「国民の一般的な宗教的感情」を害したので有罪。孤立出産で死産したベトナム人技能実習生、地裁判決の中身
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書きました。孤立出産で死産したベトナム人実習生のリンさんを被告人とする刑事裁判。熊本地裁は有罪判決を下しました。曖昧模糊とした「国民の一般的な宗教的感情」を害したから死体遺棄なのだという判決。そこで裁判官は何を語ったのか。3つの争点を中心に整理しました。ぜひお読みください。
刑法190条の死体遺棄罪は、刑法第24章「礼拝所及び墳墓に関する罪」にあります。死体の遺棄や損壊は、礼拝所や墓の損壊と同じく、宗教の問題とされています。
遺体を放置することは、傷害罪や殺人罪ではなく、児童虐待防止法への違反でもありません。
遺体の遺棄、損壊の事例は数多くありますが、被告の信仰の有無や内容は問わず、刑法190条が適用されてきました。中には、むしろ宗教的信条から遺体を保管して崇拝の対象としていたような事例もありました。
刑法190条の目的は、「国民の宗教的敬虔感情」という利益を守ることであるとされています。現在の日本で、国民に共有された「宗教的敬虔感情」があるかどうかは、多くの人が疑問を持つでしょう。実際の運用としては、遺体を火葬して墓地に埋葬する、というのが日本国民の宗教的敬虔感情に沿う、と見なされていて、そこから外れる時に刑法190条が適用されます。
この件に関しては、問題はそもそも、技能実習生が妊娠した場合の対応が、制度的に想定されていない、ということです。強制送還、と明確に決まっていた方がまだましでしょう(その場合は、シンガポールでそうしているように、全技能実習生の定期的な健康診断の義務化も必要になります)。そうでなければ、出産・育児休暇とそれにあわせた滞在・就労期間の延長が可能になる、という制度が必要です。
技能実習生の妊娠というのは、望むと望まざるとに関わらず実際に起きているし、必ず起きます。その際にどうするか制度的に整備されていないために少なからぬ死者が出ているのですから、制度の整備は必要でしょう。常識的に考えて彼女は罪人ではないわけだから、無理やり有罪にする理屈を捏ねる検察と裁判官のモチベーションが何なのか気になる。それとも、各種報道が偏っていて、法律論的には有罪せざるを得ないのだろうか。だとしたら、明らかに法の不備では?