岡村

株主資本比率10%割れが迫る

ソニーの下方修正は必然、復活のヒントはデジカメ

2014/9/25
ソニーは9月17日に、今期の純損失が2300億円に達すると発表し、業績予想を下方修正した。「終わった」「もう復活できないのか?」など、厳しい見方が広がる中、低迷の原因や復活の可能性について、エレクトロニクスに詳しいアナリストの和泉美治氏が解説する。(本記事は、証券アナリスト集団・Longine編集部とのコラボ企画です)

下方修正よりサプライズだった無配決定

ソニーが経営再建中であったこと、今期はもともと赤字予想であったことから、実は、私自身は、今回の下方修正予想自体には、さほど驚きはなかった。むしろ、驚いたのは無配を決定したことだ。

このタイミングで無配を決めたことで、18日のソニーの株価は一時的に前日比10%以上下落した。株価がQ1決算から下方修正発表当日までに20%強上昇していたことに加え、無配転落のニュースで財務への懸念が急浮上したと推測できる。

ソニーは、リーマンショックがあった2009年3月期から6年間で5回もの最終赤字を計上しており、赤字額の合計額は9840億円に達する。このため、2008年3月期に28%だった株主資本比率は2014年3月期には15%に低下しており、今回の下方修正でさらに13%まで低下が見込まれる。同じようなことが繰り返されれば、危機的水準と言われる10%を割り込むのは時間の問題だ。再建のため、残された時間はあまりない、と考える。

出所:SPEEDAより筆者が作成(予想純利益は会社予想、株主資本比率は筆者)

出所:SPEEDAより筆者が作成(予想純利益は会社予想、株主資本比率は筆者)

下方修正が続くのはなぜか

そもそも、なぜ、ソニーはここまで下方修正が続くのか。

2014年3月期は、3回の下方修正を行ったが、1回目(Q2決算発表時点、2013年10月31日)は、デジカメ、パソコン、液晶テレビ、イメージセンサが理由とされ、2回目(Q3決算発表時点、2014年2月6日)はスマホ、パソコン、オーディオビデオ、電池が問題であり、3回目(Q4決算発表前、2014年5月1日)は、パソコン、光ディスク事業が要因だった。

これまでの下方修正要因は多岐に渡る。その背景にあるのは、製品普及率の上昇による市場の成熟化・コモディティ化、代替製品の出現による市場の縮小、グローバル競争の激化という変化に対して、ソニーが追い付くことができていないことだろう。

もうスマホは稼げないのか

そして今回の下方修正はモバイル事業、つまり、スマートフォンが原因だ。今回の下方修正の要因であるモバイルコミュニケーション分野の営業権の減損リスクについては、7月31日に発表されたQ1決算(4-6月期)の時点で、会社側も指摘していた。

また、ソニーの決算説明会資料には、“親切に”各セグメント別に営業権の簿価が記載されている。このため、減損が実施された場合の赤字額はある程度、推測することができた……ということは、知っておいてよいと思う。

では、ソニーのスマホ事業は、もう稼げないのか。

これまで世界のスマホの二強はアップルとサムスンだったが、最近では中国でも小米科技(シャオミ)などの有力企業が育ちつつある。このため、これまでは二強の一角であったサムスンも失速の兆しが見える。

アップルは、ハイエンド市場でのブランドを確立していることに加え、コンテンツやアプリを収益化するエコシステムが完成しているため、当面は安泰だろう。

一方、サムスンやソニーは、ハイエンド市場でのアップルとの戦いに加え、ミッドレンジ以下の市場での中国メーカーとの競合にさらされるため、苦戦が続く可能性が高いと見られる。

浮上の可能性はあるのか

こうした状況で、ソニーに浮上の可能性はあるのか。

リーマンショック以降、日立、パナソニック、シャープなどの他の大手エレクトロニクスメーカーもソニーと同様に業績の大幅下方修正を経験してきたが、最近は業績が安定してきている。これは、変化が激しすぎる事業からの「転地」を進め、強みを活かせる安定分野へ経営の軸足を移したためだ。

これに対して、ソニーは、サムスンも苦戦している市場に留まることを現時点では選択している。ソニーには「転地」という選択肢を選びにくいソニー固有の要因があるからだ。

ソニーには好調時代に築き上げた「販社」や「本社」のコスト負担があることや、パナソニックの「住宅・車載」、日立の「社会インフラ」に相当するデジタル家電製品に代わる事業が少ないためだ。

デジカメ事業を手本にせよ

こうした制約条件のなかでソニーが成し得ることは、(1)粛々と「販社」や「本社」のスリム化を進めること、(2)縮小市場でも収益を上げている「デジカメ」事業のように、液晶テレビ、スマホにおいてもキメ細かな収益管理と地域対応を進めること、(3)医療機器、デバイス事業などの「転地候補先」の事業拡大を加速すること、などになる。

そして、それでもダメな場合は、エレクトロニクスからゲーム、映画、音楽、金融への「転地」というさらに大胆な選択肢も考えられるが、その場合は、さらに多額な事業再編コストが必要となるだろう。

転地を拒みグローバル競争に立ち向かうソニーのエレクトロニクスの経営戦略を、冒頭述べた「財務の悪化」が修正を求め始めている。これに対して11月に発表予定のエレクトロニクス事業の経営戦略がどのように答えるのかが次の焦点と言える。

(構成:ジャーナリスト・治部れんげ 写真:AP/アフロ)