2021/9/22

【解説】どうなる?クリエイティブ「総運用」時代のマーケティング

NewsPicks Brand Design Editor
 あらゆる顧客接点がオンラインとつながり、計測が可能になる。そして、計測が始まった瞬間に、否が応にも最適化へ向けた運用は始まる。

 顧客接点に存在するあらゆるクリエイティブは“数字”で可視化され、デジタルマーケティングの常識を変えている。

 デジタルマーケティングの主戦場の代表格であるプラットフォーマーのFacebook Japan、ヤフー。そして、マーケティング動画クラウドサービスを運営するリチカ。

3社による、デジタルマーケティングとクリエイティブの今後への考察を紹介する。
INDEX
  • 「認知か」「刈り取りか」はもう古い?フルファネルを狙え
  • 認知から刈り取りまで。フルファネル時代の動画の役割
  • フルファネル時代の動画活用① | 動画クリエイティブの条件
  • フルファネル時代の動画活用② | クリエイティブ起点でターゲットを発見する
  • フルファネル時代の動画活用③ | 経営視点でKPIを設定する
  • 運用型動画広告がもたらすマーケティングの未来

「認知か」「刈り取りか」はもう古い?フルファネルを狙え

 ヤフー株式会社 販売推進部部長の宮村 壮氏は、マーケティングにおいて重要な概念のひとつ「ファネル(漏斗)」の捉え方が業界で変容しつつあることを指摘する。
 ファネルとは、消費者のブランド・商品に対する興味・関心度を段階的に捉える考え方のことだ。
 興味・関心が顕在化していない層(アッパー)に対しては、訴求商材を“認知”してもらうアプローチを行い、興味・関心度の高い顕在層(ロウアー)に対しては訴求商材を購入してもらう“刈り取り”のアプローチを取る。
 “認知”と“刈り取り”、この2つが広告業界での大きな軸として捉えられるケースが多い。
 しかし、「このような2極化した考え・アプローチは少しずつ見直されるフェーズに差し掛かっているのでは」と宮村氏は述べる。
2015年にYahoo! JAPANに入社して以来、約6年間同社のマーケティング部門に従事。大手総合広告代理店 及び 旅行業界・不動産業界・化粧品業界など複数の業界の大手広告主の営業担当を経験した後、2018年より営業企画職へ。メディア会社、調査会社、制作会社など多数のパートナー企業との共同商品開発を責任者として推進した後、2019年に同部門の部門長に就任。2020年より同社における動画広告プロジェクトの責任者として動画広告領域の戦略策定・商品企画・営業企画を担い、株式会社リチカと共同プロジェクトを実行。動画クリエイティブのソリューション提供を進めている。
宮村「直近では“認知(アッパー)”と“購入(ロウアー)”の中間にあたる“ミドルファネル”を重要視される広告主様や代理店様が増えている感覚があります。
 私自身の解釈では“ミドルファネル”を考えることは“フルファネル”で考えるということと、ほぼイコールなのです。
 つまり、“知る”と買う”の間の世界を科学することで真にユーザー行動を一気通貫で捉えることができるということ。
 認知と刈り取りは、比較的分かりやすいからこそ、その2つの領域に局所的になることが多かったと思います。
 しかし、業務のDX化やプロダクト開発に伴う運用業務の自動化など、手法の型化・機械化が進んだことで『複雑だが重要な次のマーケティング』について考える機会が増えたのかもしれません。
 だからミドルファネル(結果としてフルファネル)にどうアプローチしていくのかがトレンドとして上がるようになったのだと思います」

認知から刈り取りまで。フルファネル時代の動画の役割

 従来は、例えばTVCMで認知を広げ、オンラインを受け皿にして獲得するというように、ファネル毎にオンラインとオフラインを使い分けるアプローチなどが一般的だった。
 一方で近年は、ライフスタイルが多様化し、明確にテレビを視聴しない層も生まれている。つまり、オンラインのみで認知から購入までフルファネルに訴求する必要性がある。
 そこで現在需要が高まっているのが動画広告だ。
 Facebook Japan株式会社 パートナーマネージャーの小川絢子氏は、昨今では「動画が重要」という認識が広告主/代理店側にも広がっていると語る。
外資系広告代理店にて広告業界のキャリアをスタート。アカウントマネージメント、メディアプラニングを担当。主に外資系FMCGクライアントのプロモーションに携わる。現在はシンガポールのFacebook APAC本社に在籍中。パートナー代理店、広告主と共にFacebook広告の市場への更なる浸透、パフォーマンス向上に向けた提案とサポートを行う。
小川「これまで動画広告は認知を目的にするものとイメージされることが多かったように感じます。
 その背景には、獲得のためにはABテストをしてPDCAを回すことでクリエイティブを最適化していかなければならない、これを動画で実現するのが難しいということがあります。
 クリエイティブのパターンを複数試したいけれど、動画の場合は制作コストがかさんでしまう。それでやむを得ず、静止画1択になっていたのではないでしょうか。
 しかし、最近では『リチカ クラウドスタジオ』のような動画作成ツールを利用することで、マーケター自身が動画のクリエイティブを複数制作して、ABテストすることも容易にできるようになりました。
動画フォーマットを選択し、素材やテキストをはめるだけで動画作成可能な「リチカ クラウドスタジオ」
 弊社の調査では、獲得目的で静止画と動画を併用すると、静止画のみの場合よりもコンバージョン率が17%向上する、という結果も出ています」

フルファネル時代の動画活用① | 動画クリエイティブの条件

 静止画だけでなく、「動画+静止画」のPDCAによる最適化が求められる時代。
 ニールセンがデジタル広告において購買行動に何が貢献しているか調査をしたところ「クリエイティブ」が47%と半分近い割合を示した。
 では購買につながる最適なクリエイティブとはどういったものなのか。小川氏は次のように語る。
小川「効果の高いアプローチができる動画クリエイティブには条件があります。
 フィード(投稿)広告とストーリーズ広告ではベストプラクティスがそれぞれ異なりますが、我々はFacebook/Instagramの広告配信における『最適な動画クリエイティブの条件』を提示しています。
 さらにこれらの条件に加え、獲得目的のクリエイティブの場合は「理由を作る」ことが重要だと考えています。
 なぜ買うのか、なにが障壁になって買っていないのか。そういったインサイトに向けて、短いクリエイティブの中にインパクトのあるメッセージを盛り込むことが大切です」
 一方で、宮村氏は「実際には推奨している要件を満たしているクリエイティブばかりではない」ことを指摘する。
宮村「媒体特性にあったクリエイティブ配信で、広告認知やブランド認知の効果アップが期待できることは、弊社も調査から証明できています。
 例えば、『サウンドオフでも伝わる動画』にすることで平均18%視聴時間が伸びるという結果が出ています。
 ただ、実際に弊社にご出稿いただいた動画素材を集計すると、これらの基本的な条件を満たしていない事例は多く存在しています。
 『サウンドオフでも伝わる動画』という点においても38%の動画が未対応でした。
 そういった基本的なクリエイティブの条件を満たした上で、忘れてはいけないのが『ユーザーの立場・環境に立って考える』という大前提です。
 先ほどの字幕など視聴環境は勿論、ターゲットによっては興味がない商品の広告を何秒も見ません。
 そのため、冒頭で興味を引いたりベネフィットを入れるなどの工夫が必要です」

フルファネル時代の動画活用② | クリエイティブ起点でターゲットを発見する

 従来のマーケティングターゲットは「M1」「F1」などというように性別、年齢などのデモグラ情報がベースになっていた。
 しかしコロナ禍もあり、ライフスタイルが多様化している昨今においてはその限りではない。
 より細分化されたユーザーの嗜好やシーンでターゲットを捉える必要があり、想定とは異なるデモグラのユーザーが実は潜在顧客であったという可能性も十分にあり得る。
 また、デジタル広告を運用していると購入意欲が高いと思われるターゲットへリーチし尽くしてしまうという事態が起こる。
 そんな時、マーケターは再び「自社のターゲットは誰か」の問いを突きつけられるのだ。
 Facebook Japanではクリエイティブを起点に新たなターゲットを開拓する「Create for GROWTH」という手法を推奨しているという。
小川「最近はFacebook/Instagramの機械学習の精度が高まったため、あえてターゲットを広めに設定することでAIにターゲットの最適化を任せるという方法をおすすめすることもあります。
 広いターゲットに向けて『配送料が無料』『フレーバーが豊富』『オーガニック製法』と異なる訴求メッセージでクリエイティブを配信することで『さまざまなターゲットの購買の“動機”』を発見することにつながります。
 さらにはその過程で、メインターゲットにしていた若い女性ではなく、まったく異なる動機で中年男性がその商品を購入していた、というようなことがわかることがあります。
 つまり、ターゲットを決めて、そのインサイトに向けてクリエイティブを制作するという従来のプロセスとは逆。
 クリエイティブを作成し、そこから新たなユーザーのインサイトとターゲットが見つかることがあるのです」
 「リチカ クラウドスタジオ」を運営する株式会社リチカでも、大量のクリエイティブをもとにPDCAを回しながら、顧客と勝ち訴求を発見するプロセスを推奨している。
京都大学 経済学部卒業後、ネスレ日本株式会社へ入社。「ネスカフェ ドルチェグスト」や「ミロ」のブランド担当として商品開発、リサーチ、コミュニケーション・販売促進企画の開発などを経験。WeWork Japanではブランドマーケティング責任者として、マーケティング戦略の立案から実行までを担当し、国内約30拠点以上のオープン、集客に貢献。ブランディングからマーケティング、新規事業開発まで幅広く経験。Gallup認定ストレングスコーチ。2021年3月、株式会社リチカへ参画、CMO (最高マーケティング責任者)に就任。
田岡「まさに当社でも、お客様には『クリエイティブターゲティング』という戦略をおすすめしています。
 これは、従来以上に細かな顧客ターゲットや、ペインポイント(顧客の悩みの種)ごとに最適化したクリエイティブを開発・量産していく顧客起点のクリエイティブ発想法です。
 これまでのクリエイティブ開発では、仮説やリサーチをもとに商品・サービスの訴求メッセージを絞り込み、クリエイティブを制作していくという手法がとられていました。
 一方、クリエイティブターゲティングでは、その商品・サービスのターゲットとなる顧客や、彼らのペインポイントを従来よりも細かく、高い解像度で洗い出します。
 その細かな顧客ターゲットとペインポイントごとに訴求メッセージを作成し、クリエイティブを量産。その大量のクリエイティブをもとにPDCAを回し、勝ち訴求を見つけていくのです。
 この発想で制作したクリエイティブは、それぞれのターゲットに最適化したメッセージとなっているため、訴求がより深く届き、高いコンバージョン率が期待できます。
 実際、リチカで支援している企業でも、こうした発想で制作したクリエイティブは成果を上げることが多いですね」

フルファネル時代の動画活用③ | 経営視点でKPIを設定する

 クリエイティブを最適化するにあたってはKPIの設定を欠かすことはできない。
 しかし、そのKPIの設定の段階に落とし穴があると宮村氏は語る。
宮村「デジタル広告のKPIは最もわかりやすいので、CPAを置くことが多いですよね。
 でも、CPAを追求しデジタル上のCV目標は大きく達成したはずが、全社売り上げは上がっていない、というお話を広告主様より伺うこともあり、これは目を逸らしてはいけない論点だと思います。
 上記は少し大きな話ですが、要は目の前の数字は本当に意味がある数字か、何を意味するのかを考え抜く視点が必要だと思います。
 動画であれば再生数や視聴完遂率などのKPIがありますが再生数をただ増やすことに一体どんな意味があるかを考え、
 そして『数字の裏側でユーザーの行動がどう変化しているか』までを見極める必要が出てきているように思います。
 例えば、3つのクリエイティブを回した時のCVRを並べ『3つのうち、このクリエイティブは一番効果が良かったです!』という結論も勿論重要ですが、
 『なぜユーザーが反応し、期待通りの行動をとったのか』『ターゲットによって結果は異なるか、その理由はなぜか』まで抽出すること。
 その要因は商材やターゲット設定によっても異なってくると思います。
 そこで初めて顧客の顔が見えてくる。クリエイティブへの反応はユーザーから頂ける最高の手がかりです。
 だからこそ、今後マーケターには要因(=why)を抽出しユーザー像の解像度を上げるスキルがより求められると思います」

運用型動画広告がもたらすマーケティングの未来

 今後は動画広告においても効果検証を重ねながらクリエイティブを最適化していくことが、マーケティングのスタンダードになっていくだろう。
 その前提となるのは、マーケターの狙いをクイックにクリエイティブに反映することができる制作体制だ。
 従来の動画の制作体制では時間とコストがかかりすぎるために効果検証に必要なクリエイティブのパターンをつくることが難しかった。
 Facebook Japan、ヤフーはマーケティング動画クラウドサービス「リチカ クラウドスタジオ」とパートナーシップを結び、共同で広告主へ最適な動画クリエイティブ体制を提案する。
リチカ クラウドスタジオでは、フォーマットを活用することで、誰でも配信面に最適化した動画を作成できる。※動画内の記載は制作当時のもの。
 田岡氏はデジタルマーケティングの今後について次のように展望を語る。
田岡「近年、顧客やメディアは多様化しています。
 テクノロジーによってマーケティング活動は効率化され、それにより顧客や顧客接点ごとのクリエイティブ最適化が可能になりました。
 リチカ クラウドスタジオのようなクリエイティブテックが浸透していき、PDCAが回っていくことで、デジタルマーケティングのクリエイティブはもっと科学されるようになっていくのだと思います。
 お客さんはどういう人で、課題は何で、どんな伝え方をすれば良いか。このようなマーケティングの本質ともっと向き合えるようになるのではないでしょうか。
 言い換えれば、それはクリエイティブを通じてお客さんと対話をするということです。
 何かアクションを仕掛けることで顧客と顧客課題の解像度を高め、理解することは、マーケターの重要な役割のひとつだと思います。
 そして、そのためにも戦略的なクリエイティブの運用が不可欠です。
 そのためには、デジタルマーケティングをクリエイティブ中心に捉え直す。
 そしてクイックに進めるために『戦略・企画・制作・運用』を一気通貫して行うことも、今後の鍵になっていくのではないでしょうか。
 リチカは、リチカ クラウドスタジオのみならず、クリエイティブファーム、マーケティング総合研究所をもっており、企業のデジタルマーケティングに一気通貫して伴走しています」
 テクノロジーの進化によって、静止画はもちろん、動画を含むすべてのクリエイティブがPDCAによる最適化の対象となる未来が、すぐそこまで来ている。