各カンパニーに全部やってもらっていて、各カンパニー内では、各部門・組織がそれをやっています。
そうして、あり姿の部分で、数字を見たときに自分たちが劣っているか、優れているか、経緯がどうなっているのかを理解するようにしてもらってます。
新規の投資については、一律ではなく、各事業体に応じて、ハードルレートを決めています。ハードルレートとは、この分野だったらこれ以上の利益率を上げてもらわないと投資としては損しますよという考え方です。
また、カンパニーの審査チームで、どれくらいの金額までだったら、この会社にはお金をエクスポージャーとして持っていいよとか、こういう決裁手段にしてもいいよということを決めています。そういうやりとりの中で、まず自分たちの位置付けや、何ができるかということがわかってきます。
対外的にはROE13%以上をターゲットにしていますが、個別に見ていくと、実際にはもっとリターンが低い分野もあります。全体を下げないためには、どこか他の部門で稼いでもらわなければなりません。
そういった事業は全体最適ではないので、資産を入れ替えるなり、他でもっと頑張るなりしなければならない。そういう意識を持ってもらうようにしています。

中期経営計画に市場は厳しい評価

──株主還元に力を入れる動きの1つとして、今年は、中期経営計画の最終年度である2023年度までに配当性向30%をコミットメントしました。しかし、伊藤忠は企業理念で「三方よし」をうたいつつ、株主還元に偏重しているようにも見えます。株主還元を重視する時期と、成長投資に振り切る時期、という具合にメリハリをつける企業が海外にはたくさんありますよね。
マーケットとのダイアログ(対話)において、「三方よし」でオールステークホルダーを考える前に、まず株主還元を世間並みにしろという声を結構いただいているんです。
例えば、今年5月に発表した中計は、コロナで先行きを見通しにくい、資源の高騰も長くは続かないだろう、ひょっとしたら景気のスローダウンがあり得るかもしれないという難しい中で、我々自身が変わらなければならないということで、「マーケットイン」と「SDGs」という成長戦略を打ち出しました。
いずれもお金がかかります。だからまず、お金は成長投資に使いたい。当然、株主さんに還元はする、毎年毎年、配当を実額でどんなことがあっても上げていくから、悪いけれどこれで納得してくださいね。財務体質については引き続き頑張ります。
こういうアピールをしたら、あっという間にバッシングを受けて株価が下がりました(図①)。