2021/10/18

マイクロソフト流。営業の本質はもう、売ることではない

NewsPicks Brand Design editor
 テクノロジービジネスは、クラウドの登場で劇的に変わった。高額なシステムを膨大な時間をかけて開発し、多額の売上を得るモデルは減少し、SaaSなどのクラウドを従量課金制で提供するサブスクリプションモデルが主軸となった。

 そんな今、もはや営業の仕事は、売ったら終わりではない。いかに顧客との関係を築き、長期的に支援し続けられるかが勝負になる。その潮流のなかで、 “人中心”をキーワードに法人営業組織を作り上げてきたのが、日本マイクロソフト株式会社(以下日本マイクロソフト)だ。

 日本マイクロソフトが貫く、“人中心”の営業とは何か? その姿勢を具現化するために、どんな体制を築いてきたのか? 日本マイクロソフト法人営業部門の責任者を務める五十嵐毅氏と手島主税氏へのインタビューから、ひもといていく。

変革を支援するなら、まずは自分から

──マイクロソフトと同様、ITサービスを手がけるテクノロジー企業から転職を決めたお二人。何が決め手だったのでしょう?
手島 成熟した企業であるにもかかわらず、変化を恐れずに変わり続け、成長し“続けている”こと。それが、日本マイクロソフトに入社する決め手になりました。
 一般的には、企業の規模がある程度まで拡大すれば、組織は成長の壁にぶつかるもの。ですがマイクロソフト本社は創業から46年が経ち、社員数がグローバルで18万人以上在籍する今でも、飛躍的に成長している。
 その要因は、一にも二にも、マイクロソフト自身の大変革。
 企業ごとの一括契約モデルから、お客様の成功を軸としたコンサンプションモデルへの変革はもちろん、新たな企業文化の醸成を目指したコラボレーション型の働き方への変革も、グローバル規模で実践してきました。
 それらの変革を外から見ていたなかで、お客様に成長や変化を説きたいならば、まずは自分が変革の渦中に身を置くべきだろうと。
 変革し続けるマイクロソフトであれば、自分自身を成長させられると確信し、入社を決めました。
──五十嵐さんは、どんな背景から入社を決めたのでしょうか?
五十嵐 営業の視点から考えると、お客様の成功を支援するソリューションを、1から10までひととおり持っていることは、日本マイクロソフトで働く大きな醍醐味です。
 DXの重要な論点の一つにあるのは、企業にバラバラに保存された多種多様なデータを、どう整理・活用していくか。現状多くの企業では、データは社内システムやクラウドなど様々な場所に点在してしまっています。
 この課題を解決するのが、私たちのようなITソリューションを持つ企業です。
 ですが、多くの競合他社のサービスは「顧客管理は強い、でもクラウドサービスは持っていない」というように、提供するサービスに偏りがあります。
 一方でマイクロソフトは、Microsoft 365などのフロント系ソリューションから、AzureやDynamics 365などのバックエンド系ソリューションまで、データが存在するすべての場所に対してサービスを持っている
 だからこそ我々セールスパーソンは、それらのサービスをお客様にとって最適に組み合わせてご提案できる。この全体感を持つ企業で営業ができるのは、非常にやりがいがあります。

営業の役割が根本から変わった

──実際に入社してみて、日本マイクロソフトで法人営業として働くユニークな点はなんだと思いますか?
手島 最も共感しているのが、“売って終わり”ではなく、お客様の変革に伴走し課題を一緒に解決しようとする姿勢です。
 これまでのIT業界の営業は、「こんなサービスを開発したから、こう使ってください」というように、プロダクト起点で発想することが多かった。
 ですが私たちが中心に据えているのは、そのプロダクトやサービスによってお客様にどんな価値を提供できるか、という顧客起点。言い換えれば、人を中心に考えた営業をしています。
 そもそも営業の役割自体も、「モノを売るだけ」から、「サービスを組み合わせて提案し、お客様と一緒に変革する」という風に、根本から変わっています。
── “人中心”の営業姿勢を掲げても、実践まで落とし込むのは至難の業です。日本マイクロソフトのような大企業で、どのようにその姿勢を浸透させるのでしょうか。
五十嵐 もちろん、簡単ではありません。ですが私たちの法人営業の組織は、お客様の本質的な課題解決に寄り添えるよう、デザインされていると考えています。
 まず簡単に日本マイクロソフトの法人営業の組織をご紹介すると、私が担当するエンタープライズ事業本部と、手島が担当するクラウド&ソリューション事業本部の二つから成っています。
 エンタープライズ事業本部は、大きな戦略を描く部門。業界を俯瞰的に分析し、お客様のゴールに対して、マイクロソフトが持つソリューションをどう最適に組み合わせて提案できるかを考案しています。
 一方でクラウド&ソリューション事業本部は、ゴールにたどり着くための具体的な戦術を描く部門。Microsoft 365やDynamics 365といったソリューションの一つひとつを深く理解しています。
手島 さらに、日本マイクロソフトにはカスタマーサクセスのチームもあり、サービス導入後もサービスを“使い倒して”いただけるよう、万全のサポート体制を敷いています。
 これら部門の連携により、お客様の置かれた状況を複合的に理解し、適切なサービスを提案できるほか、サービスを導入した後も気持ちよく使い続けていただける。それが結果的に、お客様のDX推進に繋がります。
 “我々起点”の営業による、ミスマッチを避ける。これを目指して、5年前に営業組織の改革を行い、今の体制が出来上がっています。
──日本マイクロソフトのサービスが顧客のDXを推進している事例には、どんなものがあるのでしょうか?
五十嵐 ヤマト運輸様のE-Commerce事業者向けの新配送サービス、「EAZY」がありますね。EAZYは、非対面での受け取りニーズの多様化に対応し、利用者が荷物を受け取りたい場所を指定できるサービスです。 受け取り場所は、直前まで変更可能です。
 これを実現するには、E-Commerceの利用者、事業者、配送事業者をリアルタイムに繋ぎ、デジタル情報を安全に共有する必要がありますが、これはAzure上に構築されたシステムによって実現されています。
Getty Images / RossHelen ※写真はイメージです。
手島 この事例のポイントは、単にマイクロソフトのサービスを使っていただいて良かった、という話ではありません。我々のサービスを導入していただいても、新しい成果が何も生み出せなかった、では意味がない。
 我々のサービスによって顧客接点が増えた新しい事業を生み出せた、というところまで支援して初めて、日本マイクロソフトがお手伝いする価値が生まれるのです。
 まさにこれが、DXの本質ではないかと考えています。

売上より重視されるのは「利用率」?

──営業社員側からすると「サービスを売ったか」は数字として見えやすい一方で、「顧客に寄り添い、ビジネスを前進させたか」は測定も判断も難しい。どのように社員の目標設定や評価を行っているのでしょうか?
五十嵐 おっしゃる通り難しいのですが、そこはデータを活用しながら、評価制度や組織カルチャーを構築しています。
 たとえば法人営業の部門における評価には、サービス導入後にきちんとお客様に貢献できているのかを測る指標として、「サービス利用率」が重視されています。
 いくらご契約金額が大きくても、導入後のサービス利用率が低ければ、社員の良い評価には繋がらない。
 だからこそ社員にも、お客様がもっとサービスを使いこなし、課題解決ができるように寄り添っていこう、という意識が醸成されるわけです。
手島 さらに法人営業部門に共通する組織カルチャーに、コラボレーションを重視する姿勢があります。
 その理由も、これまでお話ししてきた内容と同じ。お客様が自社の課題を本質的に解決しようと思ったら、一人の頭から絞り出すより、全社の知見を結集する顧客志向型のコラボレーションが大事になると思います。
 そう考えると、営業の、そして社内のオーケストレーション力がとても重要です。ただ、こういった指標も客観的に測りにくいもの。
 そこで日本マイクロソフトでは、社内でどれくらいの人とコラボレーションしながら仕事をしているのかを可視化しているんです。
Getty Images / ferrantraite
 ちなみに一人の社員が1週間に関わっている人数の平均、どれくらいだと思いますか?
──1週間だと、20人くらいではないでしょうか……?
手島 それが、73人なんです。この数字、驚きですよね。このように、部署間の垣根を低くして、社員が協力してお客様の課題解決に向き合うカルチャーが醸成されています。

ルールよりも選択肢を

──なるほど、面白い。一方で営業と聞くと、仕事のリズムが不規則、拘束時間が長いといったイメージを持つ人もいるかと思います。働き方という側面で、日本マイクロソフトはどのようなスタンスを持っているのでしょうか?
手島 当社で制度を作るときに重視しているのは、「誰もが自分たちの最適な働き方を、主体的に選択できる」ということです。
 当社でも以前は、育児と仕事のバランスを取りたい社員向け、という風に、特定の社員のみを優遇する制度を作っていました。
 ですが、重要なのは特定の方の救済措置ではなく、社員全員がお互いを尊重し、共感できる文化にすること。さらに、それぞれが置かれている異なる環境において、最適な働き方を選択できること。
 ダイバーシティ&インクルージョンを最も大事にしている企業ですが、社員一人ひとりが価値を感じながら働ける文化作りを、企業として推進しています。
五十嵐 日本マイクロソフトでは、女性社員のみならず、女性管理職も業界水準よりも多く活躍しています。
 また女性社員に限らず、組織変革の実現のため、多種多様な社員に活躍してもらえるよう、マネージャー陣への研修や、ダイバーシティ&インクルージョンについて対話する機会も多く用意されています。
 さらに特徴的なのは、自由度が高い分、教育やコンプライアンスは徹底的に行っていること。多種多様な方々とOne Teamで働くことの価値を理解し、さらに推進させようと、グローバル規模で率先している会社だと思いますね。
──現在お二人が所属する法人営業の部門では、新たなメンバーを募集しています。どんな人と一緒に働きたいですか?
手島 日本マイクロソフトには、毎年新たな職種が生まれています。これは、まだ世の中には存在していない新たな価値の創造(専門性、職種、文化、人材育成)の一環として、活躍のフィールドが用意されていることの表れだと考えています。
 一番重要なのは、自分の成長を体感できる環境、仲間、そしてそれを尊重する文化がある企業であることですから。
 また、これからは人間性の重要度が、さらに増していく時代になります。
 その意味では、自身の専門分野において先見性や強い想い、価値観を持っている人には、日本マイクロソフトは最高の経験ができる環境だと思います。是非、共に日本の変革に従事できる仲間をお待ちしています。
五十嵐 20年以上前、インターネットが一気に普及し出したときに、様々なメディアがこぞって「20年後には地球上から営業がいなくなる」という記事を出したんです。
 でも我々は、年々大幅に増員しています。誰でもできる営業ではなく、存在価値のある営業は、今まで以上に求められていくと確信しています。
 圧倒的な価値を生み出す仕事をするのは、もちろんすごく大変です。私たちも、毎日試行錯誤しながら進んでいます。
 でも私たちはこの仕事を通して、日本を変えるお手伝いがしたい、変えられる可能性があると本気で思っています。そこを目指してくれる方と、是非一緒にお仕事したいですね。
※取材は、2021年9月に行いました。