アステラス、遺伝子治療で米に新工場 成長の軸に
コメント
注目のコメント
大規模製薬会社が現在の地位を築けたのは、例外なく、過去に販売した医薬品の実績によります。遺伝子治療は、対症療法的に作用する医薬品レベルの効果と異なり、病気の原因となる遺伝子を問題のないものに置き換える治療法ですので、「薬を大量に売る」大規模製薬企業のビジネスモデルのライバルになります。
記事にあるように、遺伝子治療領域の市場は「急拡大」が予測されています。それでも全面的に現在の医療用医薬品を代替するものにはなり得ませんが、大規模製薬企業が「イノベーションのジレンマ」の影響を受ける中、比較的思い切った決断だっただろうと思います。しかし、記事にある120億円の投資はかなり小規模であり、今後の本格的な投資までの段階的施策の初期ステージにあることがわかります。
遺伝子治療は、現時点の実情としては、安全性が高いレベルで確立されているとはいえないため、大きな市場を有する領域に臨床開発を広げることができません。遺伝子治療の臨床試験のあり方については、対象疾患としては、生命を脅かす重篤な疾患(末期ガンなど)のような既存治療と比較してのリスクが小さく、ベネフィットが非常に大きい方法、対象患者としては、十分にリスクを提供し自発的に同意した患者に限られています。
遺伝子治療に使われる遺伝子導入を担う「ベクター」の技術には、ウィルスベクターと非ウィルスベクターがありますが、汎用性が高いため、他社への技術協力が可能で、安定的な大量生産技術を獲得した場合は、生産受託が期待されます。新型コロナウイルスワクチンでは、ウイルスベクター技術を用いたワクチンも実用化されています。
このような見識から、例えば、スイス・ロシュ社は2005年頃からバイオ医薬品の受託生産に本格的な投資を続けてきました。そのような意味では、当該領域の先端企業に対して15~20年くらいは遅れを取っているのが現実ですが、今後の巻き返しが期待されます。