【北海道上川町】エリアを超えた共創で、“新しい地域”のプロトタイプを創る

2021/11/28
2021年11月12日、NewsPicks GINZAにて「北海道上川町×NewsPicks 包括連携協定調印式&キックオフイベント(オープンディスカッション・共同プロジェクトの発表)」が開催された。
本イベントにて、北海道上川町とニューズピックスは包括連携協定を締結し、官民連携型のプロジェクトをスタートさせた。
佐藤芳治氏(上川町町長)、稲垣裕介氏(ニューズピックス代表取締役Co-CEO)による包括連携協定調印式の様子
北海道上川町の持つ豊富な地域資源とNewsPicksが持つメディアノウハウ・会員コミュニティを融合させ、北海道上川町の新たな関係人口の創出と同時に、全国の地域社会の課題解決を目指していく。
今回は、当日実施されたオープンディスカッション「越境人材が集う"地域"は、いかにして発信─発見されるのか」の模様をレポートする。
登壇者は、ホテルプロデューサーの龍崎翔子氏と、上川町産業経済課の三谷航平氏。聞き手はNewsPicks Re:gion 編集長 呉琢磨が務めた。
※イベント全編の模様は動画で視聴頂けます。
【NewsPicks Re:gion編集長 呉琢磨より】

大都市は人も街も同質的でつまらなくなってきたのか、イノベーティブな人材が続々と「地域」に重心を移しはじめている実感が年々強まっています。

コロナが都市の生活を変え、サステナビリティが成長のキーワードになったニュー資本主義下で、その動きは加速するはずです。

しかし、政府が「関係人口創出」を謳っているとはいえ、都市に住む人間が見知らぬ地域と縁を結ぶには強い動機が必要でしょう。

その動機は「キャリアアップ」や「金銭的インセンティブ」のような都市型の価値観とは相性が悪いとも思います(現状はまだ都会で追求したほうが効率がいい)。

より個人的で、より主観的な、損得を超えた体験──「感動」こそが、都市生活者が越境するために必要なモチベーションではないでしょうか。

祭りは見るより参加するほうが楽しいし、創るほうがもっと感動できる。わずか3500人の自治体から続々と“創り手”が輩出されている上川町に、強烈なポテンシャルを感じたイベントでした。

北海道上川町について

北海道のほぼ中央に広がる日本最大の山岳自然公園「大雪山国立公園」の北方部に位置し、 大雪山連峰と北海道第一の河川、石狩川の清流にも恵まれた自然に包まれた町。
大雪山系の一つ黒岳への登山口には、北海道有数の温泉街である層雲峡温泉があり、大雪高原温泉の秋の紅葉は「日本一早い紅葉」が見られる。
主な観光施設は、層雲峡温泉・大雪山黒岳スキー場・大雪森のガーデン・層雲峡オートキャンプ場・大雪山写真ミュージアム・大雪かみかわヌクモなど。
夏はラフティングや登山、サイクリング、冬はスキーやスノーボード、犬ぞり、冬キャンプな ど。 年間を通じて多彩なアクティビティも楽しめ、数年前からこの環境を生かした通 年型山岳リゾートタウン推進にも取り組む。
気候は内陸型で寒暖の差が大きく、年平均気温5.3度。人口約3,500人。
※上川町の詳細はこちら

行政の姿勢が参画者を増やす

──今回は「越境人材が集う"地域"は、いかにして発信─発見されるのか」をテーマに、北海道上川町の内外を起点にして、共に地域の変革に取り組んでいるお二人に話を伺いたいと思います。
三谷さんは、上川町役場の職員のお仕事と並行して、東京の出版社で働かれていると伺いました。
三谷 はい。私は上川町から出版社に出向し、既に3年になります。
上川町のPRを目的に様々なコミュニティ・企業と関係構築する東京事務所の役割を担いながら、出版社にてメディア事業に携わっております。
──役場の公務員と民間企業の社員という二足の草鞋は非常に珍しいと思うのですが、出向された背景を教えて頂けますか?
三谷 「地域と一緒に成長したい」という思いと「自分が好きな町のことを多くの方に知ってもらいたい」という思いがあり、その両方を満たすために自ら町の外側へ越境することを決めました。
どうしても役場の中にいるだけではクローズドな視点になりがちです。
そのため一度、表に出て異なる空気を吸い、そこで得た知見を町のために活かしたいと考え、佐藤町長に直談判しました。
北海道上川町役場 産業経済課 三谷航平
2012年上川町役場入庁。上川町が展開する新規事業(北海道ガーデンショー・大雪山大学・カミカワークプロジェクトなど)の企画構想・立上げに主担当として携わる。2019年7月より、東京の民間会社に出向し、KAMIKAWORK.Lab.TOKYO.SATELLITE(上川町東京事務所)も兼ねつつ都市・地域をつなぐ架け橋として数多くのプロジェクトを企画・進行中。
──それを承認し送り出す町長も懐が広いですね。龍崎さんは上川町でホテル運営をしながら、地域活性化の案件にも加わっているとのことですが、どのような経緯で参画されたのですか?
龍崎 もともとは北海道の富良野でペンションを経営していたのですが、色々な町を巡ったお客さまが上川町の層雲峡温泉を褒めており、そこで関心を持ったことが上川町と接点を持った最初のきっかけです。
その後、様々な町の事業者と親交の深い知人から層雲峡温泉で閉業する宿があることを伺い、そのご縁から関わるようになりました。
──具体的にはどのように上川町役場との繋がりが深まっていったのですか?
龍崎 ホテルだけが良くなっても、地域に楽しめる場所がなければ意味がありません。まさに共存関係にあります。
そのため、上川町全体がもっと面白くなるよう提案させて頂くようになり、そこから関係性が深まっていきました。
三谷 龍崎さんのありがたいところは、地域全体を良くすることを本気で考えてくださる点です。
以前から「外部の意見を受け入れて成長していく」という町長の方針があり、その姿勢は役場にも浸透していたと思います。
外部からの新興プレーヤーで自ら声を上げてくれた方は初めてでした。
龍崎 どの町でもそういうことをするわけではありません。
町の外側から入ってくる私たちのチャレンジを応援してくれる行政の存在は不可欠ですが、それほど数は多くありません。
「自分達の役割は上川町で事業をする人を支えること」と言ってくれる、上川町役場の皆さんのウェルカムな姿勢があるから出来ていることです。
前向きな姿勢で受け入れてくださるので、こちらもチャレンジャブルな提案ができるようになりました。
株式会社L&Gグローバルビジネス 代表取締役 龍崎翔子
ポスト・ミレニアル世代を代表する経営者の一人、龍崎翔子さん。19歳のときにホテルのプロデュース・運営を行う「L&Gグローバルビジネス」を立ち上げ、富良野、層雲峡、湯河原、京都、大阪で自社ホテルを運営する。「ジャケ買いされる空間」「onsen2.0」「#shelovesyou」――。施設ごとに独自のコピーを掲げ、物語性を感じさせる空間デザインが特徴だ。そこから生まれる新しい宿泊体験は若い世代から高い支持を受けている。

関係人口の増大が町おこしの初手

──上川町の前向きな姿勢以外にも、上川町でビジネスを起こすことにした理由はあるのですか?
龍崎 大きく二つありました。まず、観光客が求めるユニークさが上川町にあったこと。
私が実際に現地に行った際に、幻想的な雰囲気に驚かされました。
上川町は切り立った岩山に霞がかかっており、そこを動物が歩いているという、大雪山を中心とした「ガーデン」と表現するのがふさわしい、唯一無二な場所だと感じました。
そしてもうひとつの理由が、そもそも層雲峡温泉に集まる宿泊客が多かったこと。
それまで携わっていた富良野は10室20室の宿が多い地域なのですが、上川町には大きな宿泊施設が多く、そこにたくさんの方が訪れており、マーケットが成立していると考えました。
──ホテル業として参入する上で、層雲峡温泉の存在が決め手になったわけですね。そう考えると、温泉以外の上川町の特長を外部の方に知ってもらうことが、関係人口の増加に繋がるように思えます。三谷さんはどのような発信をされているのですか?
三谷 いくつかの取り組みがあるのですが、「KAMIKAWORK Project」というものが一つめの軸です。
これは、積極的に人や企業を呼び込むための、いわば「きっかけづくり」の発信です。
それらにより、KAMIKAWORKプロデューサーの採用や、インターンシップツアー・オンラインイベントなどの開催が実現し、町の魅力が伝わっていきました。
結果、13社の開業と62名の居住者の増大という大きな成果が生まれ、今ではその方々とも一緒に町づくりに取り組んでいます。
出版社に出向したことで身についたメディア的な展開力が発揮できたことで、ターゲットとしてイメージしていた方々にうまくテーマが訴求できたと考えています。
──他にも観光分野の取り組みもあると伺いました。
三谷 スイスのツェルマットを参考にした「通年型山岳リゾートタウン実現プロジェクト」です。
町のアセットの中心である大雪山をアピールの軸に据え、「北の山岳リゾート」を目指すという発信をしております。
その結果、山岳分野だけに限定されない様々な関係者が増えました。
具体的にはコロンビアやTSI HOLDINGSなど、予想していなかったアパレルブランドが注目してくれて、企業との今までにない共創が生まれています。
──地域を活性化させていくためには、様々な取り組みから新たな関係人口を増やしていくことが大切なのですね。
三谷 内部の力だけで達成を目指すことが間違っているとは思いませんが、そもそも私は上川町には外側の力を加えることが必要だと考えていました。
それを町の人にも理解してもらうために、自分自身がまず東京に出たという側面もあります。
様々なプロジェクトを通じて関係人口を増やし、集まった全員に同じ方向を向いてもらうことが、突破口を生み出すと思います。

「面白さ」でオープンイノベーションを導く

──とはいえ、他所者が入ってくることを嫌う地域もあると聞きます。上川町の方々は抵抗を感じてはいないのですか?
三谷 もちろん、そういう方が全くいないわけではありません。
しかし、オープンイノベーションを掲げた上で、細かく内外を繋ぐコミュニケーションをとってきたことで解決出来たことも多くあります。
そもそも内外の人の関わりについては役場が主導で進めるべきだと考えています。
新たに町に来てくれた方々に「後はお任せします」というスタンスでは、地域との繋がりは育まれません。
龍崎 実際に多くの地域と関わる中で感じることは、行政側の支援がないと活性化は進まないという点です。
どんなに私たちが活性化に取り組もうとしても、やはり内側に入り込めなければ何もできません。
上川町の役場の方々は我々を受け入れてくれるだけでなく、中心となって地域の方と私たちの縁を繋いでくださっています。
私たちの知らない背景や関係性などを教えてくれることはもちろん、ご自分たちでも様々な方向性にアプローチしてくれており、その結果、スムーズに連携できていると感じます。
──内外の人々が一体化するために必要な要素は、他にもあるのでしょうか?
三谷 壁を越えるためには双方が「面白い」と思えるかどうかが肝心だと思います。
理屈抜きで地域活性化を面白く思えば、受け入れる側も参入する側も協力しあうことができ、かつ、全員が自分ごととして捉えることができます。
龍崎 実際、私も「面白い」と思いながら関わっています。それこそ自社のインターンの学生も巻き込んで提案を考えたりもしています。
ビジネスとして短期的に捉えるのではなく、面白いと思いながら町づくりに参加することが地域の活性化に繋がっていきます。
そうすれば、自分の事業には回り回って還元されます。
三谷 町内の人たちにも、外から応援しようと入ってくる人にも、当然難しさはあるはずです。
だからこそ、そういう方々にも面白いと思って頂けるよう、我々がバランスを取る努力をしなければならないと考えています。
──さらに関係人口を増やすために、新たに「上川超!プロジェクト」が発足すると伺いました。
三谷 「上川超!プロジェクト」は、物質的な距離や立場を超えたオープンイノベーションで、多様なヒト・モノ・コトを混ぜあわせてコラボレーションを重ねていくことを目指すプロジェクトです。
内外含めて捉えれば様々な資源・アセットがありますので、それらを混ぜ合わせて成長していこうと考えています。
どういう武器が掛け合わされば成果が最大化するのかはまだ見えていません。
しかし、内側・外側、民間・行政などのボーダーラインを引かず、地域に眠る価値を最大化する一歩目を全員で踏み出すことが必要なことだと感じています。
龍崎 こうするべきというメソッドは既に世の中に数多くあると思いますが、どんなフレームワークもあくまでその経験者による一つの法則性に過ぎません。
それ以上に大切なものは熱源で、強い意志を持っている人の存在が最も重要なのではないでしょうか。
そもそも、住んでいる人・関わっている人・故郷の人など多くの人が関わっている時点で、町を「誰のものか」と定義することは難しいです。
だからこそ、町おこしに参加すること自体を目的とするのではなく、自分のやりたいことをやるという意志を持ち、オーナーシップを持ってやるべきことを全うする、熱源になり得る人が必要だと考えています。
志があれば手段は後からついてきますし、そこから何かが変わります。
三谷 そういった熱源になり得る人たちに上川町としても力を借りたいですし、力を貸したいと思っています。

変化の源泉=熱源×多様性

──参画する人やその方々の人間性が地域の活性化には欠かせない要素だとのことですが、そこに更に重点を置いて人に関わる産業に取り組むことも検討されていると聞きました。
三谷 インフィニティ国際学院と連携協定を結んで、町全体を教育のフィールドにするというプロジェクトに着手しております。
インフィニティ国際学院の力を借りながら、上川町の自然と組み合わせた既存のものとは一線を画す教育を形にして、人の成長に貢献していく予定です。
龍崎 良い学校ができるとファミリーでの移住も視野に入ってきますね。
若いうちに移住した人が、ライフステージに対応した生活ができなくなるという話はよく聞きます。
そうならないためにも生活全般を移せるような受け入れ態勢も整えることは必要だと思います。
三谷 今、上川町で学校に通っている地元の子どもたちにもインフィニティ国際学院の教育を受けてもらい、双方にとってプラスが生まれる仕組みを構築したいですね。
なかなか伝わりにくい地域の取り組みを、未来ある子どもたちに理解してもらい、上川町の未来を支えてくれる人材になってもらえれば嬉しく思います。
──様々なステークホルダーが町に加わってくると、外から来た人だけが盛り上がるといった温度差が生まれかねないように思います。最終的には町の人々がどう変わるのかがポイントになりそうですね。
三谷 確かに外から来た人だけが盛り上がるという状況が生まれる可能性もゼロではありません。
ですので、そうならないように地域おこし協力隊に加わってくれるメンバーを地域から募り、熱量を高めるためのアプローチを重ねています。
また、移住してきた方々が刺激を与えてくれていることで、役場も含めた町の住民のインナーブランディングになってきています。
その結果、地域の人たちが少しずつ、「自分たちの町は良い町なのだ」と思い始めくれているように感じます。
龍崎 地域の人たちが気付くことのできていない町の価値を、客観視できる外部の視点から伝え浸透させていくことも、外部から加わるものとしての役割のひとつです。
そのために、「ここが素晴らしいです」と直接的に表現するというよりは、異なる切り口でその地域のユニークさを捉え、それをどのように世の中に伝えていくかを提案するようにしています。
地域の皆さんにとってはそれが町を相対的に知る機会になりますし、町が世に知られ新たな来訪者の良い評判に繋がれば、それがまたご自分たちを肯定化する材料にもなっていきます。
私たちの活動が、巡り巡る良い循環を生み出すきっかけになればと思います。
三谷 変わっていける地域になれるかどうかの分水嶺は、そこに関わる人々が変化していくことを楽しめるかどうか、多様性を持てるかどうかだと感じています。
理屈とか言語化ではなく、社会貢献や企業価値も飛び越えて、関わるひとりひとりが様々な関係性・地域の思考を受け入れ、同じ景色を見たいと思えるかー。
そうなることを目指して今後も取り組んでいきたいですね。

【北海道上川町×NewsPicks Creations】

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