2021/9/1

【東 哲郎】ニッポンの半導体復活に向けて「20年で維新せよ」

NewsPicks 経済記者
「世界の半導体業界を知り尽くしている男」。
半導体産業界で、そのようにも呼ばれている、東哲郎さん。
半導体製造装置メーカーで世界シェア1~3位の製品群を持つ、東京エレクトロンという企業の「中興の祖」的な存在で、元会長兼社長だった。
世界の技術の最先端を常に走る半導体産業を、製造装置メーカー側から、40年以上、見つめてきた。半導体メーカーの内情にも精通している。
現役の経営者時代(1996〜2016年)には、日立製作所、NEC、東芝、富士通、ソニー、パナソニックなど日本の半導体メーカーはもちろん、米インテル、韓国サムスン電子、台湾TSMCなど海外勢の「巨人」たちを相手に、次々と受注を勝ち取ってきた。
現在は、産業技術総合研究所(産総研=AIST)や物質・材料研究機構(NIMS)、筑波大学などが協力して運営するオープンイノベーション拠点「TIA(ティア)」で最高議長を務める。
東氏は、今年5月に自民党が発足させた「半導体戦略推進議員連盟」(議長は甘利明・党税制調査会長。最高顧問は安倍晋三前総理と麻生太郎財務相)の会合にも呼ばれ、現在進行形で進んでいる日本の半導体産業政策の議論にも参加している。
NewsPicks編集部は、その東氏にインタビューし、日本の半導体産業に対する問題分析、病状の「診断」、そして考えられる「処方箋」について大いに語ってもらった。その全内容をお届けする。
INDEX
  • 日本衰退の原因は「部品屋マインド」
  • グローバルな顧客と「関与」せよ
  • 市場は自ら作るもの
  • 「失われた20年」取り戻すには
  • 「維新」で自己変革せよ
  • 外国の巨額予算から読み取れるもの
  • 活路は「自動化」「データ処理」
  • 「残された市場」はどこ?
  • TSMC誘致で日本が得られるもの
  • 産業界の再生プラン、年末にも

日本衰退の原因は「部品屋マインド」

──まず、日本の半導体産業がここまで凋落したことについてうかがっていきます。東さんはその「本質的な要因」についてどう分析されていますか。
 いくつかの要因が重なっています。
一番の大きな要因は、よく言われることですが、日本の半導体メーカーは「世界標準化(デファクトスタンダード)の主体になっていない」という事実。ひとことで言うと、日本の半導体メーカーが「部品メーカーになってしまっている」ことです。
半導体産業は世界的な「分業」が進んでいますが、日本企業が主導権が取れるような立場に立っていたかといえば、そうではありません。むしろ「従属的な立場」になってしまった実態があります。
東 哲郎(ひがし・てつろう)TIA運営最高会議 議長/1949年、東京都生まれ。1973年、国際基督教大学(ICU)教養学部社会学研究科卒業。1977年、東京都立大学大学院社会科学研究科修士課程修了。1977年、東京エレクトロン入社。1996年6月、代表取締役社長。2003年6月、代表取締役会長。2016年1月、取締役相談役。2019年6月、退任。現在、宇部興産、野村不動産ホールディングス、セブン&アイ・ホールディングスで社外取締役を務める。72歳(写真:佐々木 龍)
もう一つの要因は、台湾や韓国、中国などのように、相当な規模での国家的な後押しがなければいけなかったのに、日本ではそれがあまりありませんでした。