2021/8/1

1億総クリエイター時代。「著作権フリー」でどう稼ぐ?

NewsPicks アナウンサー/キャスター
火曜夜10時からNewsPicksとTwitterで配信中の「The UPDATE」

7月27日は「『著作権フリー』で新たなビジネスは生まれるのか?」と題し、中村 伊知哉氏(iU情報経営イノベーション専門職大学学長)、井上 智則氏(ブシロード法務部長)、齋藤 理央氏(著作権法学会日本知財学会会員/弁護士)、カン・ハンナ氏(タレント/国際文化社会学者)、梶 望氏(ソニー・ミュージックレーベルズ)とともに徹底討論した。
昨今、巣ごもり需要やYouTube、SNSなどデジタル領域の広がりで急増する海賊版コンテンツ。とりわけ被害が大きいのがマンガの海賊版だ。
実刑判決が確定した「漫画村」がネット上から消えてからもなお、新たな海賊版サイトが次々に誕生。ユーザー数上位3サイトの合計アクセス数は、去年1月から今年4月にかけて約14倍に増えていた。その被害額は1年で約2100億円に上るという。
そのほかにも、長編映画をまとめた「ファスト映画」や無許諾の音楽アプリ「Music FM」など、著作権法違反によるトラブルが相次いでいる。
しかし一方で、条件付きで著作権の開放に踏み出す企業も出てきた。
スタジオジブリは過去の作品画像を無償提供し、任天堂はガイドラインを遵守することを条件に、実況動画の投稿や収益化を認めている。
また、作品を無料で提供することで、拡散による認知度向上や広告収入を得るという収益モデルも出てきている。
では著作権の開放でどのようなビジネスモデルが生まれるのか。これからの著作権のあり方を5名の論客とともに議論した。
INDEX
  • SNS時代の著作権との向き合い方
  • 「ファスト映画」は黒だが…
  • 「著作権フリー」でどう稼ぐ?
  • サブスク時代のエコシステムを作る
  • NFTで著作権はどう変わる?
  • 本日のキングオブコメント

SNS時代の著作権との向き合い方

齋藤 以前は著作権というのはプロの方にしか関係していなかったんです。
これが1億総クリエイター時代になって、国民全員が関わってくるようになりました。にもかかわらず、まだ「著作権って何だ」って言う方が多い。
身近な例として、Twitterアイコンに他人が作成した画像を設定しているのも実はアウト。ただ取り締まることはせず見逃しています。だからそこがアウトなのかセーフなのか皆よくわかってないんですよね。
著作権は自分と関わってる問題だということを知らなきゃいけない。
井上  SNSを通じてクリエーターと意見交換できる環境になったものですから、著作権への意識は向上してるんじゃないかと思います。
ただし無料のコンテンツが氾濫している時代ですから、無料だから問題ないという風に違法コンテンツも楽しんでしまう形で、著作権侵害へのハードルも下がってきています。
意識は向上している点もあるけれども、一方で違反をしやすい環境になってしまっている、両局面の部分が出てきています。
カン 韓国コンテンツがこの5年から10年の間にすごい広がり方を見せている理由は、拡大をしなければ、結局は守れないくらいの市場規模になっているからだと思うんですよね。
K-POPのPVは曲のリリースと同時にYouTubeで全編公開されていて、アクセス数は5,000万から1億ぐらいになります。
そこでは違法アップロードもやはりすごく多い。多いんですけど、取り締まるばかりではなく、話題性を作ってその次の収益を生むような戦略を取っています。
梶 うち(ソニー)の某若手アーティストがインタビューを受けていたのを聞いて納得したことがあって。
彼らにとって音楽業界の変遷というものは怖いんです。マーケットが縮小していくんじゃないかとか、将来どうなるのかとか。その変化についての恐怖を聞かれた時に彼らはこう答えたんです。
「音楽ビジネスの歴史なんてたかだか500年ぐらいでしょ。出版から始まり、レコード、テープ、CDと、『再生と淘汰』を繰り返してきたわけでしょ。変化が当たり前なのに、なぜそこまで大人たちが恐れているのかわからない。僕たちは変化が楽しみでしょうがない」と。
我々レーベルとして一番考えなきゃいけないのは、アーティストとファンが両方ハッピーであること。そのためのエコシステムを作るのがコンテンツを預かる会社の使命だと思うんですよね。
やっぱり恐れているだけではだめで、一緒に変化を楽しんでやっていく。そこでみんなのハッピーを考えていくっていうことをやっていかないと、特にエンタメ事業は生き残れない。
中村 著作権が「みんな」が関連するものになったっていうのが一番大きい変化だと思ってます。
10年前までは一部の専門家の話だったんです。それがみんなが音源を利用する・映像を利用するようになった。コピーして発信するようになってシェアするようになった。だから法律で言うと被害者にもなるし加害者にもなりうるってことだと思うんですね。
本当は国民皆が義務教育で勉強しないといけないくらい重要なんです。

「ファスト映画」は黒だが…

奥井 「ファスト映画」に対する見解は?
梶 作品が間違った形で伝わってしまうっていうのは著作権を持っている製作者にとっては一番ショッキングな事なんですよね。作品やクリエイターへの尊厳に関わりますよね。
井上 弊社(ブシロード)も映画を製作しているところもありますので、コンテンツのイメージを保持するっていうところが一番重要で。そういう観点からはコンテンツをどう変化させるかわからないファスト映画みたいなものは受け入れにくい。
齋藤 法律家の見解からすると、ファスト映画は黒ですね。もうそれだけです。
複製した時点で複製権侵害ですし、アップロードしたら公衆送信権侵害です。ファスト映画って当然編集してますよね。これは同一性保持権侵害なので黒ですね。
古坂 「ファスト映画を作りたい」って映画会社に申し出ればいいのでは?
齋藤 権利者全員の許諾があればいいです。戦略的に、ファスト映画作っていいよ、みたいなことはありえるでしょうね。
カン 韓国だとドラマとか映画に対して、解釈だったり、10分とか20分でも見せちゃうっていうことはよくあるんですね。
それに関してはコントロールできないほどになっています。一方で消費者からすれば、2時間の作品の10分を見て映画館に行く人も非常に多かったりもするんですよね。
要するに、全てがデメリットじゃなくってメリット的な役割もしている所もある。問題は、梶さんがおっしゃった通り、どう解釈されていくのか。コンテンツ作りに関しては作り手がそう思ってないことを解釈されてしまうので摩擦が起こりやすい部分ですよね。
中村 ファスト映画が黒だっていうのはもうコンセンサスだと思うんですが、とはいえそこに見たい人がいるからニーズがある。そこのニーズをどうやってビジネスに変えるのか。
勿論、権利をどうするのかって大事な話があるんですけど、どの様にビジネスにしていくかが同時に問われています。
カン まさに韓国が同じことをやってるんですよね。3分とか5分でまとめて公式チャンネルから見せちゃうんですよね。それを導線にして本編を見てもらう。
古坂 問題はコンテンツの結果だけ知りたいって人がいるんですよね。そうなるとちょっと気に食わないですよね。感動する時間すらもったいないっていうね。
 アーティストの近くで仕事をさせてもらって感じるのは、彼らは命を削って曲を作っているんですよね。
1秒、1フレまで悩みに悩んで作ってる姿を見ているだけに、ただただ消費される形として使われてしまうのではなく、作品として楽しんでもらいたいという強い思いがあります。
作品は作品として最初から最後まで見て欲しいし、聞いてほしい。

「著作権フリー」でどう稼ぐ?

中村 これはコンテンツ側の戦略だと思います。
オープンにして広げてファンを増やして別のところで売るのか、クローズドにして著作権で稼ぐのか。メリットは両者ありますが、戦略としてはどちらかしかない。
そういう意味で言うと韓国って先行っているんですよね。いろんなコンテンツをまずその世界に向けてどんどん発信をして、そこにいろんなその他の産業とかを組み合わせて、みんなで稼ぎに行っている。
カン 韓国政府は50億円以上出して、ビッグデータを集めて著作権侵害の事例を蓄積していくシステムを作ったんです。そういう意味でも著作権フリーに対する対応として先行しています。
井上 日本も韓国も良質なコンテンツがものすごく多い。しかもそれが無料で手に入りますよね。
消費者にどんどん発信してもらってユーザーを囲い込んでいくためにも、著作権フリーが活用されていきます。それがユーザーの囲い込みに繋がるように今後はなっていくと思っています。
中村 いままではコンテンツ「を」売っていたのが、コンテンツ「で」稼ぐ方向にシフトしていますよね。
音楽なんかは20年前から無料で聞いてもらってライブとグッズで稼ぐという風になったじゃないですか。CDや漫画を売って。これが成功し過ぎてたんだと思うんですよ。
中村 ではデジタル時代にどう稼ぐかというと、他の産業と一緒になって作るということ。
国内のコンテンツ産業は約13兆円ほどあり、ネットのお陰で4割ぐらいまで増えてきたんですが、まだ世界で3位。アメリカは日本の4倍あって中国の2倍ですから、日本がまだまだ取りに行ける余地はかなりあると思います。
奥井 コンテンツと相性が良いビジネスは?
中村 教育分野においてはコンテンツはどんどん使われるべきですし、日本のポップカルチャーを教材に取り入れられれば、世界の教育市場をおさえられるとも思っていいんじゃないでしょうか。
井上 弊社では、新日本プロレスの楽曲使用を小学校で自由に使ってもらえるようにしました。音源を提供して運動会などといった教育現場で使ってもらえるようにして未来のお客さんを作り、コンテンツ配信の手段も広げていこうとしています。

サブスク時代のエコシステムを作る

梶 音楽を聞いてもらわないとお金が入ってこないわけですよ。まずは音楽を好きになってもらわなきゃいけない。
そのために無料でコンテンツを開放して、一時的に権利を放棄して聞いてもらって、それでファンを増やしてサブスクに戻ってくるエコシステムを実践しないといけません。
今の人たちは音楽コンテンツにお金払ってるっていう感覚はないわけですよね。となると何を払ってくれてるのかってなると、時間を払ってくれてるんです。
梶 昔ならYouTubeにPVをフルで公開しちゃうと「買わない人が出てきちゃうんじゃない」みたいなこと言われたんですね。45秒でおさめてくれとか言われてました。
でももう、フルで同じ日に公開しないと他のサブスクリプションが伸びない。これはもうユーザーがそういう行動をしているってことです。ファンが喜んでさらにその喜びがさらに広がっていくっていうこと。それがサブスク時代のエコシステムの作り方だと思うんですよね。
ですからまずはファンを作ってたくさん聞いてもらって、それがアーティストのお金になって戻ってくるっていうようなシステムを正しく理解して、まず自分たちの音楽を好きになってもらうためにはどうするかっていう事を考えていかなければいけない。
奥井 そのエコシステムの中で、無料開放から有料にするタイミングは?
井上 収益化がカギですよね。グッズなどの関連商品に持って行かせるためのタイミング。
ライブで売りたいんだったらライブに来てもらうためにその音楽に興味を持たせて、それを自由に使ってもらって来てもらうっていう戦略で立てなくちゃいけないので。
カン アーティスト本人がビジネス感覚を持っていないとこれからは生き残れません。
韓国でも売れているアーティストが在籍するレーベルでは教育もしっかりさせています。

NFTで著作権はどう変わる?

齋藤 大いに変わってくると思います。
理想的なあり方としては、使っても違法じゃないけれども、使った分のお金を作者へ回収できるシステムができると良いなと思っています。
やっぱりクオリティの高いものどんどん世の中にでてくると思いますし。経済、文化にとっても良くなっていくと思いますね。
また、AIが作成した作品の著作権に関しては、今まさに議論されているところです。
梶 ここはなかなかレーベルとしてはコメントしづらい部分ですが(笑)。
ソニーミュージックとしてもNFTの研究は進めています。我々としても守りに入るのではなく戦っていかないと広がんないじゃないかっていうところです。
そのためにはアーティストとユーザー両方が正しく楽しめるような事ができたらいいなと思ってます。

本日のキングオブコメント

著作権は、もはや特別な人、一部の人だけが持つものではない。
だからこそ、正しく使い、正しく稼ぐシステムを構築し、ビジネスチャンスを広げていけば、まだ見ぬ傑作に出会えるかもしれません。
番組視聴はこちら(タップで動画ルームに遷移します)