2021/8/25

モビリティの課題解決を通じたスーパーシティ構想への本気度

首都圏一極集中。人口が集中する大都市では先端のサービスが次々と提供されていく一方で、地方では、大事な生活インフラである交通事業さえ維持することが難しくなっており、マイカー以外の交通手段が限られるという状況も散見されている。
そうした状況を打破し、誰もが自由に移動ができるという“あたりまえ”のサービスを提供する──大日本印刷(以下、DNP)は、モビリティの力で全国どこにいても同じような“便利さ”を享受できる世の中にするべく邁進している。
“実現する力”で世界を駆けあがり、社会貢献活動にも積極的な元日本代表のバドミントンプレーヤー・潮田玲子さんとの対談を通して見えてきた、印刷会社が本気で取り組むモビリティとは?

印刷会社が本気で取り組むスーパーシティ構想とは?

──印刷会社であるDNPがモビリティ事業に取り組んでいると聞いて、非常に驚きました。“モノづくり”の分野と“サービス”の分野があるとのことですが、 まずモノづくりの分野で印象的だったのが、「次世代加飾パネル」です。
椎名隆之(以下、椎名) はい。DNPは、モビリティの内装・外装で活用される部品や部材を以前から数多く提供しています。そのうちのひとつである「次世代加飾パネル」は、木目柄や幾何学柄などのデザイン性を保ちながら、必要な時だけそこにディスプレイが浮きあがり情報を表示できるのが、大きな特長です。自動車の内装ディスプレイなどで展開しています。
潮田玲子(以下、潮田) (次世代加飾パネルの映像を見ながら)スタイリッシュでカッコいいですね。
椎名 ええ。近年、自動車の内装は多機能化が進んでいて、ディスプレイはもちろん、操作スイッチ、計器などさまざまな機器が増えることで、デザイン性が損なわれてしまい、却って使いにくい面がありました。
そこで、私たちがこれまで培ってきたディスプレイなどに使用する光学設計の技術を駆使し、機能性とデザイン性の両立を実現しました。必要な時に必要な情報が表示されるので、「ドライバーの方の目線も動かないし、安全に運転できるよね」という私たちの思いも詰まっています。
──そうした技術や知見を今後はモノづくりだけでなく、移動サービスという裾野にまで広げていこうというお考えなのでしょうか。
椎名 そうですね。モビリティ事業部自体は2017年の新設から5年も経っていないので、本格的に広げていくのはこれからですが、今後はサービス全体を対象にすることが絶対に必要だと考えています。
──印刷会社であるDNPがそのような事業に取り組むのはなぜでしょうか。
椎名 DNPは2015年にグループビジョンを刷新したのですが、社会や環境の変化、人々の価値観の変化が加速する中、DNPも顧客企業のニーズに応えるだけではなく、社会課題や人々の期待を能動的に捉えて、自分たちで新しいモノやマーケット全体をつくり出していくべきと考えました。
そこで会社として注力するべき領域※として定められたもののひとつがモビリティでした。
モビリティ事業部では、DNPとして今まで培ってきた技術や知見、リソース、人脈などの全てを駆使して、モビリティの領域で新しい価値をつくっていこうと考えています。
※DNPは「知とコミュニケーション」「食とヘルスケア」「住まいとモビリティ」「環境とエネルギー」を「4つの成長領域」に設定している。
移動に関して言うと、その手段である車やバスというのはハードウェアであって、その基盤となる快適に移動する仕組みの部分がソフトウェアです。私たちはそのソフトの部分でも貢献したいと考えています。典型的なのは、配車サービスのUber(ウーバー)※1やGrab(グラブ)※2ですね。潮田さん、使ったことありますか。
※1 Uber(ウーバー): スマホで操作するだけで、いつでも車やタクシーなどのさまざまな種類の配車サービスを利用できるアプリ。世界600 以上の空港と1万以上の都市で利用可能。
※2 Grab(グラブ):スマホで操作するだけで車やタクシーを呼ぶことができる配車サービスアプリ。シンガポールを中心に東南アジアで非常に人気がある。
潮田 いえ、まだないです。
椎名 私はグラブで手配した車に乗ったことがあります。スマホアプリで呼び出せば、タクシーがすぐに来てくれて、値段も事前に分かるので、非常に安心感があります。通常、タクシーって目的地に到着するまで値段が分からないからドキドキしますよね(笑)。
潮田 ドキドキします(笑)。特に、海外遠征の際にタクシーを利用すると、割高な値段を請求されたりもしました。
椎名 海外だとそういったことも、昔は多くありましたよね。それに対して、このウーバーやグラブなどのデジタルプレイヤーが登場したことにより、法外な値段を請求されたりすることが少なくなりました。グラブは東南アジアでよく使用されていて、運行ルートも事前に分かりますので、「安心した移動」というサービスを提供できています。これはハードであるタクシーは従来と同じで、移動の仕組みを変える、まさにソフトが移動に変化をもたらした好例と言えます。こういったソフトによる変化をまちづくりに応用していくことが、今後重要になっていきます。
──具体的にまちづくりの観点でいえば、ソフトの力でどのような課題を解決していきたいとお考えですか。
椎名 まず前提として、日本では、首都圏に一極集中する一方で、地方経済が停滞している現状があります。これではいけないですし、内需を上げるためには都市圏だけでなく、地方を活性化させる必要があります。逆に言えば、全国にある1700を超える地方自治体をひとつずつ活性化させていけば、日本にはまだまだ経済の“伸びしろ”があると考えています。
──なるほど。そのためにも地方における移動の快適性を上げていく?
椎名 ええ。全国を見渡すと、公共交通はかなり多くの課題を抱えています。民間の力だけでは支えきれなくて、例えば1万人以下の街のバスやタクシーといった交通機関では、その自治体が税金を年間1~2億円払って維持しているという状況も見られます。このような実態を解決していくために、先ほどお話しした仕組みづくり、ソフトの部分が重要になってくる。例えば、スマホアプリで乗りたい時にオンデマンドバスを呼んだり、乗合いにしたり、人だけでなくモノも運ぶ貨客混載型にしたりとサービス自体を変えていく必要があります。
潮田 地方に行くと、本当に移動に関しては不便さを感じます。特に東京にいると数分で電車が来たりするので、ついつい忘れがちですが、1時間に1本しかバスが来ないみたいな地域も多くありますよね。
椎名 私もある地方でタクシーに乗った際、クレジットカードが使えず、コンビニに現金を引き出しに行って、目的地への到着が遅れてしまったという経験もあります。ただ、そうした課題は、本来企業の技術や知見で解決できるところなんですよね。もちろん、私たち1社だけでは難しくて、さまざまな企業や団体が協力して行っていくのが重要なんですが。
──そういった思いがスーパーシティ構想(※図解1)に繋がるわけですね。
椎名 ええ。三重県の多気町、大台町、明和町、度会町、大紀町、紀北町の6町が共同で「三重広域連携スーパーシティ構想」として、国の特区認定を目指し、内閣府地方創生推進事務局に提案書を提出しました。その三重県のスーパーシティ構想に私たちも代表事業者として参画し、20社以上のほかの民間企業と連携しながらまちづくりを進めています。
潮田 具体的にどのようなことをしているのですか。
椎名 そうですね。色々あるのですが、必ずしも移動そのものを快適にする取り組みだけではありません。例えば、潮田さんが買い物をしたいなって思った時は、買い物アプリを開きますよね。
潮田 ええ。
椎名 同じようにタクシーを呼ぶ時はタクシー配車アプリ、ヘルスケア関連ならヘルスケアアプリと、それぞれのアプリにユーザー登録を行って使う必要があります。例えば、それらのサービスとサービスを連動させて使うことなどを目指したりしています。
移動は手段であって目的ではないですよね。そのため、目的であるサービスと掛け合わせることで、より生活を便利で快適にしていく「価値」をつくり出したいとも考えています。例えば、オンラインで医者が診療してくれたり、オンデマンドでほしいものが届いたりしたら、わざわざ雨の日に病院や買い物に行かなくてもいい。移動が全てではなくて、それらのサービスとうまく連動させて便利にしていくことが重要なんです。
潮田 それらのサービスが全てひとつになってくれるとすごく便利ですね。
椎名 さらに発展させていくと、例えば住所を登録すると、その周辺で使えるサービス全てが連動している世界も実現されていくでしょう。
──スーパーシティ構想において、特にDNPのどのような技術が有効だとお考えですか。
椎名 主に、情報コミュニケーションの関連技術です。身近な例でいうと、マイナンバーカードの認証ってスマホを使ってできますよね。あの認証技術なんかはDNPの技術が活用されています。
潮田 今、ふと思い出したんですけど、マイナンバーカードを使って、市役所に行かなくてもコンビニで印鑑登録証明書や住民票の写しを取得できるようになったじゃないですか。あのようなイメージですか?
椎名 おっしゃる通りです。あれは、マイナポータルっていう公的個人認証サービスでできるようになったサービスですね。さらに発展させていくと、マイナンバーカードとさまざまなIDを紐づけることで、70歳以上で使用できるシルバーパスなども、申請したり見せたりせずに、シルバー料金で決済が勝手に完了するといったことも可能になっていくと思います。

「DNPモビリティポート」でさらなる移動のイノベーションを

──そのような中で、現在、DNPが注力しているサービスはどのようなものがありますか。
椎名 「DNPモビリティポート(※図解2)」のサービス展開に力を入れています。先ほどお話ししたスマホでモビリティ(乗り物)を呼ぶようなサービスは増えてきていますが、スマホの位置情報ってまだまだ不正確なんです。例えば、タクシーをアプリで呼んだら、道路の反対側に来てしまったなど、意外とミスマッチが起こるんですね。そうしたミスマッチを解決しようと開発したのが「DNPモビリティポート」です。
いわばデジタルとアナログを掛け合わせたようなもので、オンデマンドバスやミニカーなどの小型モビリティなど、多様なモビリティをシームレスに利用できることを目的にデジタルサイネージを開発しました。リアルの交通結節点の役割を果たし、複数のモビリティの乗換場所というだけでなく、さまざまな情報配信やスマホ連携を行うことで域内の回遊性を高める効果も期待できます。
今後、渋谷区の東急百貨店本店前にこのデジタルサイネージを設置して実証実験を行う予定です。
潮田 渋谷でも!?
椎名 はい。そこではバスで来た人たちがデジタルサイネージの情報を見ることで、次の目的地の情報がすぐに分かるようにします。さらに、電動自転車などの貸し出しも行い、シームレスに乗り継ぎして渋谷の街の回遊性を高める仕掛けにする予定です。
また、昨年11~12月に実施した静岡型MaaS(Mobility as a Service)基幹事業実証プロジェクトでは、静岡市のJR草薙駅とJA清水厚生病院の2カ所に、通信型タッチパネル式屋外デジタルサイネージを設置して実証実験を行いました。これは、スマホの扱いに不慣れな高齢者などをターゲットにして、設置してあるモビリティポートのタッチパネルに3回触れる(タップする)だけで簡単にAIオンデマンド交通サービスが利用できるというものです。
潮田 すごく生活が便利になりそうですね。
椎名 すでにこの「DNPモビリティポート」では、先ほどお話しした「三重広域連携スーパーシティ構想」で、決済データや運行データとの連動を始めています。例えば、三重県でいうと、伊勢神宮がありますよね。潮田さん、行かれたことはありますか。
潮田 行きたいんですけど、まだ行けていません。
椎名 三重県の有名な観光地のひとつで、非常に多くの人が集まる場所です。そして、私たちの「三重広域連携スーパーシティ構想」の地域のひとつである多気町は、伊勢神宮から車でわずか30分の場所にあります。
潮田 近いですね。
椎名 それなのに統計をみると、伊勢神宮に行って多気町にも行く人は、全体の2%以下しかいません(笑)。
潮田 (驚く)ええ!?
椎名 では、多気町には何もないかというとそんなこともない。ユネスコエコパークや、色々な価値ある観光資源がある街なんです。では、なぜ行かないのか。気づかれてないんですよ。存在を知らないという。だから、周遊のルートをつくり出すとか、人を呼ぶ観光の面でも、モビリティポートのような情報コミュニケーションの部分が非常に重要になってくるんですね。移動手段を提供するだけでなく、乗って行ってもらう、「行動変容」を起こすような仕掛けづくりをしないといけません。
潮田 知らないとどんなに良いものがあっても行けないですし、初めて行くところは土地勘もないですから、探しに行かないと出会えない可能性が高そうです。
椎名 その通りです。私たちがつくろうとしている情報コミュニケーションツールは、こっちから探さなくてもあっちからプッシュしてくるようなものを目指しています。例えば、潮田さんが伊勢神宮に行った際に、「車で15分のところにこんなおいしいご飯屋さんがありますよ」という情報がリアルタイムで表示されるような。
潮田 知りたい情報がどんどん入ってくる。確かにそれは便利ですね。ただ、自分の個人情報を提供するのは心配な気もします。
椎名 そういったセキュリティの面では、あらかじめサービス利用の意思を示しておく「オプトイン」の考え方が非常に重要になってきます。スーパーシティ構想では、住民の方がデータ連携などの便利なサービスを使うために、事前に合意していることが大事です。当然セキュリティの部分はしっかりしているのですが、このオプトインをおろそかにしたばっかりに破綻したスーパーシティ構想も多いです。

“実現する力”で未来のあたりまえをつくる

──情報コミュニケーションの力で地方の交通課題を解決し、スーパーシティ構想に至るまちづくりまでお聞きして、連載タイトルにある「未来のあたりまえ」をつくる活動を知ることができました。潮田さんが目指している「未来のあたりまえ」はありますか?
潮田 そうですね。ちょうど先日、一般社団法人 Woman's waysという団体を立ち上げました。これは、今までタブー視されてきた女性アスリートと生理の問題に向き合い、寄り添いたいと思って立ち上げた団体です。女性アスリートが生理などの身体の問題を話し合ったり相談したりする場がほとんどないので、そうした場でありたいという願いを込めました。
その背景には、女性アスリートに対する指導者が圧倒的に男性が多いという現実があります。五輪をみても、北京・ロンドン・リオの日本人派遣コーチの中で、女性コーチの数は全体の1%程度しかいません。その状況がもう何十年と変わっていないんです。例えば生理で体調を崩している時に同じ練習をしても、パフォーマンスは下がってしまいますよね。それを男性コーチは生理についてよく分かっていないこともあるので、精神論で片付けてしまう。それで女性アスリートは自分自身を責めてしまうという、そうしたことが日常的に起こってしまっている現状があります。
私自身も6歳から29歳まで競技を続けましたが、生理の問題を監督・コーチに相談したことはありません。私と同じように、悩んでいるけど誰にも相談できないという女性アスリートは多いように感じます。
また、生理は早くて小学生の高学年から始まる場合もあります。そうしたジュニア世代の競技者にも正しい知識を身につけてほしいという思いがあります。それを当事者であるアスリートだけでなく、周りの指導者や親など、共通認識として持っているという環境にしていきたい。そうすれば、本当におなかが痛くて練習を軽くしてほしいという時には、我慢せずに指導者や周りの大人に言えますから。身体的問題で競技を離れる女性も中学・高校時代に多いので、そういったスポーツ離れも防げるかなと期待しています。
そうした生理の部分を我慢せずに周りに相談することができて、女性アスリートが気持ちよくスポーツに専念できるような環境を「未来のあたりまえ」にしたいですね。
椎名 素晴らしい取り組みですね。生理などのヘルスケアの分野でも、情報コミュニケーションの文脈で解決できそうなことはあります。例えば、自分の体調をデータ化して毎日積み重ねていけば、どのあたりで休まなければいけないのかということも分かるようになります。
潮田 それはすごいですね。行動を可視化するっていうのは普段の生活を送っていく中でなかなか難しいじゃないですか。基礎体温を毎日つけるのも大変だし。デジタルの力でそういうことを簡単にできるようになるのであれば、例えば「ちょっと体調悪い」「イライラするな」となった時に、「これは10日後に生理がくるからか」と分かれば、日々のコンディションづくりにもすごく活きていきそうですね。
──お二人のお話を聞いていると、「未来のあたりまえ」に向けた“実現する力”というのを非常に強く感じます。
潮田 私の場合は経験が最初にあって、自分自身が生理の問題で苦労していたので──。引退してからなんですが、現役時代を振りかえるといったインタビューが多くありました。そのなかで生理の話をした時に、あの時、気軽に監督に相談できたり、うまくコンディションを調整する術などを知っていたりしたら良かったなっていう話をしたんですね。そういう未来になればいいですねって。でも、話しながら思ったんです。これじゃ何も変わらない。問題提起するのは確かに簡単なんだけど、口で言うだけじゃダメだって。
本当に環境を、未来を変えたいって思ったら自分で動くしかない!と思って団体を立ち上げたんです。今は小さい組織ですけど、賛同アスリートなども増やして、ひとつのムーブメントまでもっていければ、今まであきらめていたことを変革できるのではと考えています。
私自身、人生を考えると、競技していた時の方がまだまだ長い。そして、競技を通じて学んできたことが多かったので、それを後輩アスリートや社会に対して還元していくのが自分の役割、使命だなとも感じています。
──潮田さんは、実現するための努力の大切さについても自著で述べられていますね。
潮田 ありがとうございます。今年の2月に『いっぽいっぽの くつ』と題した絵本を出版させていただきました。主人公はどこにでもある靴で、セール品として買われて、ある家にたどり着きます。そこでは雨の日に必ず履かれる長靴、運動する時は必ず履かれる運動靴など、いわゆるレギュラーの靴たちがいました。主人公はずっとそれを羨ましいなって思って見ているだけなんです。そしたら、ある時、長靴に「きみは選ばれるために何か努力したの?」って言われてしまうんです。そこで、主人公は気づくんですね。何もしていないことに。それからは選ばれるために、未来を変えるために、努力をします。そして、最終的には一番大切にされる靴になったという靴の成長物語になっています。
自分の子供が今5歳と3歳なんですが、「頑張ることのすばらしさ」について絵本を通して伝えられないかなと思って書きました。
──なるほど。でも、それは大人でも当てはまりそうですね。
潮田 ええ。大人もそうで、何かキラキラ輝いている人がいた時に、その人のことを羨ましいなって思うことあるじゃないですか。でも、実はその人がチャンスを掴むために数々の努力をしてきたことはあまり意識されない。そういった努力の大切さを大人の方にも感じてもらえたら嬉しいですね。
──『いっぽいっぽの くつ』の最終ページに潮田さんの直筆メッセージが掲載されており、その中で「できない事を嘆くより できる事に目を向けて前向きに過ごしていきたい」とコメントされていましたが、今日のお話を聞いて、この言葉はお二人の共通項でもあるなと感じました。椎名さんはどうですか。“実現する力”という点は。
引用:絵本『いっぽいっぽの くつ』潮田さんの直筆メッセージ
椎名 ビジネスで言うと、努力とは少し違うかもしれないですが、一番大事なことはやっぱり実現させることだと思います。提案や発信をすることも大事なんですが、実現させないと意味がない。ただ、実現させようと思うと、やることがとてもたくさんあるんですよ。しかも、新しいことをつくっていくとなると、本来の業務の20倍から30倍も動いて、やっと一歩先に進めるかどうかというところ(笑)。潮田さんもおっしゃっていましたが、自分でやるっていうのは非常に大変ですよね。
潮田 私も団体を立ち上げるのってこんなに大変なんだってびっくりしました。その過程でいろんな問題が派生していったりして……しがらみも多くなるし。やんなきゃよかったなって後悔したこともありました。でも、それじゃ何も変わらない、だからさらに頑張ろうって。
椎名 本当にそうですよね。私は、より良い未来をつくるっていうのは、企業の責務だと思っています。
首都圏にいると気づきませんが、全国を見回すと不便な地域が実に多い。交通手段がないから、例えば80代や90代でもマイカーを運転しなきゃならないといったような。でもそれは、本当はおかしなことだと思います。
素晴らしい技術や知見を持った企業はたくさんあります。だからこそ、企業が頑張って、日本全国どこでも便利で快適に生活ができている風景を「未来のあたりまえ」にしていかないといけない。誰一人として差がなく、住みやすい社会を目指していきたいと思います。