[チュニス 26日 ロイター] - チュニジアのサイード大統領が25日、メシシ首相を解任し、議会を閉鎖した。新たな首相とともに、大統領自ら行政権を引き継ぐ考えを表明した。

2011年の「アラブの春」で民主化を実現したチュニジアが、大統領と首相、議会の権限を分けた2014年の新憲法制定以来、最大の政治危機に直面している。

大統領は議会を30日間、閉鎖すると発表。いつ新首相が指名されるのかは明らかにしていない。

大統領の発表を受け、首都チュニスには新型コロナウイルス対策の外出禁止令の発令中にもかかわらず、多くの支持者が集まったが、大統領の行動への支持がどこまで広がるかは不透明だ。

大統領は声明で、今回の行動は憲法80条に則ったものだと説明した。また、暴力的な反応には武力で応じると警告した。憲法80条に基づき、議員の免責特権も停止するとした。

「国民の多くは偽善や背信、人々の権利侵害に裏切られてきた」と訴えた。サイード氏は無所属で、どの政党の後ろ盾も得ていない。目撃者によると、同氏の声明の数時間後に議会議事堂は軍の車両に囲まれた。また、現地メディアによると、国営テレビの建物も軍部隊に包囲された。

一方、議会の第1党であるイスラム政党・アンナハダ出身のガンヌーシ議長はロイターの電話取材に対し、大統領が「改革と憲法に対するクーデターを起こした」と主張。「われわれは政府がまだ存続しているとみなし、アンナハダの支持者と国民は改革を守る」と述べ、大統領側との対決姿勢をあらわにした。

ガンヌーシ氏は国民に対し、クーデターを止めるためにデモの実施を呼び掛けた。また、議会を招集すると表明した。別の政党の党首とモンセフ・マルズーキ元大統領もサイード氏はクーデターを起こしたと非難した。

25日にはソーシャルメディアでの活動家の呼び掛けでデモが行われたが、どの主要政党も支持を示さなかった。人々の怒りはおおむね、アンナハダに向けられた。チュニスにあるアンナハダの本部を襲撃したデモ参加者を排除するため、警察は催涙ガスを使用した。

国民の間には、長年にわたる汚職や行政機能の悪化、失業の増加を受けて政治への不満がたまっていた。さらにコロナ禍が、経済に追い打ちをかけた。

同国が経済・財政危機に直面し、コロナ対策にも追われる中、サイード大統領とメシシ首相は、ここ1年ほど対立していた。

26日午前、議会前では双方の支持者が互いに石を投げ合っている。ガンヌーシ氏も議会前に到着したが、軍の警備で議会内に入れなかった。

サイード大統領の発表後、チュニスなどの都市では多数の支持者が数時間にわたって街頭に繰り出し、花火を打ち上げる姿も見られた。

チュニジアの外貨建て債券は急落している。

憲法の規定では、大統領は外交と国防にのみ直接の権限を持つが、サイード大統領は先週の政府のコロナワクチン接種体制の不備を巡り、軍がコロナ対応の指揮を執るよう指示していた。

憲法を巡る争いは本来、憲法裁判所で解決を図ることになっている。だが、判事任命で紛糾したため、憲法制定から7年が経った現在も、憲法裁は設置されていない。