2021/6/30

【須藤憲司×麻生要一】DX成功の思考法と、3つのアプローチ

AlphaDrive / NewsPicks for Business エディター / コラムニスト
日本企業がDXの必要性を痛感し始めて久しい。実際、DXを推進するにあたって悩んでいるビジネスパーソンは少なくないだろう。
6月7日、NewsPicks GINZAに日本企業のDXを推進する有識者と、現場の熱きリーダーたちが集結した。数々の企業のDXを手がけてきたKaizen PlatformとNewsPicks for Businessがコラボし法人向けに共同開発した、DX人材育成プログラム「DX Academia」のスタートを記念したイベントだ。
テーマは「顧客体験のDXを成功に導く、大企業の組織づくりと実践論」
企業のDX戦略策定・推進を支援し、最先端で活躍するプロフェッショナルたちによるイベントのエッセンスを、前後編に分けてご紹介。
前編では、Kaizen Platform代表取締役の須藤憲司氏と、NewsPicks執行役員であり企業変革や新規事業創出を手がけるAlphaDrive代表取締役社長兼CEOの麻生要一による、参加者満足度の高かった講演内容をお送りする。
後編はこちら

須藤憲司、DXプロジェクト成功の鍵を大解説

DXで顧客体験のカイゼンを支援しているKaizen Platform。須藤氏は、DX成功のための思考法を説いた。DXは「D」よりも「X」、トランスフォーメーションの方が遥かに難しいという。そのココロは──。
須藤氏は、DXを推進する上で鍵となるのが「現場の理解」であると語る。現場の人々がいかにデジタル化やDXの本質を理解するか、基本的なところだが最も難しい点でもあるという。

DXは競争戦略。差別化を意識せよ。

「そもそもDXには、ふたつの側面があります。1つは社会現象。世の中の様々な出来事がデジタルで変わっているということです。もう1つは、非デジタル企業からすると『新しい競争戦略』という側面があります」と須藤氏。
「今の時代、他の企業よりいち早くデジタルを取り入れることで、自社を差別化できます。DXは競争戦略なので、企業ごとにそれぞれ正解が違って然るべきなのです」
DXにあたっても、差別化を意識せよ。DX推進に正解はないが、自らの組織に合ったDXを模索し実行するのが一番難しいと須藤氏は語った。
提供:Kaizen Platform

DXに必要な3つのアプローチ

須藤氏は続けて、DXに必要なアプローチを3つに分けて解説した。
「大事な点は3点。1つはHolistic(全体的、包括的)なアプローチ。様々なワークフローが横断する中、全体を俯瞰できるようにならないといけません。『大企業あるある』として、一つの組織にもかかわらず部署によって縦割りになっていることが多いです。その上、隣の部署がどんなことをしているか『興味がない』、または『そもそも仲が悪い』など珍しくありません。社内の風通しが良いと言えない場合こそ、常に俯瞰的な視点を持たないといけません」
2つ目に重要なアプローチとは、「人間をちゃんと考えること」だと須藤氏は語る。一体どういうことなのか。
「デジタルにしたからといって、『人』が要らなくなるわけではありません。DXを推進する場合、具体的にどのような人材がどんな場面で必要かを考えなければいけません。社員のモチベーションも同じく重要になってきます」
3点目に「収益性」を挙げた。「その上で、『収益性』を考えることで、はじめてビジネスプロデュースができるのです」。
提供:Kaizen Platform
DX推進ではこれら3つのアプローチを同時に進めなければいけないのだ。DXが難しいわけであると須藤氏は強調する。

全く逆からの、2つのアプローチ

現在、あらゆる業界のDXを支援し推進している須藤氏。顧客の現状を考察しながら、解くべき企業の問題は大きく2つあると話す。
須藤氏が考える、企業が解くべき問題とは
✔︎属人化した業務のプロセスのDX
✔︎提供価値のDX
解くべき問題の一つが「業務プロセス」である。「実は、大企業のあらゆる業務プロセスは、かなり属人化しています。この属人化を解決するために、どうテクノロジーを活かしていくべきかを考えなければいけません。業務のDXと聞くと、AIのようにツールを使って業務を統一化したり、集約化したりすることだけを考えてしまうでしょう」
ただ、業務プロセスだけDXしても、肝心の他社との差別化は叶わないという。
もう一つは「提供価値」。「それぞれの企業が持つ『提供価値』をなんとか差別化し、『付加価値を再創造』していく必要があるのです。この2つのアプローチ、同時に行う必要がある一方で、非常に難しいのです」。
提供:Kaizen Platform
「業務プロセスのデジタル化」と「提供価値のDX」。DXを成功させる上で最も大切な2つのアプローチの組み合わせこそ、DX成功の鍵であると須藤氏は説いた。
確かにSaaSプロダクトを組み合わせて導入すれば、業務のプロセス自体はDX化できるかもしれない。一方で顧客へ届ける「提供価値」も同時に考えねばならず、それには多くの思考と調整がないと実現できないのだと、須藤氏は講演の最後に語った。

難題。「DXできる人」がいない

続く麻生氏の講演は、DX人材と組織に主眼に置いた内容となった。社員のDX力が高まる学びの仕掛けとは一体。
「ITツールをただ使うだけのDXは、『DXの入口に立った』だけにしか過ぎません。デジタルを導入する上でビジネスモデルの変革が必要であり、そうすることで新しい顧客体験の創造や新しい価値の創出が可能になる。ここまで実現できて、初めてDXに意味があります」と麻生氏。
DXは事業変革の本丸である以上、全ての企業が避けて通れないテーマなのだ。
NewsPicks for Buisinessという法人向け事業部門の中で、数十社の大企業の変革に携わってきた麻生氏が、普段顧客企業と向き合いながら感じる大きな課題の一つは「DX人材不足」であると強調する。

「マーケットを探してもいない」DX人材を定義

DX人材がいない。麻生氏は、顧客から聞こえてくるこの課題を深掘りし、「DX人材」をこのように定義した。
「DX人材を、デジタルやITに詳しい人であると短絡的に定義してしまうのはもったいないです。本物のDX人材は、何かしらツールを導入し業務をデジタル化するだけではありません。業態変革を試みる際、デジタルの力で業態変革を実現できるビジネスリテラシーを持った人材です」
Copyright 2020 NewsPicks inc.
このようなDX人材は不足しているどころか、そもそもマーケットを探してもそんな人材がいないのが課題なのだという。
「そこで僕が考えた解決法は、『今いる社員をDX人材に”リスキリングする”ことです。つまり、社員を育成し直すことができるかどうかが、企業にとって非常に重要なのです」
それでは、どのようにDX人材を育てればいいのか。一体どのようなスキルやマインドが必要なのだろうか。
「DX人材育成には、ただプログラミングを教えればいいわけではありません。デジタルによるビジネスリテラシーを装着することが大切です。過去の事例を分析し、フレームワーク化して再現性を持たせることです。大企業の中には、いわゆる階層型研修など、人材育成の取り組みがあると思います。ただ、今の研修だけだとこれから学ばなければいけないDXのテーマにおいては、機能不全に陥ってしまいます」
Copyright 2020 NewsPicks inc.
その上で、DX人材育成に欠かせないことをこう定義した。
「自社にとっての正解が違う領域の中、日々アップデートされる情報にどうやって追いついていくか。経験しきれずアップデートされ続ける概念を、どうやって継続的に学ばせていくのか。
この時代の一番大きい変革の鍵は、企業で働く社員自身がどう変わるか。人と組織をどう変えるのかというところです」

「学び1.0」から「学び2.0」へ

今までの一般的な大企業の集合型研修だけだと通用しない。社員と組織が変わる学びとは。
麻生氏は続ける。
「これまでの学びは過去の成功テーマを演繹(えんえき)し、フレームワーク化できるものでした。正解がないこれからやってくる未来を、どうやって学ぶのか。学ぶ内容のシフトとアップデートが非常に重要だと考えています」
未来を、いかに学ぶべきか。「僕が3つ学んだほうがいいと考えるテーマがあります。テクノロジー、ビジネスモデル、社会動向。これらを踏まえて、世界の先進事例から学ぶ必要があります。DXは今まさに起こりつつある話なので、教科書なんてありません。体系化したフレームができるのはきっと20年後ぐらい。他社事例から学ぶしか、学びようがないのです」
Copyright 2020 NewsPicks inc.
DX人材になるステップとして、事例学習の仕方を身につける必要があるのだと説く。
事例学習の仕方とは、いかに。
「どうしても他人事になりつつある話ですが、他社の事例を強引にでもいいから自社の文脈に引き込みながら学ぶことができるかどうか。コンテキストメイキング力ですね。学ぶツールについては、『学ぶ元ネタ』を変える必要があります。これまではテキストや数式、ロジックが有効だった学びから、今後は正解がないものを感覚的に捉えていかないといけません」
使う脳も違うのだという。「左脳じゃなくて右脳。論理で理解する学び方ではなく、感情や感性など感覚で理解することが非常に重要です」
Copyright 2020 NewsPicks inc.
「体験とテキストの間をとると、動画学習に辿り着くと思います。テキスト学習よりも動画の方が学びの価値と効率が高まっていくと、僕たちは手応えからそう言えます。NewsPicks for Buisinessが企業向けに提供しているのが、『MOOC Enterprise』という映像学習のプラットフォームです。最先端の領域でビジネスに携わる専門家講師陣が授業を行います。須藤さんのDX講義もあります。一話が3分×10本で、隙間時間を使って学べます。
動画とは別でNewsPicks Enterpriseという企業内で使えるNewsPicksも提供しています。社員同士でニュースやコンテンツをもとに議論ができる空間です。NewsPicksの中に学びの空間をつくる、そういう仕掛けを作り、私自身、『学び2.0』の場を実現してきました」
DXのプロ須藤氏によるDX推進の異なる2つのアプローチと、NewsPicks 麻生氏によるDX人材育成の要諦。本格的にDXを進める上で押さえておきたい。
後編では、大企業4社のDXを実際に推進する「現場のプロ」たちが、DXの軌跡と課題について経験をもとに語る。東急不動産、電通、三菱食品、大日本印刷から、「他社事例」としてDXを学ぼう。
NewsPicks for Business × Kaizen Platformが手がけるDX人材育成プログラム「DX Academia」。
問い合わせはこちら