2021/12/13

【テレビ×デジタル】ネット時代のニュースは何を伝えるか

NewsPicks Brand Design / Senior Editor
ネットニュースやSNSの登場により、これまでマスメディアが伝えてきた“ニュースの価値”が変わりつつある。

『報道特集』をはじめ、硬派な取材姿勢で「報道のTBS」と呼ばれてきたTBSテレビでも例外ではない。

情報過多の時代において、TBSの報道は何が変わり、何を変えずに貫いているのか。地上波放送とデジタル、それぞれの報道の現場で奔走するキーパーソンたちに聞いた。
INDEX
  • 地上波とデジタルで異なる“流儀”
  • 削ぎ落とされた中に“鉱脈”がある
  • 既に報じられたことは、「ニュース」ではない
  • 報道の「公平性」と「メッセージ性」
  • 2部9時間で、2021年の捉え方が変わる『報道の日』

地上波とデジタルで異なる“流儀”

──お二人が所属する「報道局デジタル編集部」は、どのような取り組みをされているのでしょうか。
河村 Yahoo!ニュースやSmartNews、グノシーなどの国内ニュースサイトへの外販をはじめ、各SNSへの地上波ニュースやオリジナルコンテンツの配信を行っています。
 テレビでは届かない層に向けて、「TBS NEWS」のコンテンツをどれだけリーチさせられるかが、デジタル編集部の大きなミッションです。
志田 チームは大きく3つに分かれており、ネットへの配信を担当するチームと、オリジナルコンテンツの制作チーム、そしてCS放送チームも含まれています。
 デジタル編集部自体は1998年に立ち上げられていますが、外販やSNS配信に本格的に取り組み始めたのは、ここ3〜4年といったところでしょうか。
1999年に開設されたTBS NEWSのサイトは、日本で初めてインターネットによるニュース動画配信をスタートした。
──デジタル技術の発展は、報道取材の現場にも変化をもたらしていますか?
河村 災害報道や事件報道は大きく変わりましたね。台風中継や事件事故の現場でも、最低限スマホ1つあれば情報や映像を伝えられるようになりました。
 スマホのGPS機能も、今では欠かせません。複数の取材チームが現場に向かうような大きな災害の発生時には位置情報を共有し、安全かつ適切にチームを配置するようにしています。
 電話やメールしか連絡手段がなかった時代に比べれば、格段に進化を感じますね。
──一般の方がスマホで撮影した映像がニュースで使われるのも、当たり前になりましたね。
河村 そうですね。いくら現場に記者やカメラを出しているとはいえ、事件の発生現場に毎回居合わせることは不可能です。いかに一般の方にご協力いただいて放送に結びつけるかも、重要なタスクとなっています。
 ただし、承諾を得て映像を提供いただいて終わりではありません。SNSにアップされた映像は、まったく別の日に撮られたものだったり、無断転載だったりするケースも少なくない。必ず投稿者にコンタクトを取り、綿密な確認が必要です。
 こうした場合にも、丁寧な取材とコミュニケーションを心がけています。
──TBS NEWSは現在YouTubeやTwitter、TikTokなどの多岐にわたるチャネルで発信されています。地上波との違いをどんなところで感じますか?
河村 メディアごとに“流儀”があると感じます。たとえばTikTokなら、スピード感。地上波では、ゆっくり丁寧に聞かせるナレーションが前提ですが、TikTokは頭の数秒が勝負ですから。
 視聴者層や離脱される箇所など、データも細かく可視化されるので発見も多いです。実は、この夏に実施した終戦特番には、若い世代から大きな反響があったんですよ。
 若年層は新型コロナ関連の情報よりも、学校の不祥事などの“自分ごと化”できるニュースに関心が強い。恐らく戦争当時の同世代の姿に共感し、響いたのではないかな、と。
──メディアごとに報道のあり方も変わるのですね。
 もちろん報道の柱である、速報性と正確性の担保は大前提です。でも、テレビと同じ情報を同じ順番で一方的に届ければいいかといえば、そうではありません
 地上波では難しい90分の特派員ライブレポートをYouTubeで配信したり、ニュースのラインナップの中からTikTokで反応のあるものをトップに選んだり、媒体特性を考えながら日々ニュースの届け方を模索しています。

削ぎ落とされた中に“鉱脈”がある

──地上波には視聴率という指標がありますが、デジタル編集部では、どういったKPIを設定しているのでしょうか?
志田 大きく分けて、マネタイズゴールと非マネタイズゴールの2つがあります。
 このうち非マネタイズゴールは、認知向上やブランディングを目的に、さらに各プラットフォームの番組シリーズごとにKPIを設けています。高評価率や、男女の視聴割合といった数値目標を掲げて、日々制作に向き合っている状況です。
河村 幅広い世代に向けて届けている地上波に対し、デジタルではある程度ターゲットを絞って深掘りしたほうがいい場合もあると感じています。
 マスに向けた発信を磨いてきたテレビ局として、そこはまだまだ苦手な分野かもしれませんね。
──デジタル編集部の目からは、地上波の存在感はどのように映っていますか?
志田 “テレビ離れ”ともいわれますが、地上波のリーチ力の大きさを感じることがまだまだ多いですね。
 情報提供を求める場合でも、SNSでの告知ではそれほど集まらなかったものが、地上波で15秒スポットCMを流しただけでワッと情報が来ますから。
河村 地上波のニュースは、現場にかなりの人数を割いていますし、海外に支局員もたくさんいます。たった3分前に起きたことでも、すぐニュースとして出す体制が整っている。大人たちが大勢しゃかりきになって、膨大な作業を分担しているわけです。
 こうした体制は一朝一夕では作れません。たとえテレビ離れが起こっていようとも、地上波で培った技術は大切にしなくてはいけない。
 みんなで汗をかいて形にしているニュースを、デジタルに最適化し、ちゃんと届けなくてはと、ずっと考えていますね。
──この先、地上波とデジタルが融合することで、どんな報道が実現するのでしょうか。
河村 現在ネットに配信しているコンテンツは、8割以上が地上波のものです。ただここで、「地上波ニュース」という固定観念を一度崩してみたいんですよ。
 地上波ニュースは、作り手の感情や温度感までを伝える機会はどうしても限られています。でも、現場に出た記者やカメラマンは、彼らにしかできない体験を持ち帰っています。
 その体験をサイドストーリーとしてデジタルで配信できたら、彼らの“横顔”が見えるコンテンツになるのではと思うんです。その横顔が伝われば、TBS NEWSのファンになってもらえる方がいるのではないかな、と。
志田 限られた放送時間内で網羅的に情報を伝える地上波は、どうしても個々のニュースに割く時間が短くなりがちです。そこで、デジタルでは同じニュースを長尺で掘り下げるのも一手かなと思っています。
 現在YouTubeでは、20~30分ほどの現場記者によるVlog風レポートを配信しています。災害現場や紛争地域からのレポートは視聴数も多く、デジタルならではのポテンシャルを感じているところです。
 さらにTBSには、これまで先輩方が撮りためてきた膨大なアーカイブもあります。これらの財産を活用すれば、まだまだおもしろいことができそうですね。
河村 これまで放送の尺の都合で、地上波ニュースから削ぎ落とされてきた部分があります。そこに、まだまだコンテンツの鉱脈が眠っているはずです。
 同世代でもテレビ離れが進んでいるのを実感していますが、だからこそ「テレビってダサくないよ!」と、胸を張って紹介できるコンテンツを作れたらと思います。

既に報じられたことは、「ニュース」ではない

──曺さんが編集長を務める『報道特集』をはじめ、TBSは問題の核心に迫る現場主義から「報道のTBS」と呼ばれてきました。その原点はどこにあるのでしょうか。
 私が諸先輩方を代弁するのは恐れ多いのですが、一人ひとりが責任と誇りを持って報道に前向きに取り組んできた、その歴史があってこその「報道のTBS」なのだと思います。
 2020年10月で40周年を迎えた『報道特集』は、もともと米CBSの調査報道番組「60 Minutes」をモデルに企画された番組です。独自の取材で問題を掘り当て、真実を明らかにしていく。そんな調査報道の伝統がそこから始まっていると感じます。
写真左より『報道特集』初代キャスターの田畑光永氏、北代淳二氏、料治直矢氏、小島康臣氏。
 一方で、今は誰もがニュースを発信できる時代になりました。他社と同じニュースを横並びで追えば、「誰が1秒でも早く出せるか」というスピード競争に終始してしまうでしょう。
 でも、ニュース(News)はその語源の通り、新しいもの(new)の集合体であるべきです。既に報じられていることは、「ニュース」ではない。多メディアの時代であれば、なおさら誰も扱っていないニュースに価値が生まれます
 今こそ伝統と歴史に裏打ちされた調査報道が求められていると、報道局もさらに力を入れているところです。
──40年という歴史のなか、ネットの登場で番組作りに変化が起きた部分はありますか?
 SNSを通じた情報提供は増えていますね。もちろん、情報提供者のファクトチェックは従来通り行いますが、取材ソースは格段に広がった実感があります。
 たとえば、今年はオリンピックの費用に関する問題を8回ほど放送したんです。回を重ねるごとに、運営に深く関わる方から「こんな問題もある」という情報が集まってきました。記者の人脈から情報を得ていた時代からすると、だいぶ変化を感じます。
──最近ではネット上で告発が行われる場合もあります。なぜTBSに情報が集まるのでしょうか。
 報じ続けてきたことが、情報提供者の信頼につながっているのではないでしょうか。
 確たる秘密を知る方々は、決死の覚悟で内情を伝えようとします。社会に対する影響力と、取材源の徹底した保護、そして「必ず報じてくれるはず」という信頼を伴ってこそ、情報が集まります
 長年の調査報道で築いた「報道のTBS」というブランド力は、今後も大切にしていかなければなりませんね。

報道の「公平性」と「メッセージ性」

──逆に、ネットの登場で難しさを感じるところはありますか?
 地上波を選ぶプライオリティが下がっていることは実感しています。
 私の家族も日常生活ではほとんど地上波以外のコンテンツを見ていますし、両親さえYouTubeの報道番組を見ているんですよ。
──親世代もYouTubeを見ているとは驚きです。
 ネットメディアは視聴者のニーズに特化できるので、ニッチなテーマを深掘りするのに向いているんですよね。
 一方でマスメディアは、できるだけ多くの視聴者が興味を持つ公共性の高い問題が優先されるので、その競争になるとどうしても厳しい。ライバルは地上波だけではないことは、番組作りでも強く意識しています。
──SNSの反応もチェックされますか?
 放送中はずっとTwitterのトレンドをチェックしていますよ(笑)。ただSNSではすごく盛り上がっていても、視聴率に結びつかないこともある。肌感覚としては、あまり連動していない気がしています。
 だからこそ今、報道番組を普段見ない人、関心のない層に訴求する施策として、SNSの活用法を探っています。
──SNSではマスメディアが「偏向報道」と批判されることも少なくありません。公平性を保ちながら対象に切り込む難しさを、どう感じられていますか。
 ネットを通じて多様な情報が提示される世の中になったからこそ、ニュースの報じ方に表れるメッセージ性を嫌う方も増えていると感じます。
 ですが情報があふれる時代だからこそ、自分の番組に、自分のニュースにどんなメッセージ性を込めるのかを明確に持っていたい。そうでなければ、ワンオブゼムになってしまうでしょう。
 もちろん、多様な選択肢を示す番組作りも1つのスタイルです。でも私が手掛ける『報道特集』や『報道の日』では、みなさんにお伝えしたいものを、覚悟を持って放送しています。

2部9時間で、2021年の捉え方が変わる『報道の日』

──年末の『報道の日』は、「報道のTBS」が総力をあげて作る報道特番です。12月19日に放送予定の今回は、どんな内容になるのでしょうか。
 今回は全面リニューアルが行われ、2部構成で合計9時間の大型特番になります。
 第1部は「コロナ×五輪×日本」をテーマに、2021年をさまざまな角度から検証する生放送パートです。みなさんがこの1年で触れてきたさまざまなニュースを、もう一度新たな視点で振り返ります
 第2部が、今回初めてのチャレンジになるパートです。2000年以降に起きた重大事件の裏側を、記者の「極秘メモ」をもとに映像化。TBSをキー局とするJNNネットワーク28社の総勢1300人の記者から情報収集をしています。
 私がプロデューサーを務める第1部でも、JNN各局のディレクターが番組制作に深く関わっています。地域医療の現状など、地方局の強みやつながりを生かして取材を重ねているので、情報の厚みが違いますね。
──さまざまな報道番組に携わってきた曺さんにとって、『報道の日』はどんな番組なのでしょうか。
 作り手として、とても高いハードルを越えねばならない番組です。『報道の日』は今年起こった事象だけを捉えるのではなく、時代をさかのぼり、「なぜそれが起きたか?」までも掘り下げるからです。
 取材に深みを出すために、ディレクターは制作以前から勉強しています。今年は5月頭から企画会議を始め、秋から本格的に取材をスタート。放送直前まで編集作業を続けていると思います。
──なぜこれだけのリソースをかけ、毎年長時間にわたって放送時間を割けるのでしょうか。
 やはり、そこがTBSの伝統だからでしょうか。
 ドラマやバラエティと違い、報道は二次利用によるビジネスが期待できません。それでもコストをかけて報道を守れるかは、会社の姿勢によるところが大きいでしょう
 現場の人間もそうした姿勢は感じ取っており、自らの仕事で期待に応えています。その精神が脈々と受け継がれてきた結果が、「報道のTBS」というブランドであり、今築かれている“伝統”なのだと思います。
──最後に、『報道の日』を制作するうえで、最も大切にしていることを教えてください。
 やはり「視聴者の方々が知らないことをお伝えする」に尽きますね。
 特に第1部のテーマは、視聴者のみなさんがこの1年で実際に体験した出来事です。コロナも五輪も、まだ記憶が生々しく残っていることでしょう。
 その裏で起こっていた出来事や、隠されていた事実を掘り当てて、どこまでみなさんを驚かせられるかが勝負です。2021年の捉え方が少し変わる、そんな番組にできたらと思っています。