2021/7/28

【大迫敬介】高1から書き続けた「東京五輪」とさらなる飛躍

U-23日本代表の正GKの筆頭として東京五輪での活躍が期待されるサンフレッチェ広島・大迫敬介選手。20歳にしてサンフレッチェ広島のゴールを守り続け、チームの躍進を支えるその秘密には、明確な目標とアクション、そして観察によって生まれた技術がある。
大迫敬介(おおさこ・けいすけ) 1999年7月28日生まれ。鹿児島出身。サンフレッチェ広島所属。サンフレッチェ広島ユースから2018年トップチーム昇格。2019シーズンはリーグ戦29試合に出場、5月にはA代表に選出され、コパ・アメリカではチリ戦で代表デビューを飾った。東京五輪で戦うU-23代表でも中心選手として期待される。

いつも視界に「東京五輪」があった

──今シーズン、自身のチームをどう見ていますか。
いい入りができたと思います。メンバーが大きく変わったわけではないですし、入ってきた選手も早くからチームに溶け込んでいる。キャンプからルヴァンカップ、開幕戦と良い形で入れましたね。
──ユースからサンフレッチェ広島に所属しています。育成で有名なサンフレッチェですが、最初の印象はどうでしたか。
プロを目指す上ですごくいい環境だと思いました。初めは練習生で入ったんですけど、山に囲まれて自然が多いし、学校と寮とグラウンドの位置関係もサッカーに集中できるイメージが湧きました。他のクラブよりトップチームとの(心理的な)距離感も近いな、と。
あともともとキーパーの育成がうまいと聞いていたので、ここでプロを目指そう、と。
──環境が良いサンフレッチェを選んだとはいえプロは狭き門です。今、お話を伺うと「プロになること」を(サンフレッチェを選んだ)中学生の段階で決断しているようにも聞こえます。
はい。プロになるには大学を経て入団とか、いくつかルートがあると思うんですけど、僕は中学生のときに「ユースの3年でプロになる」と覚悟を決めていました。
──覚悟。プロになれないと疑ったりすることは。
なかったですね。なんとしてでもなりたい、ならないといけないと思っていました。
──それはなぜですか。
僕は鹿児島出身なんですけど、育った地域にはプロサッカー選手がいなかったんです。それで僕がユースに行くと決まったとき、地元のみなさんがたくさん応援してくれました。だから絶対プロになって恩返しをしたいという思いが素直に沸きました。それが覚悟につながったと思います。
──とはいえ、ユースの3年間も常にいいことばかりではなかったと思います。その覚悟、モチベーションは保てたのでしょうか。
そのために目標を書いて、いつも目に触れるようにしていました。ノートだったり、部屋に貼るとか。
──なるほど。プロになる、とか。
はい。ユースの頃は、「オリンピック出場」と書いて壁に貼っていたり……。僕が入った当時は、すでにオリンピックを東京でやることが決まっていましたから。
書くのは遠い目標から近い目標なんです。東京五輪は遠い目標で、近い目標はユースでのチームの目標「プレミアリーグでタイトルを獲る」とか「カテゴリーの日本代表に選ばれる」とかでしたね。
──入ったとき(高校1年生)で東京五輪に出たいところまで見えていた。
そうですね。
──東京五輪への思い、目指している時間は誰よりも長いかもしれないですね。リオ五輪も挟んでいますから。
確かに目指している時間はそうかもしれないです。リオも観ていましたが、オリンピックで印象に残っているのはロンドン大会の4位ですね。勝ち進んでいるなというくらいではありましたけど……。
──そういった目標はずっと決めているんですか。
決めるようにしています。
──紙に書くようになったのはいつからでしょう。
高校に入って「絶対にプロになって恩返ししたい」と思うようになってからです。

アジアで突きつけられた現実

──そのときから5年近くが経って、今はどこまでの目標が。
遠いもので言えば「海外に挑戦したい」。最短はもちろん東京五輪です。その間にサンフレッチェの優勝やカタールワールドカップにも行きたい。でも、そんな簡単なことではないですから、まずA代表に定期的に選ばれるようになって、国際舞台を経験して評価してもらえて、海外につながればいいな、と。
──行きたい海外のクラブ名も書いているんですか。
書きたいとは思っているんですけど、あまり現実的じゃないので(笑)。まずは中堅クラブでもいいのでプレーをしてステップアップできるのがいいですね。堂安律選手みたいな形は理想です。
──昔からそうやって逆算して目標を作るタイプだったんですか。
うーん、どうなんでしょうか。気付いたらこうでした。
──東京五輪はその目標を実現する上でとても大きな意味を持ちますね。その東京五輪で言うと、ここまでの戦いは決していいとはいえないと思います。「AFC U-23選手権」はその象徴でした。どういうイメージを持っていますか。
タイの「AFC U-23選手権」は、現実を突きつけられた感じでした。このメンバーで海外遠征を重ねてきて、ブラジル代表に勝つこともできた。
でもいざ「AFC U-23選手権」のような“ガチンコの公式戦”になって(他国は東京五輪の出場権がかかっていたが日本代表は開催国枠で出場が決定していた)、自分たちの力が発揮できなかった。現実を見せられたな、と思います。
オリンピックでは同じように緊迫した試合、期待の中でやらなければいけないわけですから、結果が出せなかったことはダメだった……と思いますね。
──改善点はどこにあると思われていますか。
「AFC U-23選手権」は2試合が終わった時点で予選敗退が決まってしまいました。そのあと、選手同士でミーティングをしたんですけど、ポジション同士で色々な意見がでました。お互い、クリアな状態でピッチに入れていない部分があったのかなと感じました。
ただ、この話をしたときに「予選敗退してからミーティングしていても遅いよね」という雰囲気がありました。チーム全体でやるべきことがクリアになって、お互いの求めるプレーが合えば、もっとうまく行くはずです。
──「AFC U-23選手権」に関していえば、結果は良くなかったですが、ご自身のパフォーマンスには手応えを感じたのではないですか。
感覚的にはよかったです。ただやっぱり結果がついてこなかったことに尽きます。結局は結果だなと強く思いました。
──昨年はフル代表にも選ばれました。コパ・アメリカでは川島永嗣さんなどとも一緒にプレーしています。感じ取れる部分はありましたか。
キーパーとしては存在感が必要だな、と。(サンフレッチェで)一緒にプレーしている(林)卓人さんもそうですけど、技術云々だけではない迫力、オーラがあります。それは普段の生活からそうですね。
オリンピックではキーパーが鍵になると思っているんです。やられそうなところで、最後自分が止めることができればいい成績を収められるはずです。アジア大会ではそれができなかったので、オリンピックでそれができれば、存在感もついてくるはずです。

西川周作に学んだ「声を低く」

──海外志向があるとのことですが、海外サッカーは見ますか。
見ますね。カシージャス選手やブッフォン選手が好きで。
──意外と昔の選手ですね。
僕、結構クラシックなスタイルが好きで。海外の選手って身体能力がずば抜けていて、日本人には難しいと感じるプレーをするんですけど、ブッフォン選手は、身体能力を前提にしつつも、僕らが大切にしている基本の延長線上にいる気がしています。「基本があれば守れる」というお手本のような存在というか。
──「基本があれば守れる」。キーパーの技術の中でこだわっているところはありますか。
反射で動けるような声がけですね。サッカーは特に数秒で状況が変わります。言われて考えて動いていたら間に合わないですから。
──コーチングへのこだわり。それはそのときの言葉を意識するのか、それ以前の例えば試合前のコミュニケーションを密に取るのか、はたまたそれ以外の何かだったりしますか。
もちろん試合前から状況を想定して、こうなったらこうしよう、という話はします。でも先ほども話した通り、試合はイレギュラーが多いので、とにかく短くバシッと言うことで反射で動いてもらえるような言葉を意識するんです。短くコンパクトな言葉とかですね。あとは、口調を変えてみたり。
──口調?
強い口調で言った方が締まると思いますし、逆にまだセンターラインのあたりで保持されている余裕のあるときは「余裕のあるトーン」でコーチングしています。
例えば、キーパーからボールを出すときはどうしても(味方のボールを受ける選手が)相手に背中を向けることになります。そういうときに誰も相手がついていなければ「フリー」と一言付け加えるんですけど、あえて声を低くしてみたりします。
──低い声の方が通ると。
そうですね。僕はそう考えていて意識していますね。もちろん、高くするときもありますし、それはスタジアムによって違ってくるんです。サッカー専用なのかそうじゃないのか、とかいろいろな要素がありますね。
これは僕のイメージなんですけど、西川周作選手は(コーチングの)「声が低い」と思います。スタジアムだと普通のトーンではなかなか声が通らなくて、だからあえて低くしているのかなと思っています。
──西川選手の声のトーンはどこで発見をしたのですか。
中学生の頃にレッズが鹿児島キャンプに来ていて練習試合を見ていたときです。小中学校の頃は特にJリーグをよく見ていて、サンフレッチェの西川さんが好きでした。同じ九州出身でもあったので。
そういうところを見るのが好きなんです(笑)。
──代表でもそうしたコーチングにも注目したいと思います。最後に、最短の目標、東京五輪への思いを聞かせてください。代表に選出されたとして現実的な目標は何になりますでしょうか
もちろんメダルをとれたらと思っているし、目指すからには優勝したいと思っています。
ただ、これまでの流れを見ても、戦いとしてもそんなに簡単ではないというのはみんながわかっています。大きい目標を立てるのが悪いとは思わないし、先を見るのも大事かもしれないですけど、まずは目の前のことに集中したいです。
一つ一つの試合に本当に集中して、こだわりながらやっていく結果が、メダルや優勝になっていくのだと思っています。