竹中平蔵が今後10年の日本経済を語る(後編)

東京オリンピックこそ、日本の最大のチャンスだ

2014/10/1
2000年代に小泉政権の中枢で、日本の財政・金融政策を動かしてきた竹中平蔵氏。現在もオピニオンリーダーとして様々な経済改革を唱え続けている。今回、そんな竹中氏に10年前を振り返ってもらい、現在の日本経済が当時の予測と比較して、どこが良くなり、どこが悪くなったのか。また、現在の日本経済が抱える問題点、中でも大きな問題となってくる財政赤字の今後、そして、6年後に迫った東京オリンピックが日本社会をどう変えるのかについて聞いた。
インタビュー前編 日本の財政再建に潜む、2つの重大欠陥

――日本経済はかつて“失われた10年”を経験しました。もしかしたら、今後10年もじりじり動いているのが日本の姿かもしれません。もう明るい未来は訪れないのでしょうか。

竹中 私は次のように考えています。過去10年間は“失われた10年”ではなく、“まだらな10年”だった。良くなった面、悪くなった面の両方があるからです。私は失われた10年という言い方には不賛成です。では、今後10年がどうなるかといえば、もっとまだらな10年になると思います。理由は東京オリンピックがあるからです。

オリンピックは間違いなく日本社会を変えます。ものすごいチャンスがある。例えば、青山通りはオリンピックのときにできたものです。競技場同士を結ぶためにつくり、道路幅も22メートルから40メートルに拡げましたが、同時にVANなど当時の最先端トレンドの店を並べた。それが東京で最もファッショナブルと言われる青山通りの始まりです。

セコムもそう。セキュリティービジネスの元祖の会社ですが、オリンピックの2年前に2人の若者が創業し、当時の選手村の警備を任されるわけです。そこで知名度を上げ、6年後には大阪万博の警備も任され、さらに大きくなった。

現在、セキュリティービジネス業界で働いている人は53万人と言われますが、たった2人で始めたビジネスが、53万人の産業になったのです。同様に選手村の運営のために導入された冷凍食品の最先端技術とセントラルキッチンが現在のファミレスを生みました。

さらに言えば、ホテルニューオータニ、東京プリンスホテル、キャピトル東急ホテルといった都内の主要ホテルもオリンピックの年にできました。ホテルオークラはオリンピックの2年前に開業し、東海道新幹線はオリンピック開幕の9日前に開通しました。

今考えれば、夢のような時代です。新しいライフスタイルが提唱されると、新しい産業が起こる。だからこそ、今後、いろんなものを規制緩和して、いろんな人たちにいろんなことを試させて、自由にさせることが重要になってくるのです。

経済界はもっと志をもて

――東京オリンピックまであと6年です。

6年もあれば、技術革新はすごいスピードで進むと思います。今から6年前を振り返れば、iPhoneすら誕生していませんでしたから。

ですから、みんなに期待しなきゃダメだと思うんです。一番期待したいのは経済界です。彼らには「もっと志を持て」と言いたいですね。

経済界が反対しているから、進まない改革が結構あるんです。典型的な例は、コーポレートガバナンスを強化するという話です。外国人投資家が日本の会社に投資するとき、ためらう理由の一つは社外取締役が少ないということです。

ところが、社外取締役を増やすための会社法改正をしようと思ったら、経団連が最後まで反対した。確かに日本では社外取締役の機能を株主総会で補っているという議論もありますが、それさえも阻んでいるものがある。それが株式の相互持ち合いです。ドイツは相互持ち合いを辞めさせて、強くなった。結局、大手町、丸の内のエスタブリッシュメントが改革を阻んでいるのです。

日本は徹底的に自由な国であってほしい

――東京は世界的な都市として、どう差別化すればいいのでしょうか?

竹中 シンガポールのリ・シェンロン首相とハーバードで同期なのですが、あるとき「シンガポールはいつも最先端を走っている」と褒めたら、「違うんだ。私たちは不安でたまらない。常に最先端にいないと生きていられない国だ」と言うのです。

東京は、ロンドン、ニューヨーク、パリに続いて、世界4位の都市です。5位がシンガポールで追い上げているのですが、実は都市ランキングの70評価指標のうち、3つの指標を改善すれば、1位になれるんです。それが「法人税」「規制」「空港アクセス」です。

それを本気で改善する気があるかどうか。だから、東京はシンガポールよりよほど有利な立場にあるのです。もちろん英語力の問題もあるのですが、前回の東京オリンピックの際に第一次英語ブームが起きていることを考えれば、日本にとってはオリンピックこそ最大のチャンスなんです。

――将来の日本はどんな国であってほしいと思いますか?

竹中 徹底的に自由な国であってほしいですね。人間の価値にとって、自由ほど重要なものはありません。自由か秩序かと言いますが、大事なのは自由です。秩序は自分たちの既得権益を守るための一つの便利な言葉として使われる場合が多い。もちろん規制も必要ですが、その根底にあるのはあくまでも自由を守るための規制だということです。徹底的に自由に生きることができる社会にすることが日本にとって重要だと思います。