2021/11/24

終わりのはじまり。日本型経営「シン・三種の神器」とは

NewsPicks Brand Design chief editor
BIG4に代表されるように、コンサルティングファームには外資系が多い。そんななか、レイヤーズ・コンサルティングは40年以上にわたって名だたる日本企業を支援してきた、日本発の独立系コンサルティングファームだ。企業が競争力を得るために必要不可欠なオープンイノベーション領域での強みを持つ。
「日本の才能は日本のために使いたい」と話すレイヤーズ・コンサルティングCEOの杉野 尚志氏は、自社でも「日本らしさ」を重視した経営を続けている。時に「甘い」と揶揄される日本の経営の強みとは何なのか。

個人ノルマよりチーム目標

無理に欧米の真似をしたせいで、日本のよさを見失うことがあります。コンサルタントの世界も同じです。
そういう私自身も、かつては外資系コンサル企業にいました。当時はまだ業界の再編が進んでおらず、外資系といっても今よりだいぶ緩いところもありましたが、併合が進むごとに締めつけがきつくなってきた。
日本の文化のなかで育ってきた人全員が外資系の文化になじむかというと、やはり難しいものです。
優秀な人が疲弊していくのを間近で見るのはつらかったし、私は私で、せっかく日本に生まれ、働いているのに、利益も知見も海外の本社に持っていかれてしまう状況に疑問を感じはじめました。
「自分の能力と努力は、日本の企業を元気にして、国に還元できるようなことに注ぎ込みたい」
これがレイヤーズ・コンサルティング(以下、レイヤーズ)の原点です。
創業から約30年、思いを同じくする仲間をたくさん迎えながら、1000件以上のプロジェクトに携わってきました。
私たちはBIG4ほどの知名度はありませんが、これまでお付き合いのある500ほどの企業には、上場企業をはじめ、国内の優良企業がずらりと並んでいて、しかも約9割という高い継続率を維持し続けています。
規模としてはまだまだ小さいレイヤーズがお客様に支持されてきたのは、やはり「日本のいいところを大事にしよう」という精神があるからだと思っています。
というのも、もともと欧米は契約社会です。
外資系コンサルでもジュニアのうちはまだいいですが、マネージャーやディレクターになると大きな予算を背負わざるを得ず、プレッシャーも相当です。
その環境で奮起できる人もいますが、「ノルマが嫌になった」とレイヤーズに移籍してくる人も多い。
レイヤーズの場合は、達成できなかったとしても個人ではなく会社全体の問題と捉えます。
こうした体制は「責任の所在を曖昧にする日本の悪い企業文化だ」と見えるかもしれませんが、それは違います。「目標を達成する」というゴールは変えず、「チームや組織全体で連帯して成し遂げる」精神でことに当たる、創造的な企業文化だと思っています。
そういう文化のほうが、かえって個々の能力を発揮しやすいのです。

肉食系でもなく、草食系でもない。職人系

外資系を肉食系とたとえることは多いですが、それと比較したとき、私たちは草食系でもなく「職人系」ですね。
外資系コンサルの現場は少数の極めて優れた人間が、多数のオペレーターを使う形式です。だからミドルがいなくて、上から降りてきた命令は絶対。
しかし日本企業では、多数のオペレーターのなかから、優秀な人を「ミドル」として育てる。そのミドルこそが日本企業の強みです。レイヤーズもスーパータレントに依存するのではなく、チームで戦います。
実は、能力の高いコンサルタントであっても、クライアントの要望に対して「これに手を出すと火傷するな(採算性が悪いな)」と退いてしまったり、採算性の良い自分の得意な分野に誘導したり、と自分本位の仕事をする人もいます。
でも、私たちは「これは難しいぞ」という要望であっても、「無理です」「違うと思います」と言わず、要求に対してストレートにこたえることに努めます。お客様の要求を鵜呑みにするという意味ではありません。
目の前の採算性よりクオリティを重視しているのです。
たとえば建築の現場なら、個々の大工さんの力量は当然問われるでしょう。でも、どれだけレベルの高い職人でも、一人で家は建てられません。職人が助け合ってひとつのものを作り上げるのと、私たちのコンサルティングは同じなんです。
これは、個人のノルマに追い立てられないからできることでもあります。
ミドルの育成を重視する社風があり、さらによその中堅が移籍してくることも多いので、ほかのコンサル企業とは組織構成も変わってきます。
一般的にコンサル企業はごく少数のマネジメント層に、大勢のジュニア層という、裾野が極端に大きいピラミッド型。ところがうちの場合は寸胴型です。
創業以降、着実に顧客と関係を築きながら事業を拡大させ、メンバーを増やしていった結果、充実した強固な中間層ができあがった。おかげで、組織を大きくする素地が整いました。
現在350名いる従業員を、これからの3〜4年で1000人規模まで拡大させていく予定です。一般の企業であれば、この期間でそこまで拡大できたとしても、どこかで破綻が起こるでしょう。しかし、中核人材が十分に育っている私たちなら可能なはずです。

日本型経営三種の神器から「シン・三種の神器」へ

「日本企業の経営は甘い」という声をよく聞きます。たしかに甘いところはある。その最たるものが、利益追求の姿勢です。企業の利益率はアメリカの半分ほどと、大きな差があります。
古い話ですが、日本では明治維新後、公共工事を含め、官公庁関係の仕事が多く生まれた時期がありました。そのとき、「公共事業なんだから儲けすぎるのはダメだ。利益率は10%くらいにしておけ」というお触れがあったそうです。
それがベースにあるからか、日本企業は「よくて利益率10%」という企業が多い。
でも、その裏返しで、長く続く企業が多く、倒産が少ないという文化につながっている。
百年企業どころか、200年、300年と続く企業がこれだけ多い国は稀です。これも日本が長期の安定性を求めるからこそでしょう。一方、短期の利益を求める欧米は、伸びるときは一気に伸びて、翳りが出てくると、すぐに会社を畳んだり、売ったりする。
そこにダイナミズムに魅力を感じる人もいるでしょうし、そういう経営だからこそ実現できることもありますが、そのやり方だけが正解ではないはずです。
『ウサギとカメ』ではないですが、ゆっくりでも確実に歩んでいれば先には進む。それに、いいものを世の中に提供し続けることにも価値があります。
しかし、かつて日本型経営における「三種の神器」とされた「終身雇用」「年功序列」「企業別組合」は崩壊。新しい柱となる価値観が必要です。
「中長期的経営」「協働思考」、そして株主偏重ではなく、社員、お客様、世間、皆によい価値を生み出す「三方よし」。この3つが新しい「三種の神器」にふさわしいと私は考えています。
最近では「ステークホルダー資本主義」といった言葉も生まれていますが、日本には昔から「三方よし」という言葉があり、それを実践してきた商売人たちがいたし、かつての日本の企業は自然とそんな方向性を目指していたのではないでしょうか。
それが、欧米の経営の真似をするうちに失われてしまった。どちらがいいということではなく、無理に真似をしたせいで、うまくいかない部分が出てきたということです。

目指すのは、ホームドクターならぬ「ホームコンサル」

欧米でも株主偏重や短期的視点が見直されつつありますが、私たちも「三方よし」の教えにならい、それを全面に押し出して、多くの「三方よし」企業を生み出す支援をしていきたいと考えています。
私たちがある大病院の経営改革に携わることがありました。
そのときに感じたのは、医師の原動力は「治したい」という気持ちだということです。その気持ちがある医師は、きちんと成果を挙げる。崇高な意思があるからこそ、コロナ禍の過酷な状況でも皆さん頑張っておられた。
私たちは、業種こそ違うものの、その姿勢を見習い、高い倫理観を持ってやっていきたい。ホームドクターならぬ、ホームコンサルとして寄り添い、高品質なサービスを提供しつづけなければと考えています。
企業の成長のみならず、個人の成長にもスピードを求めがちな昨今ですが、盛んに言われる「専門性を身につけろ」という言葉にも注意が必要です。
レイヤーズの場合、チームで仕事を進めるということもあり、何かひとつに特化した人よりも、人より深い知識を持ちつつ、それぞれのメンバーが持ち寄ってきたこととつなげられるような人を育てたい。
事業部こそ、経営管理事業部、事業戦略事業部、HR事業部、SCM事業部、DX事業部と5つにわかれていますが、チームは、事業部ごとの壁なしに作ります。
私たちは業界を限定していないし、ソリューションも限定したくない。クライアントが求めることには「無理」と言わず、どういうかたちでも答えを出す。ひとつの分野の専門家だけでは、そういうことはできません。

外資にない、会社を自分で作り上げていく面白さ

他の会社・組織に属しながらレイヤーズを応援してくれる人たちの存在も、私たちの宝です。たとえば経営諮問委員や顧問には、国内の一流企業で活躍されている方が揃っています。
オリックスのシニア・チェアマンである宮内義彦さんはレイヤーズの経営諮問委員の委員長ですが、「レイヤーズは規模では大手に劣るが、一人一人の力はまったく負けていない。自信をもってどんどんいくべきだ」と発破をかけてくださる 。
そうした方々がなぜ私たちを応援してくれるのかと言えば、著名なコンサルティング会社はほとんどが外資系というなかで、「日本の」コンサルティング会社を育てたいという思いがあるからです。おかげで、多くのアドバイザーにご支援していただいています。
発展途上の会社なので、社内の仕組みも整備中です。一方で、外資系企業では本部から降りてきた仕組みをそのまま適用しなければいけませんが、自分が関わり、作り上げていくことができます。
実際、人事評価やトレーニングなど、いくつかのタスクフォースが動いている最中ですが、そのメンバーのなかには、コンサル歴3年という人もいます。
規模が小さいからこその強みもあれば、研究開発やグローバル対応力など、規模が小さいからこその弱みもある。その弱点の克服のためにも、ここから一気に規模を拡大させていきたい。
クライアントにこたえるだけでなく、会社づくりも自分の手で行う。誰かから与えられるのではなく、自分たちで作っていく。
「とにかく世の中に大きく貢献することがしたい」というコンサルもいれば、うちでやっていくことに面白みを感じるコンサルもまだまだいるはずです。
そんな人たちとともに、私たちらしく、日本のためになる「正解」を世の中に示していきたいですね。