クリエイティブ×地域活性。NewSchoolアワード受賞者が描く、「新しい地方の在り方」

2021/11/2
「学ぶ・創る・稼ぐ」をコンセプトとして掲げ、実際にビジネスに携わるリードオフマンたちと共創する、新時代のプロジェクト型スクール「NewsPicks NewSchool」。
開講1周年を迎えた2021年7月に開催されたNewSchool Awardでは、1400名を超えるNewSchool卒業生たちの中から厳選された8名によるピッチコンテストを実施。厳しい最終審査の末、クリエイティブ部門・ビジネス部門のふたつの分野で最優秀賞の受賞者が選出された。
今回はクリエイティブ部門で表彰された新村康二さん(NewSchool第1期 佐々木紀彦「コンテンツプロデュース」卒業生/株式会社マスターピース 代表取締役)にインタビューを行った。NewSchoolを通して新村さんにどのような変化があったのかを紐解いていく。

なぜ静岡なのか?なぜ地方活性化なのか?

──まず、新村さんの事業について教えてください。
私たちが運営するメディア「ペロリ」は静岡の食文化を全国に発信するサイトです 。
食に携わる人や地域を盛り上げる活動をしている人、静岡県内の牛肉・日本酒・クラウンメロンなどの魅力ある商品を紹介しており、県外の方々の目を静岡に向けることを目指しています。
また、紹介した商品をECサイトから販売しており、情報を伝えるだけにとどまらず、実際に体験して頂くことにも力を注いでいます。
──なぜ静岡についてのメディアを立ち上げようと思ったのですか?
仕事に対する価値観が大きく変わったことがきっかけです。
私は新卒で広告代理店の営業を経験した後、独学でデザインを学び30歳からデザイナーになりました。その当時はお金儲けに軸足をおいており、お金になることならなんでもやるというスタンスでした。
しかし、40歳手前で精神的にも金銭的にも行き詰まりを感じるようになりました。自分の人生にとって、最も大切なことはお金ではないと気づき、急にお金だけを追うことが嫌になってしまったのです。
それからは自分にとって何が大切なのかを考え続けました。
その結果、稼ぐことはもちろん必要なのですが、その活動でちゃんと新しい価値を生み出していきたいと思うようになったのです。
同時に、苦境にある地方の1次産業や3次産業の方たちを盛り上げよう、それを受け取った人が喜んでくれる仕事をしようと決意しました。

「食」のプラットフォームの可能性

──その一歩めが地元静岡ということですね。地方を盛り上げる手段としてメディアプラットフォームを選ばれた理由はありますか?
恩師である佐々木紀彦さんの影響が大きいです。
私はそもそも、NewSchoolの前身であるNewsPicksアカデミアのゼミに参加していたのですが、既に当時、地元静岡でアクションを起こしたい、自分が興味を持った人のところに取材に行ってその事業や商品について発信したい、と考えていました。
そのタイミングで佐々木さんから今後のビジネスにおけるメディアプラットフォームのポテンシャルを学び、今からの地方の活性化にメディアの力は必要不可欠だと痛感しました。
つまり、コンテンツを創ろうという漠然としたイメージに、メディアプラットフォームという切り口が加わることで方向性が定まったわけです。
とはいえ、僕の住む浜松は製造業の町で大企業文化。地域をコンテンツ化するにも、最初は面白さも目新しさも個性も見当たりませんでした。
そこで静岡の「食」にスポットを当てることにしたのです。他県に誇れる、しかしまだ伝わっていない、静岡の「食」の魅力に照準を絞り、そのコンテンツをプラットフォームに乗せて伝えていこう、と。
この時、「ペロリ」のアウトラインが完成しました。

学びの先の「本当の価値」

──アカデミアゼミで既に骨子ができていたにも関わらず、改めてNewSchoolも受講しようと思われたのはなぜですか?
自らのメディアをさらにドライブさせられると考えたからです。
佐々木さんが「コンテンツプロデュース」という、私の事業の方向性にガチッとはまる内容で講義をされると聞き、これは受けなければいけない、と直感的に思いました。
今になって振り返ってみても、このプロジェクトに参加して良いことしかありませんでした。
──実際に受講して印象的だったことは何ですか?
学びでとどまらず、NewSchoolのテーマである「学ぶ・創る・稼ぐ」をワンセットで体験できたことが何より意義深かったと感じています。
私はそもそもデザイン制作を事業としていたため、講座内容の中心である記事や映像のつくり方・デザインの考え方などについては最初からある程度は理解できており、アドバンテージがあったと思います。
しかし、プロジェクト内のコンペを勝ち抜き、「静岡物産展」というイベントをNewsPicks GINZAで開催させてもらったところ、想像以上に苦戦を強いられました。開催までの道のりも、開催してからも、苦労の連続でした。
結果的には静岡で一緒にビジネスに携わってくれているパートナーたちや、NewSchoolで出会った仲間たちに助けられ乗り越えることができたのですが、あまりの大変さ、うまくいかない悔しさに、イベント終了後もしばらくは落ち込み続けたほどです。
しかしその経験があったからこそ、多くの人と関わる中で学びを「創る・稼ぐ」まで昇華させる難しさを心から理解するに至りました。本当の価値は学びの先にあるということを実体験できたわけです。
過去のアカデミアゼミも含め、普通のビジネススクールは学ぶことをゴールに設定しています。しかし、学びを活かすチャンスまで与えてくれるところがNewSchoolならではの魅力。
既に「コンテンツプロデュース」を卒業して1年が経とうとしていますが、この時のことは現在取り組んでいる「静岡県日本酒研究会」の事業にも活きています。
この事業は、静岡の地酒を天然のワインセラーに貯蔵して熟成させるプロジェクトなのですが、参加酒蔵は10蔵を数え、そこに飲食店さんや多くの食通が集うようになってきています。
「静岡物産展」というステップを踏んでいなければ、今回のように多くのステークホルダーが関わるビジネスを立ち上げることはできなかったかもしれません。本当に特別な経験を積むことができたと感謝しています。

NewLocalという考え方

──NewSchoolが新村さんと事業の成長に貢献できたと知り、嬉しく思います。他にもNewSchoolでの経験から学んだことはありますか?
さまざまな地域でビジネスに携わる仲間と接する機会を得たことで、地方でビジネスをする意味や意義について一層深く考えるようになりました。
正直な話、東京のコピーを目指す地方の企業や自治体は物凄く多いです。
しかし、仮に日本最先端のスキルやマインドに触れる貴重な体験を積んでも、それをそのまま地方に落とし込めるかというと、難しい。
経済規模も小さく、人口も少ない地方では、東京で得たものを咀嚼して活かすことが必要なのだと痛感しました。
だから、東京のトレンドをそのまま使うのではなく、そこにその地方ならではの個性を掛け合わせ、自分たちなりの戦い方を本気で模索する必要があると考えています。
──確かに地方創生への取り組み方にも一定のパターンがあるように感じます。実際にご自身が取り組んでいることとしてはどのようなものがあるのですか?
私たちの会話では、よく“草刈り”という言葉が出てきます。
昔なら地域の草刈りは、自分の土地だけではなく、隣の家やみんなで使う公園などまで自然と自主的に行われていたと思います。
このような、地域を良くしたいという意志を全員が当然のように持ち、それぞれが主体的に動く感覚は、東京はもちろん地方でも薄まってしまった価値観ではないでしょうか。
私はメディアを、情報発信の場という位置付けだけで考えていません。自分の住む場所を良くすることを自分ごととして捉える、そんなマインドを育む起点にしようと思ってきました。
だから、最初に集まってくれたメディア運営に賛同するクリエイティブ方面のメンバーに加え、今では静岡で事業を展開する経営者なども仲間になってくれています。どうすれば自分たちが楽しめる地域にできるのかを話し合い、実際に行動を起こしています。
私はこれを「ローカル・ティール」と呼んでいますが、この自立分散型のエネルギーは今でも成長を続けています。
「それって稼げるの?」とか「それって意味あるの?」といった意見を頂戴することもあります。ですが、参加しているメンバーのビジネススキルは高いと自負していますので、しっかり稼ぐつもりですし、さらにみんなでしっかり楽しむつもりでもいます。
まだまだ地方は旧態依然としたマインドセットが多いですが、それは単純に“知らない”だけ。私のメディアが楽しそうにコトを起こしてそれを発信していくことで、こんな仕事や暮らしがあるのだと、“知らない”人たちに広げていきたいです。
それこそが「NewLocal」という世界観であり、地域活性化に繋がると信じています。

NewSchoolは最新モデルの学び舎

──東京をコピーするのではなく、東京を敵視するのでもなく、その時々のトレンドを踏まえて地方のオリジナルに転換することが大事であるということですね。
そうです。私自身NewSchoolを受講して、地方にはない東京の最先端の考え方を非常に多く吸収することができました。
先日、NewsPicksが福岡で「NewEra,NewCity」というイベントを開催していましたよね。つまり東京のメディアは、地方が新しい考え方を吸収する機会を創ってくれているわけです。
であれば、あとは受け取り手側が変わるだけの話です。地方で活動する人々が前進しようという意志を持ち、情報を吸収するだけでなくそれを活かし、地域で新しい価値を生み出す術を考えることが重要だと思います。
──最後に、これからNewSchoolを受講しようと思っている方々にアドバイスを頂けますか?
地方で暮らしていてNewSchoolを受講するべきか悩んでいる方は多いと思います。でも、そういった方こそ是非、初めの一歩を踏み出して頂きたいです。
なぜなら、NewSchoolは東京の最新モデルを学べる最良の場だから。地方でただ有名人の本を読んでいるだけでは味わえない、東京の学びの場の独特な「熱量」がありました。
「コンテンツプロデュース」は完全オンラインでしたが、それでも十二分に感じ取ることができました。
もちろん東京に住んでいる方にとっても多くの気づきがあると思います。しかし、東京は日常的に外的な刺激を受けることができる環境です。
残念ながら地方にはその機会は多くありません。だからこそ、地方で活動する方々は意識的にNewSchoolに参加して頂きたいのです。
──そういう人が増えれば増えるほど地方が活性化しそうですね。
まさに仰る通りです。本当の意味で地方を救うことができるのは、その土地に根ざした人々です。
地方の特徴は色々あるとは思いますが、まずは自分たちで変えていくという気概を本人たちが持たなければいけないと考えています。
それが積み重なっていけば、本当に価値のあるものを生み出している地方の人たちが正しく評価されるようになるはずです。そうすれば地方に適正なお金や人が流れていく社会に変わっていくのではないでしょうか。
その最初のモデルケースを静岡で創っていきたいですね。
(取材:林広恵、上田裕、構成:飴屋)

佐々木紀彦氏からのコメント

新村さんの魅力は、とにかく粘りがあることです。
創っては、改善し、動いては改善する。失敗を恐れずに、自らの限界に挑む生き様に、私自身も刺激を受けています。
もう一つの強みは、クリエイティブとビジネスを融合できること。経営者として、クリエイティブとビジネスの絶妙なバランスを見出すのが巧みです。
新村さんが静岡で挑戦しているモデルは、他の地域にも展開可能だと思います。ぜひ静岡で成功モデルを創って、それを日本中の仲間とともに広げて、日本のローカルをどんどん盛り上げてもらえればと思います!
静岡の食をテーマにしたWEBメディア「ペロリ
静岡の生産者や飲食事業者、地域活性化への取り組みなどの情報を全国に発信する地域メディア。厳選した名産品の販売なども行っている。

静岡の日本酒の可能性を広げる「静岡県日本酒研究会
静岡の酒蔵と協業し、日本酒を熟成し販売するプロジェクトなどを実施し、日本酒の可能性を追求する地域事業者連携の団体を運営。