[東京 16日 ロイター] - 日銀の黒田東彦総裁は16日、金融政策決定会合後の会見で、金融機関の気候変動対応を支援するための資金供給(気候変動オペ)を通じ、企業のCO2排出削減に向けた取り組みが広がることに期待を示した。一連の気候変動への取り組みは中銀の使命の範囲内で行うものであり、2%の物価安定目標の早期実現に向けて金融政策運営を行うことには変わりはないと強調した。

日銀は16日までの決定会合で、気候変動オペの骨子素案を決定、公表した。

黒田総裁は、気候変動への対応は基本的に政府や国会の責任のもとで計画や規制が行われていくものだが、気候変動問題が経済や金融システムに大きな影響を与えていくことは明白だと指摘。決定会合では、政府や国会とは別に、中銀としてできるものはどういうものがあるか議論したという。

黒田総裁は、オペの骨子素案について、対象となる投融資に関する判断は金融機関に委ねつつ、一定の開示を求めることで規律付けを図ることにしたと語った。日銀が気候変動オペを導入することで、金融機関だけでなく、企業の中でCO2排出削減に向けた投資や人材確保の動きが加速するのが望ましいと述べた。

<気候変動オペには「十分なインセンティブ」>

日銀は、気候変動オペの利用金融機関に対するインセンティブについて、利用残高に応じてプラスの付利を実施することはせず、付利ゼロとすることを決めた。

黒田総裁は、現在実施中の新型コロナ対応特別オペは新型コロナ感染症という「大きなショック」に対して、企業の資金繰りを早急に支援するという必要からプラスの付利金利を適用して高めのインセンティブを付与していると説明。一方、気候変動オペについては、現時点でゼロ%の付利、利用残高の2倍の金額を「マクロ加算残高」に加算する措置は「十分なインセンティブになっている」との考えを示した。

市場では、気候変動問題について国内に様々な意見があり、体系的な分類が整備されている状況でもないため、日銀は慎重にスタートしたかったのではないかとの見方が出ている。三菱UFJモルガン・スタンレー証券の六車治美シニア・マーケットエコノミストは、金融機関からみたインセンティブは小さく、「プログラム自体が金融市場や銀行の投融資スタンスに大きな地殻変動を起こすことは考えづらい」と指摘する。

SMBC日興証券の丸山義正チーフマーケットエコノミストは、気候変動オペの運用開始後に、支援対象の投融資を絞りつつ付利を実施する仕組みに変更する可能性があるとみている。

<投融資の判断、金融機関に委ねる>

今回公表した気候変動に関する日銀の取り組み方針では、東アジア・オセアニア中央銀行役員会議(EMEAP)の加盟中銀と協議し、域内グリーンボンド市場の育成を念頭においた投資拡充を進めるとしたほか、従来からの保有外貨資産に関する方針のもとで、外貨建てのグリーン国債等の購入を行っていくとした。

黒田総裁は、金融政策として何がグリーンかグリーンでないか日銀が決めて投融資するのは「現時点では適切ではない」と指摘。投融資に関する判断は金融機関に委ねつつ、一定の開示を求めることで規律付けを図るのがよいとの認識を示した。

国際的に様々なタクソノミーの基準が合意されてくれば、グリーンボンドを優先的に買い入れるということもできるかもしれないが、「今のところは今回の仕組みが妥当なところではないか」と語った。

<国債買い入れ方針公表頻度の変更、市場機能発揮に向けた措置>

日銀は市場調節に関し、これまでの毎月から、3カ月ごとに国債の買い入れ額を示す方針に変更した。黒田総裁は、長期金利について内外の経済物価情勢などに応じて明確化された範囲内で変動することを想定していると説明。日銀が意図的に長期金利の変動を拡大させるわけではなく、市場機能を一段と発揮できるようにするための措置だと述べた。国債の買い入れ額を今後減らしていくといったことはないとも語った。

2%の物価安定の目標をできるだけ早く実現できるよう金融政策運営していくことに変わりはなく、大規模な金融緩和を粘り強く続け、必要があればちゅうちょなく追加的な金融緩和措置を講じると述べた。

(杉山健太郎、和田崇彦 編集:石田仁志)