An USB key with the logo of Netflix the American provider of on-demand Internet streaming media is seen  in Paris

映画館と同時リリース

オンライン動画配信のネットフリックスと独立系映画会社ワインスタイン・カンパニーは9月29日、「グリーン・デスティニー」の続編をネットフリックスとIMAX(アイマックス)シアターの一部で世界同時公開すると発表した。主要な映画がネットフリックスと映画館で同時リリースされるのは初めてのことだ。

来年8月28日にアカデミー賞を受賞したアン・リー監督の武侠映画の続編が公開されるが、ネットフリックスの加入者は追加料金を支払わずに映画を鑑賞できる。その後もネットフリックスはこうした共同製作の映画を数本リリースする予定がある。上映はIMAXシアター限定で、ほかの映画館チェーンでは公開されない。

ネットフリックスの最高コンテンツ責任者、テッド・サランドスは、「まず映画館でリリースし、数か月後にストリーミング配信をするという手法を変える時がきたと、ハリウッドには理解してほしい」と述べた。サランドスは、「空は落ちてこないということを証明したい。アメフトの試合を競技場で観戦したり、テレビで観戦するのと同じで、二つの異なった体験だ」と語る。

ハリウッドのビジネスモデルに殴り込み

この動きは、伝統的な映画上映のシステムを突き崩そうとするネットフリックスの熱い思いを示している。すでにテレビ番組は従来のネットワーク局で放送された直後にストリーミング配信されるようになった。ネットフリックスはまったく新しいモデルも導入し、「ハウス・オブ・カード 野望の階段」や「Orange Is the New Black」(原題)などのオリジナルのシリーズを一挙に公開している。

BTIGリサーチのメディアアナリスト、リッチ・グリーンフィールドは次のように語る。

「我々は、映画業界のビジネスモデルの中心にあるウィンドウイング(同じコンテンツを画面の大きさが異なるメディアに対して供給時期をずらし、価格を変えて供給する)システムを攻撃するためにはアウトサイダーが必要だと考えている。ネットフリックスはすでにテレビビジネスを大きく変えた。次は映画ビジネスだ」

しかし、今回の合意は、映画業界の壁を打ち破るのが難しいことも示している。「グリーン・デスティニー(原題「Crouching Tiger, Hidden Dragon: The Green Destiny」)を製作したのは、大手映画製作会社ではなく、独立系のワインスタイン・カンパニーだ。予算も比較的低いものだった。

今回の合意は、IMAXが、ハリウッドの新作公開が小休止する閑散期に上映する映画探しに苦戦をしていることも反映している。8月末というのは映画業界にとってはブラックホールのようなものだ。新学年開始前のさまざまな活動や夏休みの最後の旅行と重ならないように大手映画製作会社が公開を控える時期である。

立ちはだかる大手映画館チェーンの壁

米国ではリーガル・エンターテインメント、AMCエンターテインメント、シネマークの3つの映画館チェーンが映画館の過半数を経営している。これらのチェーンは 映画を独占的に上映できる期間が短縮されることに強く反対してきた。そうなれば、消費者が映画館に行かなくなるというのが理由だ。現行の契約のもとでは、映画館は3カ月間の独占上映が認められている。

ただ実際には、国内の興行収入が減少する中で、大手映画製作会社も人気上昇中のビデオ・オン・デマンド(VOD)システムで映画を公開したいと考えている。

すでに実験に乗り出しており、今年2月には、ワーナーブラザーズが、「ヴェロニカ・マーズ」のDVDを270の劇場公開と同じ日にリリースした。ただし、リーガルとシネマークが上映を拒否したため、映画館の選択肢は限られた。AMCはチケット販売の収入を分配する従来の方法ではなく、ワーナーが全米の映画館を借り上げることを条件に上映を認めた。

オリジナルの映画製作に進出

IMAXとネットフリックス、ワインスタイン・カンパニーもワーナーと同じような妥協策を見出した。IMAXシアターの多くは三大チェーンが所有するマルチプレックスシアターの中に入っているが、上映する映画の決定権はIMAXにある。

ネットフリックスはかねてからオリジナルの映画製作に参入したいと考えており、ワインスタインとマルコ・ポーロを題材にした歴史冒険シリーズなど、いくつかのプロジェクトで協力してきた。このシリーズはネットフリックスが独占的に配信する予定だ。このプロジェクトは、サランドスとワインスタインの会話がきっかけで始まった。

「グリーン・デスティニー」はアートシアター系の映画で、2000年の製作費は2350万ドル(インフレ調整後)だった。中国語で英語の字幕付きの同作品は武術に関心がある観客を惹きつけ、アカデミー賞10部門にノミネートされ、外国語映画賞を含む4部門で受賞した。この映画によって台湾出身のアン・リー監督は一躍ハリウッドの寵児になった。

アートシアター系の映画だったにもかかわらず、「グリーン・デスティニー」は超大作のような扱いを受けた。IMAXが続編に関心を持っているのはこのためだ。この映画で、ソニー・ピクチャーズ・クラシックスは2000年に北米で1億7680万ドル(インフレ調整後)を稼いだ。米国内の興行収入は、中国語の映画としては過去最高だった。消息筋によると、続編の予算は2000年のオリジナルの数倍に上るという。

続編では、ミシェル・ヨーが再びユー・シューリン役を演じるが、メガホンをとるのは中国の著名な監督、ユエン・ウーピンだ。続編は前作の20年後の設定で、秘剣・碧名剣(グリーン・デスティニー)を守ろうとする4人のヒーローの活躍を描く。

第一作が大ヒットしたからと言って、続編が同じようにヒットするとは限らない。独立系映画の人気が退潮傾向にあるのに加え、オリジナルからかなり時間が経って作られる続編はあまり成功しないことが多い。

しかし、ワインスタイン・カンパニーの新作が続編以上のクオリティであり、見逃せない映画だと観客を説得できれば、こうした課題を克服できるだろう。あるインタビューで、ワインスタインの共同会長、ハービー・ワインスタインは、映画産業は映画配給の新たな方法を模索する必要があるとしてこう述べている。

「世界は大きい。そしてものを見せるのには多くの方法がある。これは未来の波なのだ」

(執筆:EMILY STEEL、BROOKS BARNES 記者、翻訳:飯田雅美、写真:ロイター/アフロ)

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