2021/12/17

【超入門】BtoBスタートアップのASEAN参入5つのポイント

NewsPicks Brand Design / Senior Editor
 バンコク、ジャカルタ、シンガポールを筆頭に、新たなビジネスが圧倒的なスピードで成長するASEAN市場。日系BtoBスタートアップにとって、まさに千載一遇のチャンスが訪れている。
 ASEAN市場のポテンシャルとは何なのか。そして、市場参入のポイントとは。現地事情に詳しいNewsPicksプロピッカーらの分析からは、日系企業の確かな“勝ち筋”が見えてくる。
 本稿では、11月25日に開催されたオンラインイベント「Bigbeat LIVE ASEAN vol.4」より、リスクコンサル・投資家・事業家という3者の視点で、リアルかつタイムリーなASEANを徹底解説した貴重なセッションの模様をダイジェストでお届けする。
INDEX
  • 全世代スマホネイティブのASEAN
  • ASEAN市場への強烈な資金投入
  • “勝ち筋”を見極める3つのポイント
  • 今後“チャンスの領域”で成功するには?
  • 「何もしない」が最大のリスク

全世代スマホネイティブのASEAN

川端 本題の「ASEANでの勝ち筋」に入る前に、ASEANの市場規模の現状について、私から簡単にご説明しましょう。
 以下の図は、日本とASEANにおける中央年齢をWindows 95登場以前のX世代と以後のY世代、スマホネイティブのZ世代で比較したものです。
長谷川 マクロな視点でのASEANの今がよくわかりますね。よく見ると、各国での違いも見えてくるデータです。
川端 ありがとうございます。ここでお伝えしたいASEANの現状は、主に3つあります。
 まずASEANの世界観は、デジタルネイティブなY世代、Z世代が中心にいるということです。
 日本では、一般消費者向けパソコンの普及以前のX世代中心であるのに対して、ASEANはY世代やZ世代のミレニアル世代が中心。パソコンがあるのは当たり前で、ラオスやフィリピンでは、そこを飛び越えて「デバイス=スマホ」の社会です。
 しかも家族主義が色濃く残るASEANでは、3世代同居もまだ一般的。コロナ禍でのECニーズの高まりも後押しして、若い世代が同居する高齢者にスマホの使い方を教えたりするので、全世代的にスマホネイティブな世界観が浸透しています
本セッションは、シンガポールの川端氏と蛯原氏、バンコクからの長谷川氏をオンラインでつないで実施した。
 2つ目のポイントは、“若いアジア”から“老いゆくアジア”へのシフトです。
 先ほどと矛盾するようですが、少子高齢化はASEANにとっても社会課題です。特にタイの中央年齢は、1人当たりGDPが約8倍の米国とほぼ同じ。ベトナムやインドネシアも、実は30歳を超えています。
 国の発展で高所得化が進み、高齢化が始まるのが、いわゆる「先進国モデル」です。しかしASEANの場合、所得が高くなる前から徐々に高齢化が始まっているのが特徴的ですね。
 そして3つ目は、大都市の豊かさです。このグラフの1人当たりGDPは、あくまでも平均値。恐らく今後みなさんが狙うバンコクやジャカルタのような大都市になると、ざっくりこの3倍ほどになります。
 こういった前提を踏まえていただければと思います。

ASEAN市場への強烈な資金投入

川端 こういった現状を踏まえつつ、投資のプロである蛯原さんからASEANのデジタル・エコノミーやイノベーションの現状を教えていただけますか。
蛯原 私がシンガポールが拠点のVCとして感じるのは、世界の潮流と同様にDXが一大ブームとなっていることですね。その背景からお話ししましょう。
 1994年頃、広告とECを主体とするインターネット産業が産声をあげます。
 しかし東南アジアの場合は、2010年から2011年頃なんです。楽天の創業が1997年ですから、この時点では日本とASEANのインターネット産業には、13年ほどの時間軸のズレがありました。
 続いてゲーム産業が花開くと、シンガポールのシーリミテッド(Sea Limited)などが登場します。この会社は創業からたったの11年で、東南アジア諸国の全産業の時価総額トップになってしまいました。
 このような「リープフロッグ現象*」が盛んに起こっているのがASEANです。
*社会インフラが整備されていない新興国において、先進国のような段階を踏まず、最先端の技術が一気に広がること。スマホや電子マネーの普及などがそれにあたる。
川端 確かにASEANでは、非常に短期間でスタートアップが既存の大企業を追い抜き、業界トップに躍り出るケースが多々あります。
蛯原 インターネット産業に限っては、すでに米国のビッグテックと、ASEAN各国のローカルのトッププレーヤーが勝ち組である構図は揺るぎないでしょう。
 そこで今注目すべきは、インターネット産業以外のテックです。2010年半ばから医療や教育、農業、物流、サプライチェーンなど、あらゆる産業でDXが加速度的に進んでいます。
 特にこの5年は、テックでイノベーションを起こすスタートアップが相当数生まれており、なかでも進化のスピードも幅も目覚ましいのがフィンテック領域ですね。
 市場への資金投入も強烈な額になっています。2021年は9月時点でASEANスタートアップの資金調達額が2兆円に到達しました。これは日本市場の年間調達額の4〜5倍以上です。
 また、あらゆる産業の業種業態を問わずSaaS化が進んでいるのも、昨今のトレンドと言えます。

“勝ち筋”を見極める3つのポイント

川端 DXで成長著しいASEAN市場ですが、参入のポイントはどこでしょうか。現地で成功されている日本人事業家の視点から、長谷川さんはどう思われますか?
長谷川 全体像はお二人の話で見えたので、僕からは少し生々しい話もさせてもらえれば(笑)。
 僕が代表を務めるSYNQA(シンカ)は2013年、タイを起点に始まったフィンテックのスタートアップです。電子決済システムなど、ブロックチェーンを活用した金融サービスを提供しています。
 その経験を踏まえて、ASEANで事業を始めるポイントは3つあると思っています。
 1つ目は、経済成長率。自分の狙う産業の成長が、どれだけ事業を引っ張ってくれるかが予測できれば、取るべきマーケットシェアの指標も見えてきます。
 2つ目は本当にその国にニーズがあるのか。川端さんの図にもあったように、一口にASEANと言っても、それぞれの国でGDPや生活様式、言語などがまるで異なります。綿密なマーケットリサーチは欠かせません。
 最後が、“どこで始めるか”です。事業の土壌となる従業員、あるいはターゲットという人的リソースがあるのか。さらに資本はついてくるのか。投資や税金に対する優遇措置も各国で異なります。
 マーケットサイズだけにとらわれない場所の見極めがとても重要です。
蛯原 ご自身が起業する際も、これらを押さえていたんですか?
長谷川 いえ、当時はまだタイムマシン経営*で、マーケットを獲得できる状況でした。
*海外で成功したビジネスモデルやサービスを自国で展開する経営手法。
 しかし2017年頃から、たとえばQRコード決済がシンガポールやタイで統一規格になるなど、ASEANが世界の先を行き始めています。当時の僕のやり方そのままでは、もう通用しないでしょうね。
 だから正直なところ、創業当初はASEANがこんなにおもしろい市場になるとは、思ってもみませんでした。
蛯原 私は、サービス業はローカル産業だと捉えています。外国人起業家が成功するのは非常に難しい。だからこそ、10年後にメインストリームとなる現地スタートアップと今から組んでおくべき、というのが私の持論です。
 しかしSYNQAは、サービス産業でありながらASEANで大成功を収めています。長谷川さんはなぜ勝てたのか。その秘密をぜひ教えてください。
長谷川 1つは、ローカライズの対応力かな、と。
 SYNQAには300人以上の社員がいて、その国籍は37にもわたるダイバーシティを体現する組織です。ボードメンバーも日本人は僕だけで、全員国籍が異なります。
 だからどの国でビジネスを展開しても、その国籍の社員がいるおかげで、現地企業として動きやすいんです。
 もう1つはDXです。実はSYNQAは、今、急速にSaaSモデルにシフトしています。その背景にあるのが、すでにASEANで成功している日系のBtoBハードウェア企業からのニーズです。
 SYNQAはタイの現地法人ですが、彼らから見ると、我々は同じ日系企業。「SaaSモデルを導入したい。やるなら言葉の通じる日系企業がいい。だからSYNQAへ」という流れが成長を加速させました。
蛯原 なるほど。ローカライズで現地の信頼や顧客を勝ち取りながら、日系企業が東アジアで強い製造業やインフラなどの分野の仕事も取っていく。その2軸が強みとなったんですね。

今後“チャンスの領域”で成功するには?

川端 では今後、ASEANで注目すべき分野というと、どこになるのでしょうか?
長谷川 自分たちの決済インフラとしてのデータから見ていくと、まずは医療・ヘルスケア系ですね。ワクチン接種やオンライン診療などで、非常に伸びている。
 我々も、病院向けにワクチン予約から決済まで一気通貫できるソリューションを提供し始めました。あとは保険と、自動栽培などのアグリテックにも注目しています。
川端 投資という中長期のVC視点で見ている蛯原さんはいかがでしょう?
蛯原 中長期の視点でも、ほぼ同じですね。テクノロジーの加速度的な進歩でタイムラグがなくなってきています。
 なかでもヘルスケア全般とフィンテックは、今後も十年単位で続くトレンドでしょう。資金や人が集中し、スタートアップが誕生し続けています。
 SDGsや環境関連も成長が期待できますね。環境後進国であるASEANは、海洋プラチック処理や産業廃棄物の循環、新素材などに強いニーズがあります。
川端 間違いないと思います。すでに成熟した先進国と違って、ASEANは成長とグローバル・スタンダードの環境対策を両立させねばなりません。
 そのギャップを埋めるテクノロジーやイノベーションとして、日系企業から提示できるソリューションはまだまだあるはずです。
川端 また、こうしたチャンスを成功につなげるには、情報収集がカギを握ります。いかに最新で正確な現地の情報を手に入れられるか。そこにかかっているとも言えるでしょう。
 実は先日、ASEANに赴任する日本の方々のサポートを目的に「JSIP(ジェイシップ:Japan Sea Innovation Platform)」というプラットフォームが設立されました。私も有志メンバーとして関わっています。
 日系企業のイノベーションや新規事業で事業立ち上げの速度を上げ、JSIP内でシナジーも生まれていくと思うので、ぜひ活用いただきたいです。
「日本と東南アジアをつなぐイノベーションの社会インフラ」を掲げるJSIP。在シンガポールの有志メンバーが、プロボノ(社会貢献を行うボランティア活動)でサポートを行っているという。

「何もしない」が最大のリスク

川端 チャンスがあれば当然リスクもある。最後に、そこにも触れておきましょう。
 リスク回避には企業調査が有効ですが、新興分野は若い企業が多く、投資実績などが非常に見えにくいんですね。そういう企業ともビジネスをせざるを得ない時代になりつつあります。
 ではどうするか。私たちKrollの場合は、経営者の人となりを重視します。メディア情報や人的ネットワークに加えて、過去に所属していた企業や元従業員からの評判といった情報は、リスクコントロールに大きく役立ちます。
蛯原 投資の視点ではカントリーリスク*もありますが、スタートアップや新規事業はそもそも値動きが相当激しいものです。
*投資対象の国や地域の政治・経済の変化に起因して、損失を被る可能性
 前提として失敗する可能性が高いのなら、とにかく手数と手段を増やすほかないでしょう。1兆円の買収もあれば、スタートアップ、ジョイントベンチャーの出資もやる。分散こそが、リスク回避につながります。
 逆に、これだけ勃興するASEANで一番のリスクは「やらないこと」です。
川端 確かに、これから伸びるとわかっているのに、みすみす逃すことこそが最大のリスクですね。
長谷川 事業サイドのリスクは規制の面ですね。税制など法律がコロコロ変更されるので、軌道に乗ったビジネスを閉めざるを得なくなったりもします。雇用のリスクとして、優秀な人材の争奪戦も覚悟しなくてはなりません。
川端 経歴書だけでは見抜けないこともあるので、重要なポジションの現地雇用は特に注意が必要ですね。
川端 本日はASEANでの勝ち筋を議論してきましたが、過去よりも先をどう見ていくかが重要だと、お二人の話から再認識しました。最後に、みなさんへのアドバイスをお願いします。
蛯原 ぜひASEAN市場に参入してください、ですね。特にBtoBのSaaSは、日系企業の優れたオペレーションやきめ細かな顧客対応が大きな強みとなるので、非常に狙い目です。
長谷川 先ほど蛯原さんが言われた「やらないことがリスク」は、僕からも改めて日本のみなさんに伝えたいですね。
 7億人もの人口を抱えるASEANで、日系企業には工業分野で先人が培ってきたアドバンテージがあります。そこにレバレッジを効かせて、さらに成長できる可能性が広がっています。あとはこちらに来て、実行あるのみです。