2021/7/28

UberからZOZOまで。世界の「検索」を支えるテック企業を知っているか

NewsPicks, inc. BRAND DESIGN SENIOR EDITOR
 我々は日々、当たり前のように「検索」をして生活を送っている。
 事実、仕事に必要な知識も、訪問先の地図も、話題の映画も、美味しそうな食事も、「検索窓」にキーワードを打ち込めばハイスピードで手に入る。
 その検索の裏側にあるデータ処理を支えているのが、オランダ・アムステルダム発のテック企業「Elastic(エラスティック)」だ。
 同社はオープンソースの分散型全文検索/分析エンジン「Elasticsearch(エラスティックサーチ)」を提供。同社の分析エンジンは、世界だけでなく日本でも多くのエンジニアが活用している。
「Elasticsearch」は高速でスケーラブル、さらに多様なコンテンツをインデックスできて、幅広いケースに使える。
 全世界で顧客は15,000社を超え、FacebookやUber、国内でもソフトバンクやZOZOなど数百社の企業と取引がある。現在の時価総額は約55億ドル(約6,100億円)に上っている。
 増大し続ける膨大な情報から、最適な答えを「検索」で抽出すれば、企業はどんなビジネスプランを描けるのか。
 また、Elasticは「検索」によってどう世界を変えていくのか。Elasticのエデュケーションアーキテクトである河村康爾氏に話を聞いた。
INDEX
  • 世の中には、いろんな「検索」がある
  • 「Elasticsearch」はビジネス上の課題も解決する
  • 検索から「検知」と「セキュリティ」へ
  • 物理的な制御システムを守る「Elasticセキュリティ」
  • テッキーから、ビジネスの中心へ

世の中には、いろんな「検索」がある

──世の中には、さまざまな検索システムがありますよね。パッと思い浮かぶのは、インターネット上での検索ですが……。
河村 そうですよね。でも、検索が何かというと“膨大な情報の中から欲しいものを見つける行為”です。
 例えば、Google検索であれば、知りたい情報に関するキーワードを入力して、マッチングするウェブページを引っ張れる。
 すぐに結果を示すスピードも大切ですが、マッチするものが100万件あった場合に、ユーザーの要求との「関連度」が高いものを優先して見せる必要があります。
 当たり前かもしれませんが、検索結果の表示が速いだけではなく、的確であるのも非常に重要な要素です。
iStock / Nattakorn Maneerat
──NewsPicksでたとえるなら、幅広いジャンルの記事があるなかで、自分が欲しいニュースが「経済も政治も」関連する場合、的確に結果が出るか。その正確性が重要ということでしょうか?
 そうです。「どの言葉で検索されたら、どの記事を紐づけるべきなのか?」がポイントなんですよね。
 ところがユーザーは十人十色の検索ワードで記事を探すわけです。その定義を自分たちで細かく管理するのは、限界がありますよね。
 だから最近では、文章やテキストの情報をベクトル化して数値の情報として扱う手法が注目されています。
 すると「経済」や「政治」といったラベルが付けられていなくても、大まかな内容を瞬時に判断・分類できる。
 このように、データの検索技術は刻々と進化しているわけです。
 そうなってくると、ピンポイントのキーワードでマッチングしなくても、もう少しルーズな「意味ベースの検索」ができます。
 我々が提供している「Elasticsearch」も、検索条件との関係をサーチして、関連度の高いデータを抽出できるんです。
──具体的には何ができるのでしょうか?
「Elasticsearch」では、大量のドキュメントデータの中から、指定したキーワードを含むデータを高速で検索できます。
 また、テキストだけでなく、数値や地理情報など多様なデータの検索にも対応しています。
 例えば、ライドシェアやフードデリバリーでおなじみのUberではドライバーの位置情報や利用者の現在地、行き先情報といったさまざまなデータを素早く検索。ドライバーと利用者のマッチングを行っています。
 国内の企業でも事例はあって、ファッション通販サイトのZOZOTOWNにも導入されています。
 ユーザーの性別や年齢、お気に入りのショップやブランド、サイズ感など、さまざまなデータを検索条件に統合し、その人が本当に欲しい商品を上位に出します。

「Elasticsearch」はビジネス上の課題も解決する

──すでに、我々の生活の中に「Elasticsearch」が組み込まれていたとは……。
「Elasticsearch」は非常に汎用性のある検索エンジンですが、これらをテクノロジー側だけでなく、ビジネス側のソリューションとして活用していただくことも多くなっています。
 今では、検索データを可視化するインターフェース「Kibana」や、バラバラな形式で散在するデータを集める「Logstash」といったプロダクトを統合し、「Elastic Stack」というパッケージでサービスを提供しています。
──なるほど。「Elastic Stack」では、何ができるのでしょうか?
 例えば「Elastic Stack」では企業内に散在するデータから、欲しい情報を即座に見つけられます。
 それが「Elasticエンタープライズサーチ」。これによって、あらゆるツールでバラバラになっているデータを横断的に検索できる。
 Google Drive、Slack、Dropbox、Salesforceをはじめ、社内で使用されるコンテンツプラットフォームを一元化して、ドキュメントを検索できるのが特徴です。
「Elasticエンタープライズサーチ」のダッシュボード
──確かに、仕事で使用しているツールがどんどん増えていますし、これがあれば便利そうです。
 ビジネスではOffice文書やPDF、画像、データベースに保存されたデータなど、いくつもの種類がありますよね。
 これらを一つのプロダクトによって検索できれば大幅な業務効率化につながりますし、DX(デジタルトランスフォーメーション)にも大きく寄与すると考えています。

検索から「検知」と「セキュリティ」へ

──なるほど。他にはどんなソリューションを提供しているのでしょうか。
「オブザーバビリティ(検知)」「セキュリティ」の分野です。
 もともと「Elasticsearch」をオープンソースとして公開した当初は、主にキーワード検索に使われることを予想していたんです。
 ところが実際に世に出してみると、システムやアプリケーションのログをプラットフォームにため込んで、モニタリングする。
 そして、何か問題が起きたときにアラートを飛ばすといったユースケースが増えてきました。
 つまり、さまざまな検索のログを取れるので、異常値の“検知”ができるわけです。そこに目をつけ、Elastic Stackのパッケージを使って「Elasticオブザーバビリティ」を生み出しました。
──難しいですね。つまり……。
 そうですよね(笑)。例えば、車の運転席の前に備え付けられたダッシュボードをイメージしてください。
 そこでは、スピードやガソリンの残量などの、運転の際に不可欠な情報を見せてくれますよね。メーターがないと今が時速何キロで走っているかわかりませんし、ガソリンの残量がわからないと、どこまで走れるかも不明です。
iStock / dimarik
「Elasticオブザーバビリティ」も車のダッシュボードと全く同じ。ビジネスのプランニングをしたり、トラブルの原因を突き止めたりするためには、それぞれのシステム動向の可視化が大切です。
 オブザーバビリティというのは、システムの観測性を高めることなんです。
──わかりやすい。実際に、どのようなビジネスシーンで使われているのでしょうか?
 世界で初めて魚群探知機を実用化した古野電気さんは、「Elastic オブザーバビリティ」を船上でのデータ分析結果の向上に役立てていただいています。
「Elastic オブザーバビリティ」を活用することで、ファイアウォール、モデム、および船上のその他の通信機器など、複数のシステムからデータ収集ができる。
 それを可視化することによって、船舶の航行状況を陸上で把握できます。
 例えば、船舶にデータ通信の障害が発生している場合、それがなぜ起きているのかを把握できます。
 アプリケーションが通常以上の通信量を消費しているのか、あるいは船舶のアンテナそのものが問題となっているのか。一目で理解できるんです。

物理的な制御システムを守る「Elasticセキュリティ」

──セキュリティに関するソリューションも、オブザーバビリティ(検知)の延長線上にある課題から生まれたものなのでしょうか?
 おっしゃるとおりです。セキュリティとオブザーバビリティ(検知)は非常に近しい存在です。
 どちらもシステム内で起こっていることを「知る」のがスタート地点ですから。セキュリティの場合は、集めたログを使って異常を検知するためのルール作りができます。
 例えば「このIPアドレスは、不正なマルウェアやランサムウェアをダウンロードさせるためのもの」といったリストがあるので、それを集める。
iStock / Olemedia
 また、従業員の方々が使っているPCの操作ログから、重大なインシデントに関わりそうな情報も集めるなど、多角的な視点で分析していきます。
 情報が溜まってくると、攻撃者によって頻繁に使われるソフトウェアが起動した瞬間に、いち早く検知できる。
 そういった脅威に対する防御や検知、対応に必要なツールをまるっと一つにしたソリューションが「Elasticセキュリティ」です。
 企業のセキュリティアナリストは、「Elasticセキュリティ」のダッシュボードに出るアラートを見て、過去の関連データなどを見ながら分析を深め、対策の必要性を検討できます。
──「Elasticセキュリティ」はどんなビジネスシーンに用途があるのでしょうか?
 例えば、プラントの運用システムを手がける横河電機さん。年間4,000億円強の売上を誇り、海外売上比率が約70%に上るグローバルカンパニーです。
 近年は、横河電機さんのような工場の制御システムを扱う企業でも、DXやファクトリーオートメーションを進めるうえでセキュリティの重要性が謳われています。
iStock / 3alexd
 先日も、アメリカ国内最大の石油パイプラインが、ランサムウェア(身代金ウイルス)によるサイバー攻撃に遭って業務停止に追い込まれました。
 物理的な制御システムがサイバーテロの標的にされてしまう時代だからこそ、あらゆる業界の企業にとってセキュリティ対策を怠ることが命取りになってしまいます。
 これまで、製造業が持つハードウェアは、インターネットなどの外部ネットワークから切り離された環境に置かれてきたために、サイバー攻撃にさらされるリスクが低かった。
 しかし、横河電機さんのようにファクトリーオートメーションを進め、ITとの融合を進めるとなれば、IT環境の守りを固めるのはもちろん、旧来のハードウェアへの脅威の侵入を防ぐことが求められます。
 そのために必要なSOC(Security Operation Center)の基盤作りのために、「Elasticセキュリティ」を活用いただいています。

テッキーから、ビジネスの中心へ

 ──Elasticは検索をベースに、オブザーバビリティ(検知)、そしてセキュリティまでソリューションを増やしてきました。ここまで拡大した理由は何だと思いますか?
 それは、ひとえに「ユーザー」のおかげといえます。
 もともと「Elasticsearch」は無料で使えるオープンソースで、最新のソフトウェアへの関心が高いテッキーな方々に試していただくケースが多い。
 そういったユーザーの方々が自身で使い、さまざまなコミュニティで成果を発表されているのを見ると、潜在的なニーズにも気付けるんです。
 ユーザーのエンジニアリング力、お知恵を拝借しながら、我々は成長してきた部分があると思います。
──今後のElasticの展望を教えてください。
 そもそもElasticはギークなエンジニア層に受け入れられてきましたが、今後はよりビジネスにおいても存在感を示していきたい。
 弊社のお客様は、DXに挑戦するフェーズを過ぎて、さらにそこを向上させる段階の方々が多い。
 セキュリティアナリストや、システムオペレーションを担当している方々にアプローチできるように、もっとElasticによって解決できるソリューションを前面に押し出していきたいですね。