2021/9/7

【深刻】医療ベンチャーの成長を阻む「セラノス事件」の後遺症

INDEX
  • 「風評被害」に苦しむ女性起業家
  • 裁判をきっかけに「醜聞」が再燃
  • 女性起業家に向けられる疑惑の目
  • 資金提供を渋る投資家たち
  • 「ホームズの気持ちもわかる」
  • 「偏見」が可能性を奪う

「風評被害」に苦しむ女性起業家

2018年に創薬ベンチャーを立ち上げ、資金調達に着手したアリス・チャン(32)は、投資家からしょっちゅう、同じことを聞かれた。それは「詐欺疑惑で破綻した医療ベンチャー、セラノス(Theranos)をどう思うか」ということだった。
その話を持ち出すのは、投資家だけではなかった。
スタンフォード大学のイベントで、主催者にセラノスについて話してほしいと頼まれたこともある。あるアドバイザーからは、チャンの会社が話題に上ったとき、居合わせた人々がセラノスをネタにしたジョークで盛り上がったという話を聞かされたりもした。
エリザベス・ホームズの裁判を機に、「セラノス事件」が再び注目を集めている(Jim Wilson/The New York Times)
チャンは当初、戸惑っていた。彼女のスタートアップ、バージ・ゲノミクス(Verge Genomics)は、人工知能を使って治療薬の開発を行っている。病気を発見するための血液検査を提供するセラノスのビジネスとは全く異なるものだ。現在、セラノスの創業者であるエリザベス・ホームズは、詐欺罪で起訴されている。チャンはそうではない。
しかし、このパターンは蒸し返された。バージ・ゲノミクスはその年のうちに資金調達に成功したが、そのときも著名な業界コラムニストが、チャンとホームズを比較する記事を書いた。
チャンのスタートアップが成長するにつれて、ホームズと比べられることはなくなった。だがチャンは、今も同じような話を少なくない女性創業者たちから聞くと言う。「ハードサイエンスの分野で仕事している女性という以外に、共通点はまったくない」にもかかわらず。
バージ・ゲノミクスのアリス・チャンCEO(Carolyn Fong/The New York Times)

裁判をきっかけに「醜聞」が再燃