[ブリュッセル 3日 ロイター] - 欧州連合(EU)が新型コロナウイルスワクチンの追加発注分に、これまでより高い料金を支払うことで合意した。生産や配送により厳しい条件を課していることや、一部メーカーの価格交渉力が上がっていることが背景にある。EU高官らが明らかにした。

1日付の英フィナンシャル・タイムズ紙は、EUが今年5月に米ファイザー、独ビオンテック両社と結んだ接種18億回分の購入契約で、1回分当たり19.5ユーロ(23.1ドル)の支払いに合意したと報じた。最初の2回の契約(計6億回分)は、この価格が15.5ユーロだった。

同紙によると、米モデルナ製ワクチンの価格は、当初契約の1回当たり22.6ドルから25.5ドルに上がった。1回目の契約は1億6000万回分、今回は3億回分。

イタリア与党「五つ星」に所属する欧州議会議員、ティツィアーナ・ベギン氏は「説明がつかない」と述べ、EUが「ぼったくられている」との認識を示した。

とはいえモデルナの価格は、同社が昨年示した25―37ドルのレンジの下限にとどまっている。しかし、ファイザー・ビオンテック両社は以前、発注量の大きい契約では価格が下がるだろう、としていた。

一方、価格の上昇は正当な理由に根差すものだ、との声もある。最初に契約が結ばれた昨年とは、状況が大きく変わったという。

フランスのボーヌ欧州問題担当相は2日のラジオ番組で、価格引き上げはまだ、交渉中としたが、変異株、生産、配送などの点で、より厳しい条項を設けた結果だと説明した。

交渉に詳しいEU高官の話では、価格が上昇したのはワクチンの有効性が明らかになったことや、景気回復を支える効果が分かってきたからだという。高官は「複数の要因が影響している」と述べた。

<メーカーの交渉力>

欧州で使用中の新型コロナウイルスワクチンは全て良い効果が示されたが、英アストラゼネカと米ジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)製は、まれに血栓を引き起こすとしてEUでの使用が制限された。両社は供給にも問題を抱えている。

こうした中で、ファイザー・ビオンテックおよびモデルナの価格交渉力は上がった。加えてEUがメーカー側に追加的な要求を出しているため、製造・配送コストが増加する可能性が高い。

ファイザーの広報担当は、欧州の価格についてコメントを控えた。モデルナはコメント要請に返答しなかった。EUの欧州委員会は、この記事へのコメントを控えた。

一方、米国は7月23日、ファイザーから1回分当たり24ドル(20.1ユーロ)で2億回分のワクチンを追加購入した。同社が明らかにした。これは、米国が最初に購入した3億回のワクチンの価格19.5ドルから値上がりし、EUが合意したとされる追加分の価格よりも高い。

ファイザーは米国での価格上昇について、新たな製法のワクチンを生産、梱包、配送するのに必要な投資が反映されていると説明。小児科医など、個別の接種を行う場所に適した小型パッケージを製造するための追加費用もかかるとした。

<メイドインEU>

EUは今年5月にファイザーと18億回分の供給契約を結んだ際、ワクチンの製造をEU域内で行うとともに、重要な成分を域内で調達するよう義務付けた。欧州委が明らかにした。最初の契約では、成分については域内調達を義務付けていなかった。

域内に生産を集中すると供給は保証されやすくなるが、コスト上昇につながる可能性も高い。

欧州委によると、新たな契約には「2022年最初の供給からEUへの配送を保証する」ことも盛り込まれている。最初のファイザーとの契約では、期限までに合意した量を出荷するために「最善を尽くす」ことしか義務付けられていなかった。

さらに初期の契約時と大きく変わったのが、変異株の出現とワクチンが変異株に効かないのではないかとの懸念の広がりだ。

EU高官らに取材したところでは、各国政府は変異株に効かないワクチンの購入を拒む可能性がある。一方、企業側はワクチンを早急に変異株に適応させることが期待されそうだが、それには多大なコストを伴う可能性がある。

(Francesco Guarascio記者)