[ミュンヘン 22日 ロイター] - 未来の自動車技術の最有力候補はバッテリーかもしれないが、劣勢の水素を切り捨てるべきではない―─。こうした見方に立つBMWやアウディなど一部の大手自動車メーカーは、脱化石燃料に向けた準備の一環として、電気自動車(EV)と並行して水素燃料電池式乗用車のプロトタイプ(試作車)を開発している。

今は米EV大手・テスラが低公害車の開発を方向付けているが、政治の風向きが変わって業界のバランスが水素にシフトする可能性を計算し、「保険」を掛けている形だ。

この点で、自動車産業の世界的拠点・ドイツが注目を集めている。既に気候変動目標達成のために鉄鋼や化学などの分野で水素燃料技術に巨額の資金を投じており、今月の総選挙で環境重視の「緑の党」が連立政権に加われば、技術開発に弾みが付きそうだ。

ドイツの自動車メーカーで水素技術への取り組みが最も進んでいるのがBMWだ。2030年前後に市販車を投入する道筋を描き、世界最大の自動車市場である中国や欧州の水素燃料政策の動きも注視する。

BMWは多目的スポーツ車(SUV)「X5」をベースに水素燃料電池車(FCV)「iX5ハイドロジェン」の試作車を開発したが、このプロジェクトにはドイツ政府が資金を一部拠出している。

同社の水素部門を率いるユルゲン・グルドナー副社長は、ロイターの取材に対し、22年に100台近くの試作車を製造する方針だと明かした。「(水素)技術を後押しするのが政治であろうが、需要であろうが、製品は準備する」──。専門チームが、すでに次世代車の開発に取り組んでいるという。

開発は「到達直前の段階にあり、今後10年間で技術開発上の重要な進展があると確信している」と強調した。

独フォルクスワーゲン(VW)の高級車部門アウディによると、VWグループ全体で水素燃料電池を研究する100人強の専門家チームを編成、試作車を数台製作したという。

<ネックはコスト>

ダイムラーのトラック部門、ボルボ・トラックや現代など世界の大手トラックメーカーは水素を有望視している。長距離を走る商用車にとって、バッテリーは重量が重過ぎるためだ。

しかし、触媒を使って水素から電気を取り出す燃料電池技術は、今のところ大衆車ではコストが高いという難点がある。燃料電池は仕組みが複雑で、材料は高価。燃料補給に掛かる時間はバッテリー充電に比べれば短いものの、インフラが不足している。

水素燃料は普及が遅れており、ドイツの「緑の党」のような水素技術を支持する勢力も、脱炭素社会の実現が最も早い手段はEVだと見ている。

ただ、緑の党は船や飛行機の分野での水素燃料の利用を支持し、再生可能な資源からのみ製造される「グリーン水素」に多額の投資をしようとしている。

2015年に発覚したVWの排ガス不正により、ディーゼルの評価は急落。欧州連合(EU)は35年までに化石燃料を使用した自動車を実質禁止する目標を掲げており、一部の自動車メーカーは備えとして水素技術を手掛けている。

ダイムラーは昨年、水素燃料電池を搭載したSUV「メルセデス・ベンツGLC F-CELL」の生産を終了すると発表した。だが、事情に詳しい関係者によると、総選挙後に「緑の党」が閣内に入った次期ドイツ政権や欧州委員会が水素自動車の普及を決めれば、このプロジェクトは容易に復活できるという。

<広がる水素燃料>

以前から水素燃料電池車の開発に取り組んできたのはトヨタ自動車、日産自動車、ホンダ、現代自動車など限られていたが、今では手掛けるメーカーが増えている。

中国は水素供給のインフラを拡大し、長城汽車など複数のメーカーが燃料電池車の開発を進めている。EUも商用車用の水素ステーションの増設を目指している。

BMWのグルドナー氏は、今のところ一般消費者にとって水素技術は高価過ぎると認めるが、トラックメーカーがこの技術に投資し、燃料電池車が大規模に市場に出回るようになれば、コストは下がると見ている。

「未来が排出量ゼロならば、答えは1つよりも2つの方が良いと確信している」と言う。

(Nick Carey記者)