2021/11/24
ジョブズも憧れた最強のビジネスモデル「ビートルズ」大解剖
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1962年のレコードデビューから1年半足らずで世界を席巻し、解散する1970年までに歴史に残る名曲を生み出し続けてきたロックバンド、THE BEATLES(ザ・ビートルズ)。
音楽ストリーミングサービス「Spotify」は2019年、ビートルズの楽曲は累計約17億回再生され、リスナーのうち半数近くが30歳未満だったという脅威の数字を発表している。
なぜ彼らは7年半という短期間で世界に大きなインパクトを与え、半世紀経ってもなお幅広い世代から愛される楽曲を生み出すことができたのか。彼らの活動をひもとくと、商品開発、マーケティング、プロモーション、チーム作り……そのどれもがビジネス的にも優れた思考に基づいて行われていたことがわかる。
かのスティーブ・ジョブズも言った、「僕のビジネスモデルはビートルズだ」と。
自らの手で世界を変えたいと願うビジネスパーソンにとって、2020年代もなおビートルズから学べるものは何か。自身も大のビートルズファンであり、ビジネスの未来について研究する山口周氏に解説してもらった。ビートルズを聞けば、ビジネスにおいて大切なことが見えてくる──。
音楽ストリーミングサービス「Spotify」は2019年、ビートルズの楽曲は累計約17億回再生され、リスナーのうち半数近くが30歳未満だったという脅威の数字を発表している。
なぜ彼らは7年半という短期間で世界に大きなインパクトを与え、半世紀経ってもなお幅広い世代から愛される楽曲を生み出すことができたのか。彼らの活動をひもとくと、商品開発、マーケティング、プロモーション、チーム作り……そのどれもがビジネス的にも優れた思考に基づいて行われていたことがわかる。
かのスティーブ・ジョブズも言った、「僕のビジネスモデルはビートルズだ」と。
自らの手で世界を変えたいと願うビジネスパーソンにとって、2020年代もなおビートルズから学べるものは何か。自身も大のビートルズファンであり、ビジネスの未来について研究する山口周氏に解説してもらった。ビートルズを聞けば、ビジネスにおいて大切なことが見えてくる──。
ビートルズが人生を共に歩いてくれた
──山口さんはビートルズが解散した1970年生まれですよね。直撃世代じゃないわけですが、どのような形で出会ったのでしょう?
山口 今でもハマった瞬間を明確に覚えていて、小学校6年生のときでした。横溝正史の推理小説を原作とした「悪霊島」という映画を、たまたま一人で観ていたんです。
映画がラストシーンに差し掛かり、ある曲がピアノのイントロから流れはじめた瞬間、雷に打たれたような衝撃が走りました。
すぐ母親のところに行って、「これなんていう歌?」「ああ、Let It Beでしょ」と教えてもらって。
人生で最初に買ったレコードが、アルバムの『Let It Be』(1970年)になりました。
2021年10月15日、スペシャル・エディションとして全世界同時リリース。『Let It Be』収録曲のニュー・ステレオ・ミックス及び5.1サラウンド・ミックス、ドルビー・アトモス・ミックスに加え、レコーディング・セッションの過程で残されたアウトテイク、リハーサル・テイク、スタジオ・ジャム等の未発表音源、1969 年にグリン・ジョンズによって制作された未発表の『Get Back LP』ミックスも収録。2CDデラックス / 1CD / LP他、全6フォーマットで発売中。
▶アルバムを聞いてみる/購入する
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中学に入ってからはラジオでビートルズの番組があるたび、エアチェックでテープに楽曲を録りためつつ、1stアルバムから少しずつレコードを買い揃えていって。高校ぐらいまでにはオリジナルのアルバム、13枚を全部集めたのかな。
ビートルズって7年半という短い活動期間の間に、曲風がめちゃくちゃ変わるんですよ。
──デビュー期はストレートなロックンロールナンバーやラブソングが多かったのが、中期から最新技術を用いた前衛的な音楽に傾倒していきます。
その変化が、自分の心と耳の成長にリンクしていたんですよね。
実は僕自身、作曲の勉強を中学生くらいからずっとしているのですが、天真爛漫だった小学生の頃は3枚目の『A Hard Day's Night』(1964年)あたりまでの曲がすごくいいなと思っていたのが、高校生になって大人の嘘に気づいたり悪いことを覚えたりしていくと実験的で芸術性の高い『Revolver』(1966年)やホワイト・アルバム(正式名『The Beatles』、1968年)の良さがわかるようになって。
ビートルズが人生を一緒に歩いてくれてきた感覚があります。
才能にかぶりのない、完璧主義者のチーム
──スティーブ・ジョブズは、2003年のインタビューで「私のビジネスの手本はビートルズだ」「才気ある4人が互いのマイナス面を牽制し、補い合い、個々の和を全体が上回った」と語っています。ビートルズというチームは、何が特別だったんでしょうか。
まずビートルズの最大の特徴として、7年半という活動期間の短さに対し、バンドとしての評価の高さ、後世に与えたインパクトの大きさが異常なんですよね。
なぜそれほどにクオリティの高い作品を生み出し続けられたかというと、ビートルズがめちゃくちゃ“ストレスフルな組織”だったからだと思うんです。
たとえば、『Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band』(1967年)は世界初のコンセプトアルバム、傑作として名高いですが、残されたスタジオの記録を見ると、みんな朝8時とか結構早くから集まっていて、23時、24時ぐらいまでレコーディングを続けていた。
しかも、そのレコーディングが完全に終わってから、次作『Magical Mystery Tour』(1967年)のスタジオの作業が始まるまで、わずか10日ほどしかないんです。
──かなりのハードワーカーですね、ロックバンドと思えない。
なぜここまで根詰めたかというと、4人ともが完璧主義者だったからでしょう。いい作品を作ることに、ひたすらストイックだった。
『Sgt. Pepper's~』の時点ですでに世界的な名声も獲得していて大金持ちで、あとは2、3年にアルバムを1枚出していくくらいでも十分やっていけたはず。
なのに2週間経たずに、また新しいアルバムを制作し始めた。結果的に7年半でアルバムを13枚、年に2枚近くのペースでリリースしています。
すさまじい活動量だったからこそ、いくつもの名盤が生まれた一方で、そのテンションの高さにチームが耐えられなくなったんだと思うんですよね。だから7年半という短さで、みんながバラバラになってしまった。
その後、ソロ活動でもそれぞれ素晴らしいアルバムを発表していますが、やはりビートルズのときほどの圧倒的な作品は生まれていません。
逆に言えば、飛び抜けたセンスのある人たちと、いろいろな意味で摩擦を起こしながら作り上げないと、本当に優れたモノを生み出すのは難しいということ。
2021年11月25日(木)・26日(金)・27日(土)に、ディズニープラスにて独占配信される『ザ・ビートルズ:Get Back』では、2年以上ぶりのライブコンサートに向けて14曲の新曲を作ろうとするザ・ビートルズの創作過程が、57時間以上の未公開映像とともに初公開される。配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン©2021 Disney Enterprises, Inc. All Rights Reserved.
──完璧主義者の集まりだからストレスが高かったけれど、だからこそ質も量も最高の成果を残せた、と。
あと、4人のコントリビューション(貢献)のポイントも全然違います。
たとえば、リンゴ・スターはデビュー直前に加入したから、“世界で一番ラッキーなタダ乗り男”とかよく言われていますけど、僕に言わせりゃとんでもない話。彼のドラムがなかったら、絶対に最初のアルバムから成立していなかった。とくに後期の音楽はリンゴのドラムあってこそ。
ジョージ・ハリスンは12弦ギターとかインド楽器のシタールとかいろいろな実験的な楽器を持ち込んできたり。生み出すギターのリフも非常に特徴的です。
ジョン・レノンとポール・マッカートニーはどちらも作曲家として天才なのは言うまでもないですが、ジョンはサイケデリックで不思議な和音を使うんですよね。「Sexy Sadie」のコード進行とかは、もう音楽理論じゃ説明できない。本当に本能的に曲を作っていたんだと思います。
ポールはそういう意味ではお利口さんな和音を使っていて、理論的な曲作りをしていた。
彼らには才能のリダンダンシー(冗長性)がないんですよね。4人の才能の重なるところがまったくない。それぞれカバーしている領域を重ね合わせた結果、ビートルズという絵になっていて、誰か一人欠けちゃうとダメになる。
これを組織論として考えると、コスト・エフィシェンシー(費用対効果)がものすごく高いわけです。小さな会社には、同じ能力を持っている人は複数人いらないわけですから。
膨大なテイク数が示す、イノベーションのヒント
──先ほどのお話にもありましたが、ビートルズは当時からすると、レコーディングに驚異的な時間をかけるバンドでした。
残されたビートルズの膨大なテイク(録音)数から、僕はイノベーションの観点で2つの優れた点がわかると思っていて。
1つは、「この曲は磨くと育つ」と初期段階で見抜ける、見極めの力です。
たとえば、スティーブ・ジョブズも未公開の海賊版を手に入れてテイクを聴き比べていたという「Strawberry Fields Forever」(1967年)。
あの曲はテイク1だと、ギターを中心にジョンが非常に素朴な弾き語りをしているんですが、最終的にはオーケストラまで使われている。
他の曲も、最初のテイクだけ聴くとそんなに良い曲じゃないこともあるんですよね。もちろんちょっとしたフレーズやイントロができた時点で名曲になることがわかる場合もありますが、完成前の曲の持つポテンシャルを評価するのはすごく難しい。
ビジネスにおいても、荒削りのアイデアをどう判断するかが非常に重要で。プロトタイプの段階では多くの人が「いらない、売れるはずない」と言うものの中から、真の価値を見出し「これはすごいものになる」と信じられるか。
Appleになぞらえると、ジョブズが最初にゼロックスのパロアルト研究所でマウスの原型を見せてもらったとき、他の人は反応が薄い中「これは革命だ!」と一人で大騒ぎしていたという有名なエピソードがあります。
最初のアイデアを思いついたときに、それが本当に育つものなのかどうかを見極める力がビートルズにはすごくあったんだと思うんです。
──なるほど。もう1つは?
アイデアを育てきる、粘り強さですよね。ビートルズの楽曲制作の過程では、テイク20、30といった数字が余裕で出てくる。テイクを1つずつ聴いていくと微妙に変わっていって、最後にはまったく違う曲になっていたりします。
「Strawberry Fields Forever」なんて、テイク7ではゆったりしたメロトロン※とギターを録音していたのが、テイク26あたりになるとオーケストラを入れたテンポの速いバージョンを録っている。最終的には「両方とも捨てがたいからくっつけらんないかな」とジョンが無茶振りして、テイク7とテイク26を前後半でくっつけて1曲が完成するわけです。
デザイン思考ではプロトタイピングといって、頭のなかにあるアイデアをなるべく早く1つの形にしていくプロセスが重視されます。
音楽の場合もはじめから完成形が作れない以上、プロトタイピングを繰り返していくしかない。
彼らのアイデアを「見極める力」と、それを簡単に殺さず、何度も何度も試行錯誤しながら良いものに磨き上げていく「粘り強さ」は、現代のイノベーションを生み出すためのプロセスにすごく似ている気がします。
※メロトロン:1960年代に開発された、アナログ再生式のサンプル再生楽器。鍵盤を押すと、鍵ごとに磁気テープに録音された音が再生される。サンプラーの元祖とも云われる。
ビートルズが生み出した新市場「若者」
──ビートルズはレコードデビューから1年半足らずで世界を席巻するスターになります。大量顧客獲得までのスピード感が異常だったと思うんですが、ビジネス的に特筆すべき点をあげるとすればどこでしょう。
僕は「ビートルズが若者を発明した」という言い方ができるかなと思っていて。
それまでの世界には「子ども」と「大人」しかなく、その間にグラデーションがありませんでした。10代後半から20歳あたりの、今でいう“若者”の層がなく、高校生までは子どもだけど、卒業したらもう大人と呼ばれる時代。
ただ、当時の社会の実権を握っていた大人は、戦争を引っ張ってきた人たちで若い世代からするとまったく信用できず、その仲間になることにすごく葛藤があったんです。
そこで、ジェームズ・ディーン主演の『理由なき反抗』とかマーロン・ブランド主演の『乱暴者』で描かれたような、大人に歯向かう非常に反社会的な存在としての「若者」があぶり出されていくわけですが、多くの人にとって彼らも仲間になりたい存在じゃなかった。
自分たちを投影できて、社会的にもちゃんと認められる“若者の代表”として初めて登場したのが、ビートルズという存在だったんじゃないかなと。
ここは、マネージャーのブライアン・エプスタインがすごいところで。
ビートルズもデビュー前は、革ジャンにリーゼントという出で立ちでアウトローなイメージだったのですが、ブライアンはマネージャー契約を結んだばかりのメンバーに対して、「まず髪を切れ、革ジャンはやめてちゃんとスーツを着ろ」と、身なりをきちんと整えさせたんです。
反社会性に満ちていた若者文化を、エスタブリッシュメントにも受け入れられる存在として最初に提示できたのがビートルズだったんだと思います。
自らを模倣しないことで、ファンの耳を教育する
──山口さんから見て、ビートルズの活動において、新しいビジネスの未来でも手本となるような行動様式は何がありますか?
「自分の模倣をしない」ところですかね。
一回ウケた、一度成功する。そうすると人は過去を模倣したくなるわけですが、ビートルズほど自分の模倣からかけ離れたバンドってないと思うんです。
だってデビュー初期は「I Want To Hold Your Hand(あなたの手を握り締めたい)」とか「She Love You(彼女は君が好きだって)」とか歌っていたわけですよ。6枚目の『Rubber Soul』(1965)あたりまではそんなラブソングが中心で、アイドルバンドとして世界中にファンがいて、女の子たちにもキャーキャー言われていた。
マーケティング的な思考ではもう一度、初期みたいなアルバムを作って女の子にキャーキャー言わせ続けたいところですが、7枚目の『Revolver』(1966)で一番大きく舵を切ります。
1曲目からいきなり「Taxman(税金取り立て人)」というタイトルですからね。イギリスの高い税率への皮肉を歌い上げる。2曲目の「Eleanor Rigby」では孤独に死んでいく人の歌が展開されます。
最後の曲「Tomorrow Never Knows」なんて超アバンギャルドで、音楽ではコードを3つ以上使うのが一般的なところを、最初から最後までCコードしか使っていない。
これを世に出すのは、レコード会社も相当怖かったと思うんですよね。
──顧客をまったく無視しているわけですもんね。
そうそう。今のマーケティングにおける「マーケットイン」の発想からはまったく真逆のものなんですよね。
市場調査をやって顧客が好きなものを作る。一旦ウケる。ブランドが確立される。そうすると顧客が望むものを作り続ける思考になりがちですが、ビートルズは顧客をもう本当に無視した。
むしろ自分たちが変化することで、顧客にも変化を強要していった。原研哉さんの言葉で言うと「顧客を教育していく」わけです。
実際にある種、音楽マーケットの底を上げたんじゃないでしょうか。ビートルズが出てくる前ってスリーコードしか使っていない音楽ばかりだったのが、むちゃくちゃ複雑な音楽をロックの中に持ち込んで、ポピュラーミュージックにおける文化的な成熟レベルを上げた。結果的には産業全体がいろんな多様性を飲み込める膨らみを持ったと思います。
2000年代後半、日本の携帯電話市場では、どこも同じようなガラケーを作っていたじゃないですか。日本のメーカーは市場が何を望んでいるのかを膨大なお金をかけて調査した一方で、スティーブ・ジョブズは「自分たちにとってカッコいいものを作りました」と、iPhoneを作り上げた。宇宙に穴が開くほどすごいモノを自分たちで作るぞという、完全な顧客無視の態度ですよね。
この点でも、両者はすごく通底している。今のビジネスと照らし合わせると、ビートルズが自ら、顧客の耳の良さをどんどんエデュケイトしていったのは、すごく示唆がある。
触れるたびに新しい発見と感動を得られるのがビートルズの作品。ぜひ、みなさんもさまざまな視点から聞いてみてほしいですね。
取材・執筆:黒木貴啓(ノオト)
写真:小島マサヒロ
デザイン:小鈴キリカ
編集:樫本倫子
写真:小島マサヒロ
デザイン:小鈴キリカ
編集:樫本倫子
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