南場智子の前で「KY宣言」
私が、DeNAに「iemo」を売った理由
2014/10/2
ディー・エヌ・エーは10月1日、住まいやインテリアに特化したキュレーションメディア「iemo」を運営するiemoと、女性向けのファッション・キュレーションメディア「MERY」を展開するペロリを買収。両社の株式を総額約50億円で100%取得し、完全子会社化すると発表した。
これに伴い、iemo代表取締役の村田マリ氏はディー・エヌ・エーの執行役員に就任、引き続きiemoの運営を続ける。さらに、ディー・エヌ・エーは村田氏らのリードにより、新たなキュレーション・プラットフォーム事業を運営していく計画もあるという。なぜ、今、キュレーションやバイラルメディアは買収で高値が付くほど評価が高いのか? はたまた、ディー・エヌ・エーやiemoの狙いは? 渦中の村田マリ氏を直撃した。
「iemo」と「MERY」買収総額50億円は高い?
——「iemo」と「MERY」の2社の買収金額が合計50億円とは率直に言って、高くないですか?
えっ、高い? 高くないと思いますよ(笑)。なんでかって、「iemo」と「MERY」の両方とも、トラフィックもユーザー数も右肩上がりで伸びていて、さらにより成長するのは時間の問題だから。
しかもこの2社は、滅茶苦茶シナジーするんですね。サービスの構造設計がとても似ているし、ユーザーの90%は女性でスマホユーザーだという属性も同じ。しかも、「iemo」の場合、毎日このサービスを見に来てくれるユーザーが50%以上、週2~3回の人も25%もいるすごくスティッキーなメディアなんです。
「MERY」のファッションコンテンツもおしゃれな大学生達が「書きたい」と本気で書いて、その子がまた友達のおしゃれな子を呼んで、キュレーターが増えるスパイラルができている。
つまり、「iemo」が考えている将来展望と「MERY」のそれが同じ骨格で、集客の構造も完全に一緒。さらに、産業の構造を変えたい思いも同じ。ただでさえ上手く言っているメディアが、完全に構造や強みをマージさせるのですから、ものすごいスピードで成長できる可能性が高い。さらに、ディー・エヌ・エーは、我々のやっているサービスを、さらに横軸で展開していきます。しかも、両者のノウハウやシステムをうまく利用して行うので、垂直に立ち上がります。だから決して、高い買い物だとは思いません。
——キュレーションサービスを各分野で横展開していくという意味ですか?
「iemo」は不動産のマッチングのプラットフォームになりたいんです。我々はメディアを目指しているのでは、ありません。
——不動産のマッチングですか? これまでも、大手情報会社が運営する不動産紹介メディアはありますよね?
今、不動産の購入を考えている世代って、みんな忙しいですよね? ですから、PCを立ち上げてガッツリ不動産情報を調べる時間がありません。移動しているときに、スマホを見ながら情報を取っています。そんな人たちに不動産情報を提供しながら、スマホで契約が取れれば便利だな、と。
それに、大手情報会社は掲載料を払える体力のある大手不動産しか相手にしませんし、だからこそ消費者もそういう会社にしかアクセスできなかった。でも、掲載料が無料のプラットフォームがあれば、我々は個人の建築家やインテリアデザイナーなど小さな事業者さんもユーザーにおすすめできます。
それに、我々はユーザーが見ている記事の傾向をログで取れるので、不動産関連事業者の得意領域やテイストとマッチングしやすい。たとえば、北欧テイストのインテリアの記事を読んでいる人に、アルゴリズムを使って、木のぬくもりを大事にする建築家の情報をリコメンデーションするとか、ね。
つまり、我々が目指すのは、Cto“スモールB”。個人の建築家など非常にCに近いBと消費者が出会う仕組みを作りたいんです。
——マネタイズの方法は?
現在は、食器メーカーや大手の家具メーカー、イケアなどのネイティブ広告を数多く出稿して頂いています。そして、今年の11月以降、不動産マッチングサービスが始まったら、CtoスモールBの間で成約が発生した時点でスモールB側から手数料をいただく予定です。
IPOには興味なし、欲しいのは人材とデータ解析
——そして、ディー・エヌ・エーは、マネタイズ手法を含めたその仕組みを横展開するということですね。展開が考えられる領域とは?
具体的には言えませんが、ライフスタイル系ですね。
——「iemo」が、ディー・エヌ・エーの傘下に入った理由について教えてください。
ミクロの話で言うと、ディー・エヌ・エーにはスマホやフィーチャーフォンのマーケティングノウハウがある。どうやってユーザーを集め、どう閲覧するかについて、データを分析し、実際のサービスに落として、PCDAサイクルを回すことを、ずっとやり続けてきたトップ企業なんですね。我々は、そのマーケティングノウハウが欲しかった。
さらに、もうちょっと広げた話を言うと、ディー・エヌ・エーは資金面と人材面の提案がすごく良かった。
——人材面の提案とは?
優秀なエンジニアは、給料も良くない上にいつ飛ぶかもわからないベンチャーになんて、わざわざ来ないじゃないですか。だから我々はいつも採用に苦戦していたんです。そこを、ディー・エヌ・エーが出向者で補ってくれるのは魅力でした。
ウチ、買収時は8人の会社だったんですが、今日で20人は超えましたからね。エンジニアやデータ解析の専門家を、10人以上送り込んでもらっています。
——11月から開始予定の「不動産マッチング」では、村田さんが言うところのスモールBに営業する人材も必要になりますよね?
ええ。そこに対してもディー・エヌ・エーは協力的で、営業のやり方自体を考えられるくらい上の人を出してくださるようです。
——ディー・エヌ・エー以外の会社からのアプローチもありましたか?
ええ。IPOを狙いませんか?というアプローチなどもありましたが、私、IPOにはあまり興味がなくって。というのも、iemoのサービスは、事業として成功させるのに3年から5年の期間を要する長期戦。それを実現させようとしている最中、会社を上場させるために、監査法人や証券会社の人と話をしたり、株主に右肩あがりの業績や予定調和な事業計画を求められるのはしんどい。これを一切排除して、サービスの向上に200%の力が使えるのなら、私は断然後者を選びます。
——村田さんは、2012年1月にソーシャルゲーム事業をgumiに譲渡し、日本の女性シリアルアントレプレナーの草分けという人もいます。iemoの運営が落ち着いたら、またすぐディー・エヌ・エーを辞めて起業するのでは?という声もありますが。
確かに私は事業の立ち上げが好きです。でも、そればっかりじゃ食っていけないなあと思って(笑)。スタートアップとか中小企業を続けていても、社会的にインパクトのあるサービスが作れるかというと自分の中で疑問が残るし、大きな勝負をしたいとき、たとえばCMとか億単位のコストを使うのもIPOをしない限り無理ですよね。
私がそう悩んでいた時、一方で、ディー・エヌ・エーは、今後の長期的な成長を見据えて、主軸のソーシャルゲームに加えて新規事業を模索しなくてはいけない課題を抱えていた。しかも、産業構造を変えるようなインパクトがあり、なおかつ事業価値が高い事業をやりたいと。
そして、まさにそんな事業がやりたいと思っていた私と、タイミング的にもドンピシャだったんですね。だから、決断もすごく早かったですね。
——どのくらい早かったのですか?
だって、買収の話が始まったのが今年の7月ですから。
——これから村田さんは、ディー・エヌ・エーの執行役員になります。そうなると、iemoの運営以外に、本体の経営にも携わるのでしょうか?
iemoの運営とマネタイズに注力しながらも、一部上場企業の新しい事業や会社の今後を端くれでも考えさせていただける余地をもらったことは、自分のキャリアや人生にとって、とってもいいことだと思っています。
——長年、女性起業家・女性社長としてイチ組織をリードしてきた人が、大組織の中で上司がいる身になることへの違和感はありませんでしたか?
それがないんです、今のところ、ね(笑)。ありがたいことに、ディー・エヌ・エーは、素の私を受け入れてくれていますし。今日も、私、役員会で挨拶するとき、こう言っちゃったんです。
——なんて言ったんですか?
「私、空気読みませんから」って(笑)。言いたいことを好きに提案するつもりですから。そうしたら南場智子さんが、「いいね! そうこなくっちゃ」と言ってくださって嬉しかったですね。
——しかも、村田さんは、息子さんの教育のためにシンガポールに住んでいますね。リモートでのマネジメントに障害は感じませんか?
全然。iemo立ち上げの時から、月1回、東京に来て後はシンガポールでリモートマネジメントというスタイルですし、経営会議はディー・エヌ・エーのシンガポール支社に行き、ビデオ会議で参加する予定ですので、何ら問題を感じていません。
明日公開の後編では、「キュレーション、バイラルメディアの今後」そして「次に流行るサービス」について、村田さんに話を聞きます。
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