【岡田兵吾】グローバルトップ企業で学んだ「仕事圧縮術」とコミュニケーションの「3C」

2021/10/23
「NewsPicks NewSchool」では、2021年10月から「グローバルトップ企業に学ぶ、VUCA時代のサバイバル仕事術」を開講します。
プロジェクトリーダーを務めるのは、アクセンチュア、デロイトコンサルティング、マイクロソフトにて24年にわたり、シンガポール・アメリカで事業マネジメントに携わってきた、リーゼントマネジャー岡田兵吾氏です。
開講に先立ち、岡田氏へのインタビューを実施しました。

人生の目標は「ソーシャルチェンジ」

こんにちは、リーゼントマネージャーの岡田兵吾です。
本日は「グローバルスタンダードの仕事術 ~ダイバーシティ時代に必要なスキルとは~」というタイトルでお話をさせていただきます。
私は普段「マイクロソフト シンガポール」で、アジア太平洋地区ライセンスコンプライアンス本部長として勤務しています。
アジアから欧米や南米まで、10ヵ国以上にわたる多国籍なメンバーに囲まれながら、アジア内のライセンスコンプライアンスとデジタル変革の責任者としての業務を日々行っています。
長らく海外での仕事に従事し、大学卒業後に就職したアクセンチュアでは2度に渡ってアメリカに赴任し、シンガポールには17年前から在住です。
人生の目標は「ソーシャルチェンジ」で、世の中を良くしたいという思いから、アメリカやシンガポールでの経験、特に外国人との働き方を日本に伝えることによって、国内の労働環境をより良く変革させたいと考えています。
現在も外国人から見た日本の魅力の発信や、日本と海外の架け橋になれるよう、NewSchoolでの講師をはじめ、大学の客員教授、メディア出演、執筆業なども行っています。
今回はこれらの経験から、日本と世界のビジネス観のギャップや多種多様な同僚たちとの働き方、グローバルコミュニケーションにおける英語術、ダイバーシティで必要なスキルなどを紹介できればと考えています。
岡田 兵吾/リーゼントマネージャー・マイクロソフト シンガポール アジア太平洋地区ライセンスコンプライアンス本部長
アクセンチュア、デロイトコンサルティング、マイクロソフトにて、日本・アメリカ・シンガポールを拠点に24年間勤務。シンガポール移住17年目。NHK Eテレ、TOKYO MXテレビなどメディア出演多数。情報経営イノベーション専門職大学(iU)超客員教授。オンラインサロン「兵吾村塾」主宰。IEビジネススクール・エグゼクティブMBA取得。著書に『ビジネス現場で即効で使える 非ネイティブエリート最強英語フレーズ550』、『残念なビジネス英語』、『武器になるグローバル力 外国人と働くときに知っておくべき51の指針』、『すべての仕事を3分で終わらせる――外資系リーゼントマネジャーの仕事圧縮術』がある。BBTオンライン英会話『聴衆を巻き込むプレゼンテーション革命コース』(2021年10月開講予定) コース開発監修。

こだわりの一つから問題が起こった

まず、日本と世界のビジネス観のギャップから。
私自身、新卒入社したアクセンチュアでは「すぐに動く」「期限を死んでも守る」「常にインパクトを意識する」という3つにこだわって仕事をしてきました。
結果として、アクセンチュアではある程度グローバルでの仕事に携われ、「次は自ら海外に移って挑戦したい」と、17年前にマイクロソフトに転職しました。
ところが、自分としては満を持しての挑戦のつもりでしたが、マイクロソフトで海外での働き方や仕事観の違いを経験することになります。
まず、「期日は死んでも守る」という、自分のこだわりの一つから問題が起こりました。
当時、徹夜覚悟で仕事をしようというとき、部下が帰ろうとしたことがありました。
聞けば、「娘が病気だ」と。
しかし、どうやら普通の風邪で、奥さんも義理の両親も付き添っているようでした。私としては、「それならば問題ないだろう」と考え、そのまま夜中の12時過ぎまで仕事をこなしてもらい、部下の頑張りもあって仕事は無事に期日までに間に合いました。
ところが、その翌日のことです。前日のお礼を言おうと近づいたところ、「次に残業を頼んだら、辞めてやるからな!」と怒鳴られてしまいました。
私としては突然のことで面を食らうと同時に、「えっ、プロフェッショナルなら、二徹や三徹も当たり前だろ?」という思いから驚きもありました。
しかし、実は私が知らなかっただけで、グローバルビジネスの常識として、部下に無理やり残業させるのはご法度。そもそも残業をしていると、上司から「お前は仕事ができないのか」と、力不足と見られることすらわかっていませんでした。
実際、その後は部下に謝罪し、挙句の果てに上司から呼び出され、「誰の許可を取って、そんな勝手なことをしたんだ!」と激怒される始末でした。
それまでの私の働き方は、完全に日本の昭和型。自分ほど働いた人間はいないと、自ら“戦場の狼”と豪語するほどでしたが、グローバルで真に評価される働き方をそのときはじめて意識させられました。
グローバルでは、アクセンチュア時代に意識していた3点に加え、「仕事をグッと圧縮をして残業をなくし、仕事のスピードと質を最大化」していかなければならなかったのです。仕事の圧縮はシンガポールで働きながらも最初はうまくいかず、多くの苦労もしました。
ただ、数年に渡って仕事圧縮術を磨いてきた結果として、今はマイクロソフトで働きながらも様々な活動ができる状況にまでなっています。
写真:lena_serditova/istock.com

グローバルと日本の英語のギャップ

そして、グローバルと日本の英語にギャップがあるとも気付かされました。「英語が話せる」「話せない」という以前に、そもそも違いがあるということです。
私自身、アクセンチュア時代にアメリカで働き、それなりに英語ができるという評価を受けて転職しています。当時はアクセンチュアで得た成果を磨き、さらなる成功を収めてやろうと、大望も抱いていました。
ところが、そこから待っていたのは、言葉にするのもつらいほどの寂しい人生でした。
なにしろ、まず英語が聞き取れません。その原因は、相手が私の理解できるように話してくれなくなったからでした。
アクセンチュア時代は日本企業が海外進出するときも、欧米企業の日本進出のときも、すべて日本のマーケットを軸に考えられていました。そのため、まず私が理解しなければ仕事もはじまらないため、実のところ、仕事相手は私が理解できるまで丁寧にゆっくり話してくれていました。
しかし、シンガポールでは60ヵ国以上から社員が集まり、誰もが私の理解などに配慮することなく、容赦ないスピードで話してきます。さらに現地の英語は“シングリッシュ”と呼ばれるほど、独特の訛りの強い発音です。
会話の内容をまったく聞き取れず、地蔵のようにただボーッとするだけ。その結果、「発言しないんだったら会議に出るな!」と、実質クビ宣告まで受けてしまいました。
それからは必死の日々です。どうにか英語を学びクビを免れながら食らいついていき、途中でエグゼクティブMBAも取得しました。そして、英語とビジネススキルを磨き、「さらなるキャリアアップだ」と、またも転職します。
次の転職先は、デロイトコンサルティング東南アジア。ところが、今度は1年2カ月に渡って売上が立てられませんでした。
上司たちには転職時に、「俺はMBAも取っているから、ビジネスも引っ張って来られる」と豪語しておきながら売上は一切立ちません。来る日も来る日も売上ゼロ。もう驚きすらないほどです。途中からは費用に見合わないと、カラーコピーも禁止されました。
寂し過ぎて話したくないエピソードですが、当時はシンガポールからマレーシアまで高速バスで移動しました。距離にすれば東京・大阪間ほど。
格安航空で簡単に行けるのにも関わらず、売上が立たない引け目から、高速バスで移動して宿泊も友人宅に泊まるしかありませんでした。
マレーシアに着いてから、同僚には「ヒョウゴ、本当にここまでバスで来たのか?」と驚きとも呆れとも取れる反応を受けたほどです。

英語人口の8割は非ネイティブ

ただ、苦労をしながらも、その後に復活を果たすことになります。今回は英語面だけに特化しますが、英語に関する誤解を知ったことが転機となりました。
私は非ネイティブで、大学も工学部卒です。英語ができないのも当初は、「社会人になってから勉強をはじめたからだ」と、スタートの遅さだと思い込んでいました。
しかし、周囲を見ると、ベトナム人や中国人、タイ人、インドネシア人たちが発音に癖はあるものの、仕事に支障はなさそうに英語でコミュニケーションを取っています。
「みんなはうまくいっているのに、なんで私はうまくいかないのか」と悩んだ末、彼らのコミュニケーションの仕方をじっくり観察していると、多くのことに気づかされました。
まず、英語を話せる人自体、世界的にかなり少ないと知りました。実は世界の5人に4人は、英語が話せないとされています。しかも、ある程度理解できる5人の中の1人に、私たち日本人が当てはまっていたりします。
そもそも流暢に話せるかどうか以前に、ある程度の英単語がわかる人すら世界的には少数派。現代ではアメリカですら、移民の多さを背景に10人に1人は英語に不安があるとされているほどです。
その上、英語人口の8割は非ネイティブという事実です。実際にインドや東南アジアはもちろん、フランスをはじめとするヨーロッパの多くも非ネイティブにあたります。
ほかにも、私たちが英語を話せないことを、勝手に恥ずかしがっているという気づきもありました。
多くの人と同様にかつての私も、下手な英語を話すと馬鹿にされそうだという意識を持っていました。
ところが、世界で何が起きているかを考えてみると、「黒人差別をするな」「女性差別をするな」という運動。そのなかに、「英語ができない人を差別するな」という考えも含まれています。
世界的には私たちの恥ずかしがっている意識より、「英語を話せなくても叡智はある。彼らも一緒に巻き込もう」という、まさにダイバーシティ&インクルージョンの考えが主流です。
私たちは英語を話せないことを恥ずかしがっていても、実は喜んで聞いてくれる相手がいたわけです。
そもそも、私たちは高レベルの英語を駆使しようとしがちですが、非ネイティブのコミュニケーションを観察していると、簡単なフレーズやポジティブで丁寧な言い回しを頻繁に使っていることがわかります。
縦社会の日本では、相手の役職や年齢によって言葉遣いも変えますが、海外はフラットな横社会です。立場にかかわらず相手を慮る文化があり、特に非ネイティブの場合は英語の語彙力が稚拙な分、より丁寧なコミュニケーションを心がけているようでした。
たとえば、ビジネス英語で「問題に直面しています」と報告する時のこと。日本人の感覚だと、「I have a big problem」で間違いないと思うところです。
ただ、「problem」はニュアンス的には解決が困難な深刻な問題を指します。「problem」という単語を聞くと、相手は「えっ! そんなに大きな問題が起きたの?」と感じたりします。
その点、「I’m facing a big challenge」など、「challenge」を使うと言葉通りにニュアンスも挑戦的で、なんとか乗り越えられるイメージを与えられます。この単語の使用で、「問題が発生したものの、前向きに乗り越えますよ」という印象になります。
f写真:ranckreporter/istock.com

えっ、日本って小さいか?

次に紹介するのは、グローバルにおけるコミュニケーションギャップです。例えば日本は内需の国と言えますが、エネルギーと衣食住を見ると、お米以外はほぼ海外から輸入している現状があります。
一方、ものづくりの国として海外に製品を輸出しているのかと言えば、先進主要国の中で輸出依存度は下位に沈んでいます。また世界主要国での輸出度依存度は、185位になります。輸出度で上位のシンガポールや香港は海外と繋がり、製品をどんどん輸出するビジネスが活発です。
ところが、そんな日本もGDPでは、アメリカと中国に次いで世界3位になります。斜陽が叫ばれながらも、まだまだ超経済大国と言えます。
もし外国人と話す際、「日本のビジネスは小さい」「島国だから」と言うと、笑って驚かれるものです。「えっ、日本って小さいか? 大きいよね」と。
よく考えると、日本は人口を見ても世界11位で、私たちが想像している以上に大国と言えます。市場規模も大きく、トヨタ自動車は世界的に知られ、東南アジアに行けばバイクが「スズキ」と呼ばれていたりもします。
今後は人口の減少に伴いGDPも下落すると言われていますが、成長している周辺国は数多くあります。現状のビジネスを保つのであれば、輸出に力を入れなければなりません。そして、そのためには成長市場であるアジアに目を向けるべきで、グローバルにコミュニケーションを広げていく価値も、その必要性も出てきます。
写真:fpdress/istock.com

コミュニケーションの「3C」

とはいえ、現在のコロナ禍では膝を突き合わせた会話はできません。外国人とのコミュニケーションはより難しくなっているため、少しでもグローバルビジネスに生かせるよう、海外の仕事術を把握する意味はあるでしょう。
実際に、海外で一生懸命に話しながらも自分の考えが思うように伝わらない場合、まず「自分の英語が上手くないからだ」と考えがちだと思います。
しかし、私の実体験からも言えますが、英語力以前に、「プレゼン力」や「論理的思考力」が足りていない場合が意外に多くあります。それにも関わらず、英語力のせいだと思い込んでいるケースがかなりあったりします。
私もなかなかコミュニケーションが取れない時期に、「所詮非ネイティブだし、英語ができないから」と思い込み、インド人上司に愚痴のようにこぼしたところ、「お前は十分に英語を話している」と言われたことがありました。
その上司は、「仕事が回せないのは、ヒョウゴが何を考え、どう進めたいのか、自分の中で整理ができずに言語化できていないからだ」と続けました。
インド人は英語がペラペラだと想像しがちですが、英語が話せる人口割合は1割2割程度だったりします。
その上司も大学卒業まで英語を話せなかったようで、シンガポールのマイクロソフトで働き出すと、「何を言っているかわからない」と言われることが多く、非常に苦労したとのことでした。
そこで上司は、Structured Communication(論理的で構造的にわかりやすく伝えるコミュニケーション)を磨き、その際、「Clear(明確さ)」「Crisp(簡潔さ)」「Concrete(具体的である)」の「3C」を意識して伝えるようにしたと話してくれました。
上司の話を聞いてから、私は英語力不足を言い訳にすることはやめて、Structured Communicationと3Cを意識しました。英語でのプレゼンやミーティングの前には話すべき内容を整理し、質問も用意して、自分の考えを簡潔で論理的に伝える練習するようにしました。
また上司はミーティングの後に、伝え方を添削アドバイスしてくれるようになり、思考やバックグラウンドが異なる外国人たちにも、自分の考えを的確に伝えられるようになりました。お陰で、グローバルでの仕事効率が格段に上がりました。
写真:DragonImages/istock.com

英語はTOEICの点数ではない

非ネイティブで活躍している外国人を観察してみると、確かに誰もが苦労しながらも伝え方をマスターしているとわかります。私も今となっては、英語はTOEICの点数ではないと理解できたと言えます。
具体的には、TOEICのスコアは450点ほどあれば十分で、あとはいかに「グローバルの仕事術・型」を覚えて、コミュニケーションテクニックを身に付けることの方が重要になってきます。
最後に全体の総括としては、グローバルビジネスには、英語力以外も確実に必要とされます。それらはグローバル特有のビジネス思考であったり、リーダーシップやマネージメント手法、異文化間の相違とグローバルな常識の理解などがあたります。
現代の先行き不透明なVUCA時代においては、専門家もコンサルタントも経営者も、未来への明確な答えは持っていません。そして、未来を見通せないのであれば、個人で生き抜く力を身に付けていかなければいけないはずです。
現代においては、企業や市場から必要とされる、価値のある人材になれるかどうかが、最上のサバイブ術と言えます。
私自身も海外で働きながら、グローバル企業で次々と同僚のクビが切られていくのを目の当たりにするなか、それでも生き残っている人材はなんらかのマインドセットや処世術、仕事術を持っていると知りました。
やはり、企業組織が手放さない人材は、最大限に成果を上げるために、スピードと質を高めるための手法を知っています。その上、周囲を自然に巻き込むマネージメント術も備え、人の心を打つ言葉と仕事術でリーダーシップを取っている場合がほとんどです。
私がそれらを紹介することで混沌とした時代を生き抜く武器になるならばと、「VUCA時代のサバイバル仕事術」をテーマに、NewSchoolの第6期プロジェクトを始めることにしました。
私の現在の夢は、「ソーシャルチェンジ」の一つとして、2500万人のグローバルリーダーの育成になります。
そして、ビジネスにおいてよく語られる二八の法則という経験則があるように、日本の1億2700万人の20%が、リーダーとして高い志を持てば世界は変わるはずだと信じています。
ぜひ私とこれからも一緒に面白いことを起こしていきませんか。
STAY GOLD!
(構成:小谷紘友)
「NewsPicks NewSchool」では、2021年10月から「グローバルトップ企業に学ぶ、VUCA時代のサバイバル仕事術」を開講します。詳細はこちらをご確認ください。