2021/8/25

【新しい教養】日本企業は、サステナビリティの怖さをまだ知らない

NewsPicks 副編集長(サンフランシスコ支局長)
いま日本中の大企業が、ある意味で強制的に、パーパス(存在意義)を考えざるを得ないテーマに直面している。
それが、世界的な機関投資家が進めている「ESG投資」(環境、社会、ガバナンス)のメガトレンドだ。
とりわけ気候変動による事業リスクは、金融業界では最大のトピックになり、業界団体などが日本企業の経営陣にも要求を繰り返している。
NewsPicksは、このESG投資分野の専門家である夫馬賢治氏にインタビュー。
世界最大の企業であるアップルが、なぜグリーン企業に転身したのか。GAFAなどの環境対応から、巨大な投資家たちが全産業に迫る、環境対応のポイントを解説する。

ティム・クックが「屈した日」

GAFAM(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン、マイクロソフト)による、カーボンニュートラル(脱炭素)への取り組みは有名です。
そんな彼らを最初に動かしたのは、実は環境NGOのグリーンピースの報告書です。
あれは2012年4月、グリーンピースはアップルなど、影響力が高まるシリコンバレーの企業たち14社について、環境に対する「勝手格付け」をやりました。
そこでデータセンターの消費電力が、いかに石炭火力や原子力発電に、依存しているかなどを批判したわけです。
100点満点のスコアで、グーグルは39.4点、フェイスブックが36.4点、アップルは15.3点、アマゾンは13.5点でした。
*グリーンピース報告書「How clean is your cloud?」
もともと欧米ではリーマンショックが起きた後、長期的な金融リスクを見つめ直す動きから、金融業界では気候変動が注目を集めていました。
ところが、テクノロジー企業は反応しなかった。「俺たちITだから、関係ないじゃん」というリアクションですね。
そこに「何を言ってるんだ。あなたたちデーターセンターのサーバーは、大量の電力を使いまくってるだろう!」と、報告書でやられたわけです。
またドイツでは、アップルストアにおいて、二酸化炭素を象徴するような「黒い風船」を店の内外に飛ばすという、抗議活動も起きました。
そこに反応したのが、アップルでした。
5日後に、ニューヨーク・タイムズに声明文を出して、まずは報告書の試算がおかしい。電力の使用量が多すぎると反論した。
ところがグリーンピースは、すぐにデータと統計を使って、アップルの環境への取り組みが不十分だという論文を掲載したのです。
(写真:South China Morning Post / Getty Images)
そして報告書から11カ月後、アップルは事業における全電力を100%再生エネルギーに切り替えるという、具体的なプランを公表したのです。
ここからティム・クックは、一気に再生エネルギーの旗手になってゆきます。