[ワシントン 5日 ロイター] - 国際通貨基金(IMF)のゲオルギエワ専務理事は5日、2021年の世界経済の成長率は7月時点予測の6%をやや下回るとの見通しを示した。債務やインフレ、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)の影響による経済動向の隔たりに伴うリスクを挙げた。

このほか、世界経済は回復しつつあるが、パンデミックが引き続き回復を制限しており、コロナウイルスのワクチンを入手できない国が多すぎるという「ワクチンの大きな格差」が主な障害になっていると述べた。

<世界経済見通し>

ゲオルギエワ氏は、イタリアのボッコーニ大学向けのオンライン講演で、来週発表する最新の世界経済見通しで、先進国の国内総生産(GDP)は22年までにパンデミック前に回復するが、新興国や途上国の多くは回復に「何年もかかる」と予測していると述べた。

米国と中国は依然、重要な成長エンジンであり、イタリアと欧州は勢いを増しているが、その他の地域では成長が悪化していると指摘した。

主要なリスク要因であるインフレ圧力は、22年には大部分の国で落ち着くと予想されるが、一部の新興国や途上国には引き続き影響を及ぼすだろうと述べ、インフレ期待の持続的な高まりは、金利の急激な上昇や金融環境の引き締めを引き起こす可能性があると警告した。

中央銀行は引き締めをほぼ回避できているが、回復が予想以上に早まった場合やインフレ上昇のリスクが顕在化した場合には、迅速に行動する準備が必要だと指摘。資産価格の過大評価などの金融リスクを監視することも重要だとした。

<債務>

世界の債務残高はGDPの約100%に達しており、多くの途上国は有利な条件で新規に債務を発行する能力が限られていると述べた。

その上で、ザンビア、チャド、エチオピアが着手した債務再編が成功し、他の国も後に続くことが重要になると指摘。債務の透明性を高め、健全な債務管理を行い、規制の枠組みを拡大することで、民間部門の参加が促進されるとの考えを示した。

欧州の債務水準上昇については、経済の勢いが増しているため、2007─08年の世界的な金融危機を受けたギリシャ債務危機のような事態は回避できると予想。新型コロナ感染拡大対応に関連した債務の解消について、中期的な財政緊縮策への転換は慎重に実施する必要があると述べた。

<ワクチン・気候変動>

ゲオルギエワ氏は富裕国に対し、途上国へのコロナワクチンの供給を増やし、貿易制限をやめ、コロナ感染の検査や治療に必要な資金200億ドルのギャップを埋めるよう求めた。

先進国と貧困国の間にあるワクチン接種率の大きな差を解消できなければ、世界経済の回復が妨げられ、今後5年間で世界のGDPの累積損失が5兆3000億ドルに達する可能性があるとした。

また、各国は気候変動対策や技術革新の確保、社会的包摂の強化など、経済成長を後押しする取り組みを推し進める必要があるとも指摘。再生可能エネルギーや新たな電力網の導入のほか、モビリティーの「低炭素化」などで、世界のGDPは2020年代に約2%押し上げられ、3000万人の新規雇用が創出される可能性があると述べた。

<デジタル通貨>

IMF加盟国のうち約110カ国が中央銀行デジタル通貨(CBDC)の検討段階にあり、デジタル通貨の相互運用性をどのように保証していくかが主要な課題になっているとの考えを示した。

ビットコインなどの暗号資産(仮想通貨)については、価値を安定的に保つ資産に裏付けられていないため、相場が大きく揺れ動く可能性があると指摘。「貨幣と見なすのは難しい」と述べた。

このほか、各国中央銀行は金融引き締めに関連する方針を明確に伝達する義務があるとの考えも示した。