2021/7/7

【実例】ブリヂストンが、タイヤの「サブスク」に本気な理由

NewsPicks 記者
「パーソナライゼーション」ーー。
顧客の好みや使い方のクセに合わせて、商品を最適化していくサービスが、あらゆるビジネスに変革を迫りつつある。
大量消費社会が終わりを迎え、さまざまな商品がコモディティ化していく時代にあって、顧客にパーソナル対応できれば、顧客満足度で他社と大きな違いを生み出せる。
普及の背景には、デジタル技術により顧客ごとの傾向をデータ化しやすくなったこと、「サブスクリプション」ビジネスが広がり、顧客と継続的に取引しながら最適な商品にカスタム対応することが容易になったことなどがある。
ただし、やみくもにパーソナライゼーションを進めても失敗は目に見えている。膨大なデータを集める手間、個別対応する手数など、コストに見合うメリットを顧客に示すのも容易ではない。
そこで本日からの特集では、パーソナライゼーションの先進事例に迫る。
初回に登場するのは、タイヤメーカーのブリヂストンだ。タイヤは車の中では地味な存在に見えるものの、路面と車体をつなぐ唯一のパーツだ。
タイヤから得られる走行データを活用すれば、利用者に使用状況に合わせて「長く使える」、「燃費が良い」といった個別対応されたタイヤを提供できる。
さらには、利用者の走り方に応じて、メンテナンスのタイミングや、走り方などのアドバイスもできるようになるという。
まさに、タイヤメーカーから、サブスクを軸としたサービスカンパニーへと変革を目指す取り組みといえる。
特に、自動運転の普及などの「環境変化をチャンスととらえる」点や「オープンイノベーション」の活用など、ブリヂストンが奇をてらわずにビジネスの基本をなぞっている点も、広く参考になりそうだ。
そこで、ブリヂストンのデジタル変革の司令塔である坂野真人最高技術責任者(CTO)に、同社の変革について聞いた。
INDEX
  • 地面に唯一接するパーツ
  • 変革に必要なのは「段取り」
  • データ活用の「秘策」
  • ものづくりの「原点」は不変

地面に唯一接するパーツ

──タイヤをお客さんの使い方に合わせてカスタマイズできるサービスがあるそうですね。
坂野 極端な例を挙げると、山道ばかりを走っていると、タイヤの横側の部分がすり減ります。逆に高速道路ばかりを走っていると、タイヤ接地面の中央ばかりがすり減ります。
山道を走ることが多いお客さんには、タイヤの横部分の耐久性を高めたり、滑りにくさを向上する。
高速道路を頻繁に使うお客さんであれば、接地面の中央部の耐久性や滑りにくさを向上させる。そのようにして、タイヤの価値を高めることができます。
タイヤの構造を区分すると、路面と接地する「トレッド」と呼ばれる部分があります。
トラックやバスでは、このトレッドの溝がすり減ったら、タイヤを廃棄するのではなく、トレッドを張り替えることで、再び使用できる「リトレッド」というサービスを提供しています。
その際に、顧客の使用状況によって最適な溝パターンにすることを、当社は「カスタマイズリトレッド」と呼んでいます。これが、一番シンプルなカスタマイズだといえます。