2021/10/6

【新】成功と幸せは結びつかない

九州の中核都市・福岡。いま、この地に移住して拠点を構え、新たな挑戦を続ける2人がいる。
編集者・佐渡島庸平と、起業家・諸藤周平。
佐渡島は、トップ編集者として『ドラゴン桜』『働きマン』『宇宙兄弟』といったヒット作を世に送り出してきた。
諸藤は、17期連続増収増益を達成し、時価総額3700億円へと成長している介護事業者向けSaaS企業、エス・エム・エスの創業者だ。
2人はなぜ、これからの未来を、東京ではなく福岡に見いだしたのか。資本主義システムの中で成功してきた2人の対談から見えてきたのは、ポスト資本主義の「幸せ」という視点だった。
(聞き手はNewsPicks編集長・池田光史)
INDEX
  • 近代化都市の罠
  • 営利と非営利というアプローチ
  • 大自然は、お金でつくれない
  • オンとオフ、ではなく。
  • 幸せの定義
※この特集記事は、8月31日に福岡で開催されたNewsPicks主催の地域経済イベントNew Era, New City」の中から、プレミアムセッションの内容を再構成して、前編・後編の2回にわたってお届けします。

近代化都市の罠

池田 地方都市について語る際、ともすれば「福岡は、次の東京を目指せ」といった話に陥ることが多い気がします。
シリコンバレーのコピーをする東京。そして、福岡がさらにその劣化版のコピーをしていく道は、ちょっと違うんじゃない?という問題提起をしたい。
池田 諸藤さんは、エス・エム・エスを創業され、2008年に上場、現在は17期連続増収増益、時価総額3000億円を超える企業にまで成長しています。
諸藤さん自身は、2014年にトップを早々に退任され、バトンを引き継いでいるのもすごいことですが、REAPRAグループというまったく違う会社を新たに創業されました。
簡単にいうと、いま、何に取り組んでいらっしゃるのでしょう?
諸藤 私は福岡県春日市の出身で、大学まで福岡にいました。その後、大阪、東京と2年間、社会人をした後、エス・エム・エスを起業し、11年間、東京で仕事をしていました。
エス・エム・エスから退く際、次にやることは明確には決めていなかったのですが、そのまま東京にいると、また会社に戻りたくなるなと思い、逃げるようにシンガポールに行ったというのが、福岡に来る前、2014年の話です。
諸藤周平(もろふじ・しゅうへい)REAPRAグループFounder & CEO
エス・エム・エス創業者。2008年上場。17期連続増収増益を達成し、時価総額3000億円企業へと成長。自身は2014年にトップを退任。2014年より、シンガポールでReapraグループを創業。100年続く事業の創出と、リーダーの育成に取り組む。2021年4月、糸島に拠点を設立。1977年生まれ。九州大学経済学部卒業。

諸藤 英語もままならない状態で、家族と一緒にシンガポールに移り住み、当初は、触れたことないカルチャーに触れ、楽しくやっていました。
しかし、自分は東南アジアのカオスの中で冒険できている一方で、ふと、プールとコンドミニアムとモールを中心に遊んでいる自分の子供たちを見たときに、シンガポールという強く構造化された社会は、果たして自分の子供にとってよいことなのかと疑問に思ったんです。
全部カメラで見られている、ルールを破ったらすぐ捕まる。そういった、ちょっと過剰に管理されている国で育つと、子供たちは、「ルールを破る」、ましてや「ルールを作る」という発想さえ生まれないんじゃないか。
僕自身、色々な好奇心がありますが、それは小さい頃に、福岡で秘密基地を作ったり、自然を見たり、社会のなかで年齢に応じて必要な経験を幼少期に経たことが、今の好奇心を生み出しているのではないかと思ったんです。
そこで思い切って、家族と一緒に、元々の故郷の福岡に戻りました。そうしたら、福岡はすごく快適でした。おまけに、パンデミックが起こって今は出張もなくなったのですが、ほぼリモートで仕事はできています。

営利と非営利というアプローチ