2021/11/13

【推しエコノミー】エンタメ地政学から見る日本の「勝算」

NewsPicks編集部
まるで預言者のように、新しい時代のムーブメントをいち早く紹介する連載「The Prophet」。今回登場するのは、エンタメ社会学者の中山淳雄氏だ。
前編では、中山氏の新著『推しエコノミー 「仮想一等地」が変えるエンタメの未来』(日経BP)のエッセンスを紹介しながら、キャラクターやタレントを「推す」というファンの行為がメガヒットにつながる「推しエコノミー」の構図をひもといた。
この後編では、中山氏へのインタビューを通じて、推しエコノミーがもたらす未来を覗いてみよう。
INDEX
  • 熱狂を生むキャラクターの条件
  • 『名探偵コナン』のすぐれた設計
  • 「衣・食・住・推し」の時代
  • 丸井が「オタクビル」を建てた理由
  • 日本エンタメの強みは「LTV」
  • 「ルイ・ヴィトン」の手法に学べ

熱狂を生むキャラクターの条件

──前編では、「推しエコノミー」でユーザーがコンテンツに求めるものは、何よりも「“推し”との関係が永続すること」だという解説がありました。そこまでユーザーを熱狂させるキャラクターの条件とは何なのでしょうか?
中山 その点は、僕自身もいちばん力を入れて研究しているところです。
(前編で取り上げた)『鬼滅の刃』については、いろいろな方が散々語っていますが、敵にも共感できる主人公の心の綺麗さが本当に素敵だと思いました。「自分の子どもがこんなふうになってくれたらいいな」と思える主人公に、久しぶりに出会ったという感覚です。
僕としては、子どもが(『ドラゴンボール』の)孫悟空を目指すようだと、少し困ってしまうんです。「オラ、わくわくすっぞ!」といろいろなライバルを倒していったところで、今の日本では、そんな「力のインフレ」の先に未来はないと思うので。
もちろん、『鬼滅の刃』の主人公の炭治郎も、戦いを重ねることで強くなっていくわけですが、それ以上に「各地を旅しながら、鬼を改心させていく」という点に作品の重心が置かれています。言うなれば炭治郎は、「上昇型」の悟空というより、水戸黄門のような「周回型」の主人公なのです。
キャラクターと作品の世界観を守りながら、続編やスピンオフをつくってコンテンツを永続させていくという意味では、上昇型より周回型のほうが向いているのではないでしょうか。

『名探偵コナン』のすぐれた設計