[フランクフルト 8日 ロイター] - 欧州中央銀行(ECB)は8日、1年半にわたる戦略見直しの結果、中期的なインフレ率目標を「2%」に変更すると発表した。これまでの「2%に近いが、それを下回る水準」を改め、物価の一時的な上振れを容認する。戦略見直しは2003年以来18年ぶり。気候変動の問題にも一段と配慮する。

ラガルド総裁は会見で「物価の伸びが常に2%にならないことは承知している」とした上で、「緩やかで一時的な乖離が上下両方向にあり得るものの、問題ではない。しかし持続的で根強く、大幅な乖離があれば大きく懸念する」と表明した。

また、米連邦準備理事会(FRB)が昨年導入した平均インフレ目標政策とは異なると明言した。平均インフレ目標は、インフレ率が一定期間2%を上回ることを許容し、平均でならして2%程度を目指すという考えだ。

市場では、今回の決定がおおむね刺激策のさらなる長期化につながるとみられている。

ベレンベルクのエコノミスト、ホルガー・シュミーディング氏は、新しい枠組みについて「ほぼ予想通りだが、ハト派的な内容に傾いているほか、柔軟性が明確になった」と分析。INGのエコノミストは「構造的に一段とハト派的」としながらも、2%弱からスタートした目標が徐々に進化しつつあると指摘した。従来の目標では下振れよりも上振れのほうを心配しているという印象を与えていた。

<オーバーシュート>

ECBは、とりわけ強力かつ持続的な金融支援が必要な特定の状況下では、インフレ率が一時的に目標を適度に上回ることを認めるほか、2%の水準は上限ではないと明言。新たな物価目標については「対称的」とし、「目標を上振れても、下振れても、同等に望ましくない」と説明した。また、どの程度の上振れを容認するかについて、具体的な数値を示さなかった。

さらに、欧州連合(EU)が公表する現在の物価指標は、住宅費の大部分が省略されており、満足のいくものではないが、修正には何年もかかるため、政策当局者は他の物価指標も検討する方針とした。

金融政策手段としては「引き続き政策金利が最上位の政策手段」と確認。「フォワードガイダンスや資産買い入れ、長期リファイナンスオペといったその他の手段は政策ツールの重要な構成要素で、適切に活用される」と言い表した。

ECBが物価のオーバーシュートを明確に約束するには至らなかったことから、一部の市場関係者からは失望の声が聞かれた。ノルデアのエコノミスト、ヤン・フォン・ゲーリッヒ氏は「結局のところ、オーバーシュートの可能性に関する表現は非常に弱かった」と述べた。

こうした中、 デンマーク国立銀行(中央銀行)は「ECBによる物価目標の調整が通貨クローネのペッグ(​連動)政策に影響を及ぼすことはない」と表明した。

<気候変動に一層配慮>

ECBは金融政策運営において、気候変動の要素をより考慮していく方針も示した。

EUが温暖化ガスの排出量を30年までに55%削減することを目指す中、「社債買い入れの配分に関する枠組みを調整し、気候変動の要件を組み入れていく」と表明した。さらに、気候変動と政策の影響を監視するための新しいモデルや分析の策定、グリーン金融商品や気候関連リスクへのエクスポージャーを対象とした新しい指標の開発、来年から担保や資産購入に絡み気候変動関連の情報開示を義務付ける計画、ユーロシステムのバランスシートを対象とした気候変動ストレステストを来年から開始する予定などを明らかにした。

ラガルド総裁は「これは単なる言葉(の約束)ではなく、ECB理事会全体のコミットメントだ」と強調した。