2021/11/7

【新】デザインの視点から「認知症」の課題解決に挑む

issue+design 代表 慶応義塾大学大学院特任教授
現代を生きる上で必要な知識を1カ月で学ぶ「プロピッカー新書」。11月のテーマは「認知症とデザイン」だ。
団塊の世代が後期高齢者になる2025年には、国民の4人に1人が75歳以上になる。認知症の人も増えると予想されており、認知症とどう向き合うかは、今後ますます重要な社会的課題になっていく。
では、認知症とは何だろうか。認知症のある人は、どんなことに困っているのか。社会としてどのようにこの問題に対応していけばいいのか。
デザイナーの筧裕介さんは、デザインの視点で認知症の問題を捉え直し、解決策を探ろうとしている。
当事者の声を丁寧に聞き、「何に困っているのか」を掘り下げ、整理し、解決策を考える。そんなデザイナーとしてのアプローチで認知症を解き明かした『認知症世界の歩き方』(ライツ社)が話題だ。
医療や介護の文脈とはひと味違う「デザイナーから見た認知症」の講義を4回にわたってお伝えする。

「本人の気持ち」が無視されている

高齢化が進む中、認知症はこれまで以上に誰にとっても身近な課題になりつつあります。厚生労働省は、2025年には日本における認知症の高齢者が700万人になると推計しています。実に、高齢者の5人に1人が認知症になる時代が目前に迫っています。
私はデザイナーとして、防災や育児、地方創生やまちづくりなどさまざまな社会課題の解決に取り組んできました。その中で、10年ほど前から認知症に関心を持つようになりました。
認知症は医療や介護の分野の課題であり、デザイナーが認知症の問題に取り組むことを意外に思う人もいるかもしれません。しかし、僕は認知症の課題解決はデザイナーの仕事だと考えています。
そもそもデザインは、人の認知機能に働きかけるものです。人がモノや情報・サービスを五感で捉え、思考・判断・記憶し、何らかの行動をすること、この一連の流れをつくるのがデザインという行為です。
デザインの観点から見ると、認知機能の低下に伴い生活に問題が生じるということは、その人の生活の中にある商品・サービス・空間などのデザインに問題があると捉えることができます。
現実問題、今の世の中には、人の認知機能を惑わせ、混乱させるデザインがあふれています。
認知症のある人は、どのような問題を抱え、いつ・どのような状況で生活のしづらさを感じているのか。それを理解することは、デザインの観点から認知症を捉えるために欠かせません。
しかし、現在の認知症をめぐる問題は、「本人が置いてけぼりにされている」のが実情です。
(写真:iStock/SetsukoN)
認知症に関連した書籍の多くは、認知症のある両親を介護している家族向けに、どうしたらちゃんと寝てくれるか、食事をとってくれるか、暴れずに過ごしてくれるか、など介護の負担を軽減するための対処法を解説したものや、医療従事者や介護従事者向けの専門的な内容です。
認知症の本人は、どういう状況にあって、何に困っているのか、というように本人が主語となって語られるテキストは極めて少ないです。認知症のある方の「本人の視点」でのアプローチがなく、本人がどうしたいのかはまったく無視されています。
そんな時に、本人の視点で認知症を知るために、100人を超える当事者にインタビューを実施するプロジェクトに参加する機会をいただきました。そこで見えてきた、認知症の方が生きている世界、見えている視界を表現するデザインプロジェクトが『認知症世界の歩き方』であり、今年9月にライツ社から書籍が刊行されました。
今回から始まる4回の連載では、認知症の本人の視点から認知症とはどんなものなのかをひも解きつつ、デザインの観点から課題解決の糸口を探っていきます。
第1回目は導入として、デザインの観点から認知症を理解するとはどういうことか、そこから見えた認知症の特徴とは何かについて整理していきます。
(写真:iStock/ThitareeSarmkasat)

認知症とは何か