2021/11/28

【解説】米中「新エネルギー競争」で遅れたアメリカの大失策

INDEX
  • 世界最大級のコバルト鉱山の行方
  • 長年の投資が無に帰す
  • 聞き入れられなかった警告
  • アメリカの隙を突いた中国
  • コンゴとアメリカの蜜月時代
  • 巨額を投じた「つなぎとめ」作戦
  • 20年間の「空白期間」
  • 再燃する鉱山プロジェクト
  • 投資の失敗で状況が一変
  • 繰り返された「同じ過ち」

世界最大級のコバルト鉱山の行方

トム・ペリエッロもアンドレ・カパンガも、その事態を予測していたのに阻止できなかった。
緊急のメール、電話や個人的な嘆願が寄せられていたにもかかわらず、彼らは中国政府の支援を受けた企業が、世界最大級のコバルト鉱山の所有権をアメリカから奪っていくのを、なすすべもなく見守ることしかできなかった。
それは2016年のことだった。アリゾナ州に拠点を置く大手鉱山会社フリーポート・マクモラン(Freeport McMoRan)が、コンゴにある鉱山の権益を中国企業に売却することで合意。中国がコバルトの世界的な供給量のかなりの割合を握ることになった。
コバルトは電気自動車のバッテリーの生産に不可欠な原材料のひとつであり、脱エンジンや脱化石燃料を実現する上できわめて重要な素材でもある。
当時アフリカ担当の米特使だったペリエッロは、この取引について米国務省に警告を発していた。同鉱山のコンゴ側の責任者だったカパンガは、取引に介入するようペリエッロに「懇願」していた。
「これは間違いだ」とカパンガはペリエッロに警告。アメリカは、世界のコバルト産出量の3分の2以上を占めるコンゴとの間の、何世代にもわたって続いてきた関係を壊すことになると訴えた。
中国企業、洛陽モリブデンが買収したコンゴのキサンフ鉱山(Ashley Gilbertson/The New York Times)

長年の投資が無に帰す